2026年8月2日日曜日

褥瘡治療の基本的な考え方:処置の多様性と皮膚潰瘍治療の3ステップ【褥瘡・NSTシリーズ⑨】

 「褥瘡の治療はこれが正解!」という絶対的な答えはありません。今回は褥瘡治療の多様性と、薬剤師が知っておくべき基本的な考え方を解説します。


褥瘡治療に「絶対の正解」はない

褥瘡治療には、必ずこれをしなければいけないという絶対はありません。一つの傷に対しても何通りもの考え方・治療法があります。

例えば——

皮膚科の先生は外用剤(塗り薬)を塗ることを好む傾向があります。

形成外科の先生はデブリードマン(壊死組織の切除)をして創傷被覆剤を貼ることを好む傾向があります。

ラップ療法を使う先生もいます(食品用ラップで創を覆う)。

マゴットセラピーを使う先生もいます(医療用ウジ虫で壊死組織を除去する)。

どれが「正しい」というわけではなく、それぞれの先生の経験・哲学・患者さんの状態によって最適解が変わります。


褥瘡治療に必要な要素

処置だけで褥瘡は治りません。褥瘡治療には以下の要素が複合的に関わります。

  • 薬剤(外用薬)
  • 創傷被覆剤(ドレッシング材)
  • 体位交換(圧力の除去)
  • マットレス(体圧分散)
  • 栄養状態(低栄養では治らない)
  • 血流(末梢循環の改善)

「創の処置をしているのに良くならない」という場合、処置以外の要素に問題があることが多いです。特に栄養状態と血流は治癒に直結するため、薬剤師・管理栄養士の介入が重要になります。


皮膚潰瘍治療の基本的な考え方:3ステップ

褥瘡を含む皮膚潰瘍の治療は、以下の3ステップで考えます。

Step 1:壊死があれば除去を図る

壊死組織は創傷治癒を妨げる最大の要因です。

方法:外科的切除(デブリードマン)または外用剤による自己融解の促進

注意点:

  • 特に浸出液の多い壊死は積極的に除去する
  • 乾燥している壊死は少し待ってもいい場合もある(自己融解を促してから)
  • 血流障害による潰瘍(糖尿病性壊疽・虚血性潰瘍)は触らない方がいい場合もある

Step 2:感染があれば対策を図る

感染は創傷治癒を大きく妨げます。

感染の徴候:

  • 浸出液の増加・性状の変化(膿性)
  • 創周囲の発赤・熱感・腫脹・疼痛
  • 臭いの増強(感染臭)
  • 全身症状(発熱・白血球上昇・CRP上昇)

感染対策:抗菌薬を含有する外用剤の使用(ゲーベンクリーム・ネグミンシュガーなど)

Step 3:壊死・感染が軽快したら肉芽形成促進・上皮化を図る

壊死除去・感染コントロールができたら、いよいよ肉芽形成と上皮化の段階です。

使用するもの:肉芽形成促進薬(フィブラストスプレー・アクトシン軟膏)・創傷被覆剤

全ての時期において創の清浄化(洗浄)に努めることが重要です。


褥瘡の色調と病期の関係

褥瘡の色は病期(治癒段階)を表しています。「NERB分類」(日本褥瘡学会の考え方)で整理します。

黒色期(Necrotic:壊死期・炎症期) 黒色〜茶褐色の壊死組織がある状態。 → まず壊死組織の除去が必要

黄色期(Fibrinous:感染期・不良肉芽) 黄色い壊死組織・膿性浸出液がある状態。感染が多い。 → 感染コントロール・壊死除去

赤色期(Granulation:肉芽増殖期) 赤い良性肉芽が形成されている状態。 → 肉芽形成の促進・創の保護

白色期(Epithelialization:上皮形成期) ピンク〜白色の上皮が伸びてきている状態。 → 上皮化の促進・保護


褥瘡アセスメントで「なぜできたか」を考える

褥瘡の傷をアセスメントして「どうやってできたのか」を分析することが大切です。

傷ができた原因がわかれば、対策が立てられます。

例えば:

  • 仙骨部褥瘡 → 体位変換が不足している? マットレスが合っていない?
  • 踵骨部褥瘡 → 踵をフリーにするポジショニングができているか?
  • 耳介部褥瘡 → 酸素マスクや医療デバイスによる圧迫では?

