2026年8月8日土曜日

中毒の疫学・分類と初期対応ABCDEアプローチ【中毒シリーズ②】

 中毒患者が搬送されてきた時、最初の数分間の対応が予後を左右します。今回は中毒の分類と、初期対応の基本「ABCDEアプローチ」を解説します。


中毒の分類:3つの視点で整理する

① 意図による分類

意図的中毒:自殺企図・犯罪目的(薬物の過量服用・毒物の混入など)

非意図的中毒:事故・誤飲(小児の家庭用品誤飲が中心)

職業性中毒:農薬・化学物質への職業暴露

成人では意図的中毒(ODなど)が多く、小児では非意図的誤飲が大部分を占めます。

② 時間経過による分類

急性中毒:発症〜24時間以内

亜急性中毒:数日〜数週間かけて進行(例:鉛中毒の慢性化)

慢性中毒:長期暴露による蓄積(例:職業性水銀中毒)

救急外来で最も多いのは急性中毒です。

③ 暴露経路による分類

経口(最多):服用・誤飲

吸入:ガス・揮発性物質

経皮:農薬・化学物質の皮膚暴露

注射:薬物乱用

粘膜:眼・鼻腔への暴露


中毒の疫学:数字で知る

日本中毒情報センター(JPIC)への相談件数は年間約4万件

成人の中毒原因(多い順)

  1. 医薬品(向精神薬・睡眠薬・解熱鎮痛薬などの過量服用)
  2. 農薬(有機リン・パラコートなど)
  3. 家庭用品(洗剤・漂白剤・防虫剤)

小児(5歳以下)の中毒原因(多い順)

  1. 家庭用品(タバコ・洗剤・医薬品)
  2. 医薬品
  3. 食品・植物

重要なのは、小児誤飲の約70%が5歳以下ということ。チャイルドプルーフ(子供が開けにくい容器)の啓蒙も薬剤師の大切な役割です。


初期対応の原則:ABCDEアプローチ

中毒患者が搬送されてきたら、まず「ABCDEアプローチ」でバイタルサインを安定化させます。原因物質の同定は二の次です。

A:Airway(気道確保)

意識障害がある患者は舌根沈下・分泌物(流涎・嘔吐物)による気道閉塞のリスクがあります。

確認事項:

  • 気道は開いているか
  • 誤嚥の危険はないか
  • 挿管が必要か

特に有機リン中毒では大量分泌物による気道閉塞が起きやすいです。

B:Breathing(呼吸の評価)

呼吸数・呼吸の深さ・SpO₂・聴診で評価します。

薬物による呼吸抑制(オピオイド・ベンゾジアゼピン・アルコール)は致死的になりえます。

C:Circulation(循環の評価)

血圧・脈拍・心電図モニタリング。

注意が必要な所見:

  • 徐脈(有機リン・オピオイド・β遮断薬)
  • 頻脈(三環系抗うつ薬・交感神経刺激薬)
  • QRS延長(三環系抗うつ薬→炭酸水素Naが必要)
  • QT延長(抗精神病薬・抗不整脈薬)

D:Disability(意識レベル評価)

GCS(Glasgow Coma Scale)で意識レベルを評価します。

意識障害の鑑別(AIUEO TIPS)も念頭に。特に低血糖(ブドウ糖投与)の除外を優先します。

E:Exposure(全身観察・体温)

全身を観察します。体温も重要なバイタルサインです。

確認事項:

  • 皮膚の色・発汗・発疹の有無
  • 特異的な臭い(有機リン→ニンニク臭、シアン→苦扁桃臭、アルコール→アルコール臭)
  • 注射痕の有無
  • 体温(高体温→セロトニン症候群・抗コリン性、低体温→アルコール・オピオイド・バルビツール)

中毒診療の全体フロー

患者搬送
    ↓
【ABCDE】バイタル安定化
    ↓
【原因物質の同定】
  ・トキシドローム(症候群パターン)
  ・現場の情報(薬の空き瓶・家族からの情報)
  ・中毒情報センターへの相談
    ↓
【除染】
  ・活性炭投与(経口中毒)
  ・胃洗浄(適応を選ぶ)
  ・皮膚・眼洗浄(経皮・眼暴露)
    ↓
【解毒薬投与・排泄促進】
  ・特異的解毒薬(ある場合)
  ・尿アルカリ化・血液透析(適応があれば)
    ↓
【経過観察・モニタリング】
  ・合併症の管理
  ・遅発性症状に注意

情報収集で知っておくべきこと

中毒患者の情報収集では以下を確認します。

  • 何を?(物質名・商品名・成分)
  • どのくらい?(量・濃度)
  • いつ?(服用・暴露からの経過時間)
  • どのように?(経口・吸入・経皮)
  • なぜ?(意図的か事故か)

