コーチングを学んできて、今回は一度立ち止まって本質を考えます。「正そうとするな、わかろうとせよ」——この言葉がコーチングのすべてを表しています。
医療従事者が「正そうとしてしまう」理由
私たち医療従事者は「患者さんを正しい方向に導く」ことに使命を感じています。これ自体は素晴らしいことです。
しかし、その使命感が強くなりすぎると——
「なんで薬を飲まないの!」 「血圧が高いのに、なぜ塩分を制限しないの!」 「言ったことを守ってくれれば良くなるのに!」
これは「相手を正そうとしている」状態です。
正そうとする力が強ければ強いほど、相手の心は閉じていきます。
「わかろうとする」ことの力
コーチングは「わかろうとする」ことから始まります。
「なぜ薬を飲めないのか、わかろうとする」 「なぜ血圧が高いままなのか、わかろうとする」 「この患者さんの生活・価値観・不安を、わかろうとする」
「わかろうとする」姿勢は相手に伝わります。「この人は私のことをわかろうとしてくれている」と感じた瞬間、患者さんの心が開き始めます。
横文字・専門用語に要注意
コーチングを学んでいると、どうしても専門用語を使いたくなります。「アドヒアランス」「コンプライアンス」「動機づけ面接」——これらを患者さんに使っても全く伝わりません。
同職種(薬剤師同士)であれば専門用語が共通言語になり、会話が深まることもあります。でも患者さんに対しては、相手がわかる言葉で話すことが最優先です。
「正しい言葉を使おうとするな、相手に伝わる言葉を選ぼう」
これもコーチングマインドのひとつです。
コーチングの3大原則を再確認
コーチングの3原則に「わかろうとする」を重ねてみます。
① 双方向性 一方通行で「正そう」とするのではなく、相手の考えを聴きながら双方向で進む。
② 継続性 一度話して終わりではなく、継続的に「わかろうとする」関わりを続ける。
③ 個別対応 「この患者さん・このスタッフは何を感じているのか」を個別に理解しようとする。
コーチングとティーチングのバランス感覚
「コーチング9:フィードバック1」という比率で考えましょう。
9割の時間を「聴く・引き出す・承認する」に使い、1割の時間を「伝える・指摘する・提案する」に使う。
信頼貯金がたまっていない相手にフィードバックをしても、聞いてもらえません。まず信頼貯金を積む——これがコーチングが先に来る理由です。
医療従事者としての成長の学ぶ順番
医療従事者として成長するための学ぶ順番があります。
① Mind(心の状態) 「患者さんを良くしてあげたい」という気持ち。これが土台。
② Contents(内容) 提供する医療の内容・薬の知識。
③ Delivery(伝え方・表現力) 提供する医療の技術・伝え方。
多くの医療従事者は②と③ばかりを学びがちですが、①の「心の状態」が土台になければ、どれだけ知識や技術があっても患者さんには届きません。
コーチングの魅力——「扉が開く瞬間」
コーチングを学び始めた頃、ある薬局長との会話でこんな場面がありました。
私が「疑問形にするといいですよ」とコミュニケーションのコツを話していたら、
薬局長:「先生、語尾に大丈夫を付けたら、大半の部下は大丈夫ですと言いますよ」
私:「まさに。だから『どうすれば大丈夫になりますか?』と聞く方がいいんです」
薬局長:「あ〜、部下から聞き出すことが大切なのね」
——この瞬間が、コーチングの世界で言う「相手の扉が開いた瞬間」でした。
教えるのではなく、気づいてもらう。この体験を、患者さんやスタッフとの関わりの中で積み重ねていくことがコーチングの魅力です。
まとめ
- 「正そうとするな、わかろうとせよ」がコーチングの本質
- 「わかろうとする」姿勢が伝わることで相手の心が開く
- 専門用語より「相手に伝わる言葉」を選ぶ
- コーチング9:フィードバック1の比率で信頼貯金を積む
- 成長の学ぶ順番:Mind → Contents → Delivery
次回は「コーチングが機能する5つの条件——効果を最大化するために知っておくこと」を解説します。
講演・研修依頼について
「コーチングを活用した患者・スタッフとの信頼関係の作り方」研修を病院・薬局向けに承っています。 E-mail:toshiki.taura@gmail.com
≪関連記事≫