原因を特定することで、処置だけでなく発生予防策が打てます。


まとめ

  • 褥瘡治療に「絶対の正解」はない。医師によってアプローチが異なる
  • 処置だけでなく栄養・血流・体位・マットレスが全て関係する
  • 皮膚潰瘍治療の3ステップ:壊死除去→感染対策→肉芽形成促進
  • 全時期で創の清浄化(洗浄)が最重要
  • 色調(黒→黄→赤→白)で病期を把握する

次回は「褥瘡に使う外用剤:ゲーベン・ネグミンシュガー・ブロメラインを徹底解説」です。


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モイストウンドヒーリング⑧ 

hospharブログ(病院薬剤師の専門情報)

2026年8月1日土曜日

モイストウンドヒーリング:「傷は乾かすな」が現代の常識【褥瘡・NSTシリーズ⑧】

 「傷は乾かして治す」——昔はそう信じられていました。でも今の医学では全く逆です。「傷は適切な湿潤環境に置いた方が早く治る」——これを「モイストウンドヒーリング」と言います。今回は創傷治療の根本的な考え方を解説します。


モイストウンドヒーリングとは

Moist Wound Healing(モイスト・ウンド・ヒーリング)とは、「創面を湿潤環境に置くと創傷治癒が促進される」という概念です。

1962年、Winterらが発表した新しい概念で、それ以前の「創傷は乾燥させて治療するもの」という常識を覆しました。

「傷は乾かした方が早く治るのではなく、適した湿潤環境においた方が、早く治っていく」

これが現代の創傷治療の基本となっています。


なぜ湿潤環境がいいのか

湿潤環境が創傷治癒を促進する理由は5つあります。

① 浸出液内に創傷治癒因子が含まれている 白血球・マクロファージ・細胞成長因子(サイトカイン)など、創傷治癒に必要な細胞・因子が浸出液に豊富に含まれています。

② 乾燥すると壊死が広がる 初期に生じる痂皮(かさぶた)の下が乾燥していると、残存真皮や皮下組織に壊死が生じます。

③ 自己融解(デブリドマン)が起こりやすい 湿潤環境では痂皮が生じにくく、壊死組織の自己融解が速やかに起こります。

④ 細胞の活動・遊走が促進される 炎症期・増殖期での細胞の活動や遊走が容易になります。乾燥していると細胞の活動が低下します。

⑤ 上皮細胞の遊走が速い 乾燥している痂皮の下を進む場合と、湿潤環境下で下床組織の活性が高い場合では、上皮細胞の遊走速度が違います。


身近な例で考える

小さい切り傷の治し方を考えてみましょう。

昔の常識(乾燥療法): 傷をオキシドールで消毒 → 乾燥させてかさぶたを作る → かさぶたが剥がれて治癒

現代の方法(湿潤療法): 傷を水で洗浄(消毒しない) → バンドエイドで保護 → 浸出液を適度に吸収させ湿った環境を維持 → 治癒

バンドエイドで傷を保護し、浸出液を適度に吸収させ、湿った環境を整えてあげる方が傷は早く治ります。これが湿潤療法の最もわかりやすい例です。


浸出液は「悪者」じゃない

湿潤療法を始めると、浸出液が増えたように感じることがあります。また、臭いが強くなることもあります。

「感染したのでは?」と心配する声も聞きます。でも——

浸出液と感染の関係

浸潤治療を行うと → 浸出液が増える・臭いが強くなる 創感染が起こると → 浸出液が増える・臭いが強くなる

見た目は似ていますが、「浸潤治療=感染しやすい」ではありません。

「感染している創はにおう」はおおむね正しい。でも「においる創は感染している」とは限りません。

浸出液の量・色調・粘稠度・臭いなどを総合的に評価することが重要です。


なぜ傷は臭うのか

浸出液が臭う理由を化学的に説明すると——

たんぱく質はアミノ酸が結合したものです。アミノ酸は:

  • アミノ基(NH2)→アンモニア(NH3)に変化 → においます
  • カルボキシル基(COOH)を持つ酸 → 酢酸(CH3COOH)など → においます

また皮膚には、においやすい構造があります:

  • 角質・毛はシステイン(硫黄含有アミノ酸)を多く含む
  • 硫黄化合物はにおいます(例:硫化水素)

皮膚が融解するとにおいがきつくなりますが、これは感染でも湿潤治療でも起こります。


創傷治療の3大コンセプト

モイストウンドヒーリングに基づく現代の創傷治療の基本コンセプトは3つです。

① 傷を乾かしすぎないこと 適切な湿潤環境を維持する。乾燥させると創傷治癒が遅延します。

② 傷を湿らせすぎないこと 過剰な浸出液は創周囲の皮膚を浸軟(ふやける)させ、創傷治癒を阻害します。適切な浸出液管理が必要です。

③ 消毒しないこと 消毒薬(イソジン・オキシドールなど)は細菌だけでなく正常な細胞(線維芽細胞・白血球)にも有害です。消毒は創傷治癒を妨げます。

ガーゼを貼り消毒をすると創感染が増加するという研究結果もあります。

洗浄は水(生理食塩水)で、消毒はしない。 これが基本です。


なぜ傷が治らないのか

逆に傷が治らない原因を整理すると:

  • 壊死組織または組織の損傷(血流障害を含む)があるから
  • 炎症または感染があるから
  • 皮膚の湿潤性の異常(過乾燥または過湿潤)があるから
  • 上皮形成の遅延があるから

これらの問題を解決することが褥瘡治療の根本です。


まとめ

  • モイストウンドヒーリング:「傷は湿潤環境に置いた方が早く治る」1962年Winter発表
  • 湿潤が良い5つの理由:創傷治癒因子・壊死防止・自己融解・細胞活動・上皮遊走促進
  • 「傷はにおう=感染している」とは限らない
  • 創傷治療の3大コンセプト:乾かしすぎない・湿らせすぎない・消毒しない

次回は「褥瘡治療の基本的な考え方:処置の多様性と選択方法」を解説します。


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褥瘡とは何か⑦ 

hospharブログ(病院薬剤師の専門情報)

2026年7月31日金曜日

褥瘡とは何か?原因・ステージ分類・予防の基本【褥瘡・NSTシリーズ⑦】

 今回から褥瘡(じょくそう)シリーズに入ります。褥瘡は「床ずれ」とも呼ばれる創傷で、高齢者・長期臥床患者に多く発生します。薬剤師として知っておくべき褥瘡の基礎知識を解説します。


褥瘡とは

褥瘡(pressure ulcer / pressure injury)とは、身体に加わった外圧(圧力・ずれ・摩擦)によって、皮膚・皮下組織・筋肉などが損傷した状態です。

俗に「床ずれ(とこずれ)」とも呼ばれます。


褥瘡が発生するメカニズム

圧力(pressure) 骨突出部(仙骨・踵骨・肘・後頭部など)と床やマットレスの間の皮膚・組織に持続的な圧力がかかると、毛細血管が閉塞して血流が途絶え、組織が壊死します。