情報が不明の場合は**日本中毒情報センター(JPIC)**に相談します。24時間対応で、医療機関専用の回線があります。


まとめ

  • 中毒は意図/時間経過/暴露経路の3軸で分類できる
  • 小児誤飲の70%が5歳以下。成人ODは医薬品が最多
  • 初期対応の原則はABCDEアプローチ。まず気道・呼吸・循環を安定化
  • 体温・臭い・皮膚所見が診断の手がかりになる
  • 情報収集(何を・どのくらい・いつ)が治療方針決定の鍵

次回は「トキシドローム:5パターンで原因物質を推定する方法」を解説します。


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薬剤師が中毒医療に関わる理由① 

hospharブログ(病院薬剤師の専門情報)

2026年8月7日金曜日

薬剤師が中毒医療に関わる理由:「薬の専門家=毒の専門家」【中毒シリーズ①】

 「中毒医療って、救急医の仕事では?」——そう思っている薬剤師の方も多いかもしれません。でも実は、中毒医療こそ薬剤師が最もその専門性を発揮できる領域のひとつです。今回から中毒領域シリーズをお届けします。


「薬の専門家=毒の専門家」

薬と毒は、実は紙一重です。

「The dose makes the poison(量が毒をつくる)」——16世紀の医師パラケルススの言葉です。水ですら過剰に飲めば死に至る(水中毒)。逆に猛毒のボツリヌストキシンも、適切な量では美容・医療で使われます(ボトックス)。

薬剤師は日々「薬の適切な量」を扱っています。その知識は、裏を返せば「毒の専門的知識」でもあります。


薬剤師が中毒医療に関われる4つの理由

① 薬理学的知識

薬物の作用機序・用量反応関係・相互作用を最も深く理解しているのは薬剤師です。

「この患者さんはベンゾジアゼピンとアルコールを同時に服用した。どんな相互作用が起きる?」「有機リン系農薬を服用した患者の縮瞳・徐脈・流涎はなぜ起きる?」——これらの問いに答えられるのが薬剤師です。

② 解毒薬の管理

院内の解毒薬・拮抗薬の在庫管理・使用期限管理・緊急時の供給体制を整備するのは薬剤師の業務です。

「フルマゼニルは今すぐ何アンプル使えるか」「NAC(N-アセチルシステイン)の点滴プロトコルを設計して」——中毒発生時に最も迅速に答えられるのが薬剤師です。

③ 情報提供

日本中毒情報センター(JPIC)との連携・POISINDEX®・Micromedex®などのデータベースを使いこなし、エビデンスに基づく情報提供を行います。

「この農薬の成分を調べてほしい」「この解毒薬、添付文書にない用量だがエビデンスは?」——情報収集・提供のプロとしての役割です。

④ チーム医療

救急医・看護師・ICU担当と連携し、多職種チームの一員として中毒治療に参加します。

解毒薬の投与量設計・モニタリング計画・患者教育・二次汚染防止の指導——薬剤師がいることでチームの医療の質が上がります。


中毒の現状を知る

日本中毒情報センター(JPIC)への相談件数は年間約4万件

  • 約70%は5歳以下の小児の誤飲事故
  • 成人中毒の最多原因物質は医薬品(特に向精神薬・睡眠薬)
  • 意図的摂取(自殺企図・自傷)では医薬品の過量服用(OD)が最多

「自分の病院では中毒患者なんて来ない」と思っていても、睡眠薬の過量服用で救急搬送されてくる患者さんは、どの病院でも珍しくありません。


中毒患者に関わる薬剤師の具体的な役割

緊急時に薬剤師がやること:

  1. 解毒薬・拮抗薬の迅速な準備・調製
  2. 投与量・投与速度・投与プロトコルの設計
  3. 原因物質の同定支援(情報収集)
  4. モニタリング項目の提案(肝機能・腎機能・血中濃度など)
  5. 活性炭投与の適応判断支援
  6. 二次汚染防止の指導(有機リンなど揮発性・接触性の中毒)
  7. 患者・家族への退院後指導(再発予防・保管方法)

中毒診療の全体的な流れ

中毒患者が搬送されたら、診療の流れは以下の通りです。

① ABCDEアプローチでバイタルサインを安定化 

② トキシドロームと情報収集で原因物質を同定 

③ 除染・解毒薬投与 

④ 経過観察・合併症管理

薬剤師は②〜④のすべてのフェーズで重要な役割を担います。


まとめ

  • 薬の専門家=毒の専門家。薬剤師の知識は中毒医療に直結する
  • 薬剤師の4つの役割:薬理学的知識・解毒薬管理・情報提供・チーム医療
  • 日本の中毒相談は年間約4万件。小児誤飲・成人OD(医薬品)が多い
  • 解毒薬の調製・投与設計・モニタリング・情報収集で貢献できる

