2015年7月24日金曜日

■心停止に使用する薬剤

心肺蘇生の際、一番に必要とされるのはいかに酸素を供給するかということである。
そのためには、冠灌流圧が重要であり、冠灌流圧は大動脈圧と右房圧の差であらわされる。


血管収縮薬
心血管作動薬が生存退院や神経学的転帰を改善するという根拠は乏しいが、自己心拍再開と短期間の生存率を改善するというエビデンスが存在する。

▽アドレナリン(ボスミン注1mg/ml)
≪作用機序≫
交感神経のα1、α2、β1、β2受容体刺激作用を有する。
このα受容体刺激作用に血管収縮作用があり、蘇生時に有用であると考えられている。
特にα2受容体を刺激すると中枢神経系では、血管拡張作用を示すものの、末梢血管に対しては血管収縮作用があり、その結果冠灌流圧を上昇させるため、蘇生に対して有用となる。
≪適応≫
成人および小児・乳児において心室細動(VF)、無脈性心室頻拍(pulselessVT)、無脈性電気活動(PEA)、心静止(Asystole)などの心停止。
蘇生後の昇圧、不安定な徐脈()低血圧、アナフィラキシー、喘息にも効果がある。
≪用法≫
心停止時:成人では1回量1mgを35分間隔で静注する。JRC G2010では推奨する記述はないが、静脈路および骨髄路のいずれも確保できない場合に気管内投与を行ってもよい。その場合は一般に静脈内投与量の22.5倍を510mlの精製水または生理食塩水で希釈して投与する。高用量を用いても生存率は改善しない。
≪注意≫
血圧上昇と心拍数の増加によって心筋虚血を促進することがある。
β受容体刺激作用は、心筋の仕事量を増やし心内膜下の流れを減少させるという報告があり、蘇生後も効果が継続する。

▽バソプレシン(ピトレシン注射液20単位)
≪作用機序≫
非アドレナリン性の血管収縮薬で、平滑筋の受容体を刺激し、末梢血管を収縮させ、血圧を上昇させる。
アドレナリン受容体を経由しないため蘇生において副作用となり得る心筋に対するβ作用はない。
アドレナリンより作用時間が長い(半減期1020)ため、1回の投与でよい。
≪適応≫
アドレナリンは、アシドーシスの進行により血管収縮作用が弱くなり、心筋酸素消費量を増加させるため、アドレナリンの代用としてVF/無脈性VTPEAAsystoleに使用できる。
アドレナリンと同様、心停止例の短期予後を改善することから、成人において投与を考慮してもよい。
小児・乳児に対しては、否定や肯定をするだけのデータが十分にない。
バソプレシンの効果無効時は、35分後にアドレナリンを追加投与する。
≪用法≫
1回投与量40単位(2A)を静脈内投与する。
ただし、保険適応外の使用となる。

▽アトロピン(アトロピン硫酸塩注0.5mg)
≪作用機序≫
平滑筋・心筋・外分泌腺などを支配するコリン作動性筋後繊維に作用し、副交感神経を遮断し、迷走神経を阻害する。
低用量(0.25mg)で徐脈、高用量で心拍数を増加させる。
≪適応≫
徐脈・結節レベルでの房室ブロックに使用する。心静止でアドレナリンが無効の場合には、アトロピンを考慮する。PEA・心静止のいずれにもルーチン使用を推奨しない。
≪用法≫
不安定な徐脈:10.5mgを35分おきに総投与量1.53mgまで反復投与する。
心静止:1mg静脈投与し、35分ごとに総投与量3mgまで反復投与する。
≪注意≫
心筋梗塞に併発する徐脈、房室伝導障害では、アトロピンにより心拍数が増加して心筋虚血が進行し、VF/VTを誘発することがある。


②抗不整脈薬
VF/無脈性VTに対しては電気ショックとCPRを優先するが、電気ショックとアドレナリンなどの血管収縮薬に反応しない場合、あるいは再発を繰り返す場合には抗不整脈薬考慮する。
▽リドカイン(キシロカイン静注用2100mg/5ml)
≪作用機序≫
Na+チャネル遮断薬
活動電位持続時間の短縮作用をもつ。
Na+チャネルを遮断し、細胞内へのNa+流入を抑制し、活動電位の立ち上がりを遅延させ伝導速度を低下させる。
K+チャネルを開口し、細胞外へのK+流出を促進し、活動電位時間を短縮させる。
≪適応≫
期外収縮・発作性頻拍・心筋梗塞・手術時の心室性不整脈に用いる。
VF/無脈性VTに、アミオダロンやニフェカラントが使用できない場合には、効果が劣るが使用してもよい。
≪用法≫
初回11.5mg/kgを静脈内投与、VF/無脈性VTが持続する場合には、0.50.75mg/kgを510分毎に投与。
総投与量は、3mg/kgまで。