ずれ(shear) ベッドの頭部を挙上した時に、皮膚は固定されたまま体が滑り落ちようとすることで、皮膚内部でずれ力が働き組織が損傷します。

摩擦(friction) 体位変換や移動の際に皮膚が擦れることで、表面が傷つきます。


褥瘡の好発部位

体位によって発生しやすい部位が異なります。

仰臥位(あおむけ):仙骨部・踵骨部・肘・後頭部・肩甲骨

側臥位(横向き):大転子部(お尻の横)・腸骨稜・膝の内側・足首

腹臥位(うつ伏せ):額・膝・足背

仙骨部と踵骨部が最も多い発生部位です。


褥瘡のステージ分類

日本では日本褥瘡学会の「深達度分類」と、NPUAP(北米褥瘡諮問委員会)分類が使われます。

ステージⅠ(発赤) 皮膚の損傷はないが、圧力を加えても白くならない発赤(不可逆的な発赤)がある状態。皮膚は完全。

ステージⅡ(真皮に至る部分損傷) 表皮または真皮を含む浅い損傷。水泡・びらんが見られる。

ステージⅢ(皮下組織に至る全層損傷) 皮下組織まで達する全層損傷。壊死組織・肉芽組織が見られることがある。骨・腱・筋は露出していない。

ステージⅣ(筋肉・骨・支持組織に至る全層損傷) 骨・腱・筋肉が露出するほどの深い全層損傷。壊死組織が認められることがある。


皮膚の老化とドライスキン

**ドライスキン(乾燥肌)**の問題も褥瘡と密接に関係しています。

65歳以上の90%以上にドライスキンが見られます。皮膚の水分・皮脂が不足して乾燥した状態で、褥瘡発生のリスク因子になります。

皮膚の老化は18〜20歳でピークを迎え、それ以降はゆっくり低下。女性では45歳、男性では55歳頃からはっきりした皮膚の老化が始まります。

ドライスキンケアの注意点

  • 掻いてはいけない。掻くと痒みを感じる神経が伸びてさらに痒くなる悪循環に
  • 保湿剤は入浴後5分以内に塗ることが効果的
  • 尿素含有の保湿剤は傷があるとピリピリする場合がある

褥瘡発生のリスク因子

内因性リスク因子:

  • 低栄養状態(低Alb血症)
  • 浮腫
  • 感覚・運動障害
  • 失禁(皮膚の湿潤)
  • 循環障害

外因性リスク因子:

  • 圧力・ずれ・摩擦
  • 体位変換の不足
  • 不適切なマットレス

褥瘡予防の基本

① 体位変換 2時間ごとの体位変換が基本(リスクが高い場合は1時間ごとも)。ずれを作らない移動技術も重要。

② 体圧分散マットレス エアマットレス・ウレタンマットレスなど体圧を分散するマットレスの使用。

③ スキンケア 皮膚の清潔・保湿。失禁がある場合は撥水性のある保護クリームの使用。

④ 栄養管理(NSTとの連携) 低栄養は褥瘡の最大のリスク因子のひとつ。栄養状態の改善なしに褥瘡は治らない。


まとめ

  • 褥瘡=圧力・ずれ・摩擦による皮膚・組織の損傷(床ずれ)
  • 好発部位:仙骨部・踵骨部(仰臥位)
  • ステージⅠ〜Ⅳ:発赤→真皮損傷→皮下組織損傷→骨・筋露出
  • 65歳以上の90%以上にドライスキンあり。褥瘡発生リスク因子
  • 予防の基本:体位変換・体圧分散マットレス・スキンケア・栄養管理

次回は「モイストウンドヒーリング:傷は乾かすな!」を解説します。


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離島・僻地でのNST活動体験記⑥ 

hospharブログ(病院薬剤師の専門情報)

2026年7月30日木曜日

離島・僻地病院でのNST活動体験記:医師が少ない環境で薬剤師にできること【NSTシリーズ⑥】

 今回は私の体験談です。鹿児島県の離島・OKE島、そしてYG病院(僻地)でのNST活動を振り返ります。「医師が少ない環境で薬剤師にできること」——これが私のNSTの原点です。


KT病院:NST事務局の経験(2006〜2009年)

私が初めてNSTに関わったのは薬剤師歴2年目、KT病院(310床)でのことです。NST事務局を担当することになり、「NSTを良くしていきたい!」という情熱だけで動き始めました。

最初の課題:NST認知率35%

NSTを良くするためにまず必要なのは「NSTを知ってもらうこと」でした。

2009年10月、院内でのNST認知率はわずか35%

実施した啓蒙活動:

  • 病院の全体朝礼で「NSTとは」について紹介
  • 摂食・嚥下委員会で「NST活動と活動成果による効果」の勉強会
  • 褥瘡委員会で「褥瘡に使われる薬剤・ドレッシング剤」と「褥瘡と栄養」の勉強会
  • 医療安全委員会で「輸液」についての勉強会

約7ヶ月間の啓蒙活動の結果、2010年5月には認知率**71%**まで向上。


栄養サポートが必要な患者への積極的介入

啓蒙活動と並行して、栄養サポートが必要な患者を積極的に発見し介入しました。

薬剤師として実施した介入:

  • 褥瘡回診に参加し、褥瘡回診時に栄養面も評価
  • Hb低値の患者の原因を考え、貧血食・鉄剤・ビタミンC・葉酸などの提案
  • 経口食事摂取量の少ない患者に補助食品の提案
  • 誤嚥の多い患者にACE阻害薬などの提案
  • 嘔吐の多い患者にドンペリドン・モサプリドなどの提案
  • BUN/Cre比をチェックし脱水や過剰たんぱく質の評価
  • TPN・PPNの投与量最適化提案