▽アミオダロン(アンカロン注250)
≪作用機序≫
K+チャネル、Na+チャネル、Ca+チャネル遮断作用を有する。
抗アドレナリン作用も有する。
≪適応≫
血行動態が安定した単形成VTに対しては、重症心不全や急性心筋梗塞の有無にかかわらずアミオダロンを使用することは理に適っている。
しかし、我が国ではVFと不安定VTが適応症として認可されている。
ショック抵抗性あるいは、再発性のVF/無脈性VTに、アミオダロン静脈内投与が推奨されている。
初回適応量は、300mg1回、追加投与量は150mgである。
≪注意≫
間質性肺炎、肝機能障害、Torsade de pointes、徐脈からの心停止などの重篤な副作用がある。十分な経験がある医者が、緊急対応可能な施設で使用する。
同一のラインで他剤を投与しない。
ポリ塩化ビニル製の輸液セットは使用しない(アミオダロンが吸着し、DEHP[フタル酸ジ-2-エチルヘキシル]を含むポリ塩化ビニル製の輸液セットを使用するとDEHPが溶出する。)

▽ニフェカラント(シンビット静注用50mg)
≪作用機序≫
心筋に存在するK+チャネルを抑制する。
≪適応≫
清明に危険があり、他の抗不整脈薬が無効か使用できないVFか無脈性VTに用いる。
難治性、あるいは、再発性のVF/無脈性VTにニフェカラントの投与を考慮してもよい。
≪用法≫
単回静注法:0.3mg/kgを5分かけて心電図の連続監視下に静脈内投与する。
維持静注法:単回維持法が有効で効果の維持が期待する場合、0.4mg/kg/時で心電図の監視下に静脈内投与する。
≪注意≫
QT延長症候群の患者にVT(Torsade de pointesを含む)を誘発する危険がある。
アミオダロンと併用するとQT延長作用が増強し、Torsade de pointesを誘発する危険があり、併用禁忌である。
十分な経験のある医師が、緊急対応可能な施設で使用する。

◆以上のようにリドカイン・アミオダロン・ニフェカラントの薬理作用は異なっているが、臨床現場でおける3剤の使い分けの基準は明確ではなく、各施設で独自に行っているのが現状である。


③その他の薬剤
▽マグネシウム(硫酸Mg補正液1Eq/ml)
≪作用機序≫
血中のMg2+が増加してCa2+との平衡にが崩れて血管平滑筋を弛緩させ、血圧を低下させる。
≪適応≫
心停止におけるマグネシウムの有用性は認められていなかったが、QT延長を伴う多形成VTもしくは低マグネシウム血症が疑われるVTに用いる。
ジギタリス中毒による重篤な心室性不整脈に用いる。
≪用法≫
硫酸マグネシウム12gを5%ブドウ糖液10mlに溶解し、12分で静注する。

▽炭酸水素ナトリウム(メイロン静注8.4)
≪適応≫
代謝性アシドーシス、高カリウム血症、三環系抗うつ薬による心肺停止。
≪用法≫
1Eq/kgを静注する。
≪注意≫
心停止に対し、ルーチン投与することは推奨されない。
炭酸水素ナトリウムの悪影響に関しては、冠灌流圧の低下、細胞外アルカローシスによるヘモグロビンからの酸素放出の阻害、高ナトリウム血症による高浸透圧血症、二酸化炭素産生増加による細胞内アシドーシスが有害作用として示唆されている。

▽カルシウム(カルチコール注射液8.55ml)
カルシウムは、高カリウム血症や低イオン化カルシウム血症(複数回の輸血後)やカルシウム拮抗薬中毒、β遮断薬中毒に対して有用とされている。
一方、院内および院外心停止患者に対してカルシウムをルーチン投与することは推奨されていない。
≪作用機序≫
カルシウムは、カリウムの心筋興奮作用に拮抗する。
数分で効果発現するため、高カリウム血症の緊急治療薬の第一選択薬として用いられる。高カリウム血症があっても心電図異常がない場合は、カルシウムの適応とはならない。カルシウムの効果は、2030分しか持続しないため、他治療の効果の発現を待つ間の手段と考え使用する。
≪適応・用法≫
高カリウム血症(重度7mEq/):心停止時は、8.5%グルコン酸カルシウム1735mlを急速静注。
≪注意≫
急速な静脈内注射によって、動悸・徐脈・血圧変動・熱感・紅潮・発汗などが現れることがあるので、静注は緩徐に行う。
心停止を引き起こすことがあるので、ジギタリス製剤とは、併用禁忌である。
静脈炎、血管外漏出時の組織壊死。

▽細胞外液型輸液(生理食塩液・ラクテック注・ビカーボン注・ヴィーン注)
心停止に対する輸液療法については、エビデンスが少なく、有害性、有益性を論じることは困難であるが、循環血液量が減少している非心肺停止患者の治療時には、生理食塩液・酢酸リンゲル液・乳酸リンゲル液・重炭酸リンゲル液などの細胞外液補充を用い、急速輸液不可を行う。いずれにしても、薬剤投与のルート確保の点でも点滴ルートを確保することが求められている。
心停止中の輸液は、低血糖がない限り、ブドウ糖を含む溶液は避けるべきである。



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