OKE島:離島のNST(2009〜2011年)

鹿児島の南西、奄美大島のさらに南にあるOKE島。人口約13,000人の離島にあるOT病院(132床)に異動しました。

離島ならではの制約

  • 専門医が少ない(場合によっては医師2〜3名体制)
  • 検査の種類に制限がある
  • 物資の調達に時間がかかる
  • 島の外への搬送は時間と費用が大きくかかる

このような環境で「NST活動ができるのか?」と思いましたが、逆に気づいたことがありました。

離島だからこそ薬剤師が輝く

医師が少ない環境では、薬剤師が積極的に情報収集・提案をしなければ患者さんの栄養管理が後回しになりやすい。

「今日の外来が終わったら、栄養状態が気になる患者さんを先生に相談しよう」「この点滴の組み合わせ、カロリーが足りていないと思いますが変えませんか?」

医師との距離が近い離島の病院だからこそ、薬剤師からの提案が直接届きやすいのです。

数値での成果: 脂肪乳剤(イントラファット)使用量が月平均17本→46.8本へ。ビーフリード採用後は月平均222.8本の使用実績。これは「適切な栄養管理が院内に浸透した」証拠です。

沖永良部病院での創傷被覆材の整備

NSTと並行して、褥瘡ケアの整備にも力を入れました。当時採用されていなかった創傷被覆材を順次採用し、「浸出液量に応じて選べる体制」を作りました。


NST専門療法士の取得(2010年)

OT病院でのNST活動を経て、2010年にNST専門療法士を取得しました。

NST専門療法士とは、日本静脈経腸栄養学会(現:日本臨床栄養代謝学会)が認定する資格で、医師・歯科医師・薬剤師・看護師・管理栄養士・臨床検査技師など多職種が取得できます。

取得のためには:

  • 5年以上のNST活動実績
  • 規定の講習・研修の受講
  • 資格認定試験の合格

薬剤師がNSTで大切にしてきたこと

10年以上のNST活動を通じて学んだことを一言で表すと——

「患者さんの栄養状態を数字で語れる薬剤師になること」

「なんとなく栄養が足りていないかも」ではなく、「現在の輸液で○kcal・アミノ酸○g。必要量は体重60kgとして1500kcal・60g/日なので、○○が不足しています。ビーフリードへの変更と脂肪乳剤の追加を提案します」と具体的に話せるかどうかが、医師に信頼される薬剤師かどうかの分かれ目です。


まとめ

  • KT病院でNST事務局としてゼロから立ち上げ。認知率35%→71%
  • 脂肪乳剤使用量が月17本→46.8本に増加。ビーフリード採用で月222.8本の実績
  • 離島・僻地では医師が少ないからこそ薬剤師の積極的な提案が重要
  • 「栄養状態を数字で語れる薬剤師」が目標

次回から褥瘡シリーズとして「褥瘡とは何か?原因・ステージ分類」を解説します。


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経腸栄養・TPN・PPNの選択⑤ 

hospharブログ(病院薬剤師の専門情報)

2026年7月29日水曜日

経腸栄養・経静脈栄養の選択:TPN・PPN・ENの違いと使い分け【NSTシリーズ⑤】

 栄養投与ルートの選択は、患者さんの回復速度に大きく影響します。「経口が無理なら全部点滴で」という考え方では不十分です。今回はEN・PPN・TPNの違いと使い分けを解説します。


栄養投与ルートの全体像

栄養投与ルートは大きく2種類に分かれます。

栄養投与ルート
│
├─ 経腸栄養(EN:Enteral Nutrition)
│   ├─ 経口摂取
│   ├─ 経鼻チューブ(NGチューブなど)
│   ├─ 胃瘻(PEG)
│   └─ 腸瘻
│
└─ 経静脈栄養(Parenteral Nutrition)
    ├─ 末梢静脈栄養(PPN:Peripheral Parenteral Nutrition)
    └─ 中心静脈栄養(TPN:Total Parenteral Nutrition)

基本原則:「腸が使えるなら腸を使う」

NSTの基本原則は「If the gut works, use it!(腸が動いているなら腸を使え)」です。

経腸栄養が優先される理由

① 腸管免疫の維持 腸を使わないと腸管バリア機能が低下します。腸内細菌のバランスが崩れ、細菌が腸壁を通過して菌血症を起こしやすくなります(バクテリアルトランスロケーション)。

② 感染性合併症の減少 中心静脈カテーテルを使用するTPNではカテーテル感染(カテーテル敗血症)のリスクがあります。

③ コストが安い 経腸栄養剤はTPN製剤より格段に安価です。

④ 生理的 消化管を通るという「本来の経路」で栄養を摂ることができます。


EN(経腸栄養)の種類

経鼻チューブ(NGチューブ)

  • 鼻からチューブを胃・十二指腸・空腸に挿入
  • 短期間の使用(4週間程度まで)に適する
  • デメリット:患者さんの不快感が大きい・自己抜去が多い

胃瘻(PEG:経皮内視鏡下胃瘻造設術)

  • 内視鏡で胃に穴を開けてカテーテルを留置
  • 長期間の経腸栄養に適する
  • 嚥下障害がある患者さんでも安定した栄養投与が可能
  • デメリット:造設に手術が必要

腸瘻

  • 空腸に直接チューブを挿入
  • 胃への逆流が多い・胃切除後の患者に使用

PPN(末梢静脈栄養)の特徴

使用できる場面

  • 短期間(1〜2週間程度)の補助栄養
  • 経腸栄養では不足するカロリーの補充
  • 経口・経腸栄養への移行期

PPNの制限

  • 末梢静脈は高浸透圧の輸液を流せない(静脈炎を起こす)
  • 投与できるカロリーが限られる(1日1000〜1200kcal程度が上限)
  • たんぱく質の補給量も限られる

代表的なPPN製剤

  • ビーフリード500ml(210kcal・アミノ酸15g)
  • エルネオパ1号(TPN製剤だが末梢から使えるタイプ)
  • 脂肪乳剤(イントラリポス)を側管から追加してカロリー補充

TPN(中心静脈栄養)の特徴

使用できる場面

  • 経腸栄養・PPNで必要なカロリーが確保できない場合
  • 消化管の使用が困難な場合(腸閉塞・消化管手術後など)
  • 2週間以上の完全静脈栄養が必要な場合

TPNのメリット

  • 高カロリーの投与が可能(1日1000〜2000kcal以上)
  • 完全な栄養素(糖質・アミノ酸・脂肪・ビタミン・微量元素)を投与できる

TPNのリスク

  • CVC(中心静脈カテーテル)挿入に伴う合併症(気胸・血胸・感染など)
  • カテーテル感染(カテーテル敗血症):最も重篤な合併症
  • 長期使用で腸管が廃用萎縮する

代表的なTPN製剤

製剤名カロリー特徴
エルネオパ1号(1000ml)560kcal電解質・ビタミン・微量元素含有
エルネオパ2号(1000ml)820kcalアミノ酸量が多い
ハイカリックRF(500ml)1000kcal腎不全対応・アミノ酸なし

TPN製剤に脂肪乳剤を追加する意義

TPN製剤だけでは必須脂肪酸が補充できません。長期TPN患者では必須脂肪酸欠乏が起こることがあります。

週2〜3回の脂肪乳剤(20%イントラリポス 100ml)の追加投与が推奨されています。


栄養投与の選択フローチャート

腸が使えるか?
  │
  YES → 経口摂取は可能か?
  │       YES → まず経口で
  │       NO  → 経腸栄養(NGチューブ・胃瘻)
  │
  NO → 短期間(2週間以内)か?
         YES → PPN(ビーフリード+脂肪乳剤など)
         NO  → TPN(中心静脈カテーテル)

まとめ

  • 「腸が使えるなら腸を使う」が基本原則
  • PPN:短期・補助的・1日1000kcal程度が上限
  • TPN:完全栄養補給可能だがカテーテル感染リスクあり
  • TPN長期使用時は必須脂肪酸補充のため脂肪乳剤を追加する

次回は「離島・僻地病院でのNST活動体験記」をお届けします。


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