次回は「中毒の疫学・分類と初期対応ABCDEアプローチ」を解説します。


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NSTシリーズ

2026年8月6日木曜日

薬剤師がNST・褥瘡ケアに関わる意義:シリーズ総まとめ【褥瘡・NSTシリーズ⑬】

 全13回のNST・褥瘡シリーズ最終回です。「薬剤師がNSTや褥瘡ケアに関わることで何が変わるのか」を総まとめします。


このシリーズで学んできたこと

【NSTシリーズ①〜⑥】 ① NSTとは何か?誕生の歴史と意義 ② NSTの目的・役割・活動成果 ③ 薬剤師がNSTで担う役割 ④ 輸液のカロリーを正しく知る ⑤ 経腸栄養・経静脈栄養の選択(TPN・PPN・EN) ⑥ 離島・僻地病院でのNST活動体験記

【褥瘡シリーズ⑦〜⑫】 ⑦ 褥瘡とは何か?原因・ステージ分類 ⑧ モイストウンドヒーリング:傷は乾かすな ⑨ 褥瘡治療の基本的な考え方と3ステップ ⑩ 褥瘡外用剤の解説(ゲーベン・ネグミンシュガー・ブロメラインなど) ⑪ 創傷被覆材の選び方(ハイドロサイト・カルトスタットなど) ⑫ 褥瘡と栄養の深い関係


薬剤師がNST・褥瘡ケアに関わることで何が変わるか

① 「カロリーが足りていない」を発見できる

「絶食でソルデム3A×3本」の処方を見た時に、「これでは258kcal、おにぎり1.5個分しかない。ビーフリードへの変更を提案しよう」と気づける薬剤師が一人いるだけで、患者さんの栄養状態が変わります。

② 褥瘡外用剤の適切な提案ができる

「黄色壊死期に浸出液が少ない創にネグミンシュガーが処方されている」——創を乾燥させすぎる可能性があります。「ゲーベンクリームの方が適切では」と提案できる薬剤師が、褥瘡ケアの質を上げます。

③ 「この褥瘡が治らない原因は栄養だ」と言える

Alb 2.5g/dL未満の患者の褥瘡が治らない時に、「管理栄養士と連携して栄養評価・介入を提案しましょう」と言える薬剤師がチームを動かします。

④ 薬物療法と栄養療法の橋渡しができる

「誤嚥が多い患者さんにACE阻害薬の嚥下改善効果を活用できないか」「消化管運動が悪い患者さんにモサプリドを提案できないか」——薬と栄養の両面から考えられるのが薬剤師の強みです。


NSTで薬剤師が発揮できる独自価値

NST専門療法士として20年以上活動してきて感じる「薬剤師ならではの強み」は3つです。

① 輸液を「栄養」として読む力 「この点滴でどのくらいのカロリーが入っているか」「アミノ酸はどれだけ入っているか」を即座に計算できるのは薬剤師の専門性です。

② 薬物と栄養の相互作用を知っている 「葉酸とメトトレキサート」「ビタミンKとワーファリン」「亜鉛とキレート剤」——栄養素と薬の相互作用を知っているのは薬剤師の強みです。

③ 処方提案の形で医師に働きかけられる 「ビーフリードへの変更を提案します」という具体的な処方提案の形でアプローチできるのは薬剤師だけです。


病棟薬剤師・NST薬剤師に伝えたいこと

私が沖永良部島の離島病院でNSTを立ち上げた時、「こんな環境でNSTなんてできるのか」と思いました。でも医師が少ないからこそ薬剤師の関わりが大切だと気づきました。

大病院でも小さな病院でも、薬剤師がNSTに関わることで:

  • 患者さんの栄養状態が改善する
  • 褥瘡が減る・治りやすくなる
  • 在院日数が短縮する
  • 医療の質が上がる

「薬剤師がいてよかった」と思ってもらえる場面のひとつが、NST・褥瘡ケアへの関わりです。


まとめ:薬剤師に伝えたい3つのこと

① 輸液のカロリーを知ること ソルデム3A×3本=258kcal。これを知っているだけで、絶食患者への適切な提案ができます。

② 褥瘡の「色」と「ステージ」を読むこと 黒→黄→赤→白の流れと、それぞれの病期に合った外用剤・被覆材を知ること。

③ 「栄養なしに治癒なし」を伝えること Alb 2.5g/dL未満の褥瘡患者に、どんな処置をしても治癒は困難。管理栄養士・NSTとの連携を積極的に促すこと。


最後に

NST・褥瘡シリーズを通じて伝えたかったのは「薬剤師はもっと栄養と創傷ケアに関われる」ということです。

「薬の専門家」にとどまらず、「患者の栄養状態を読み、チームに提言できる薬剤師」を目指してほしいと思います。

13回、最後までお読みいただきありがとうございました!


全13記事一覧

① NSTとは何か?誕生の歴史と意義 ② NSTの目的・役割・活動成果 ③ 薬剤師がNSTで担う役割 ④ 輸液のカロリーを正しく知る ⑤ 経腸栄養・TPN・PPNの選択 ⑥ 離島・僻地病院でのNST活動体験記 ⑦ 褥瘡とは何か?原因・ステージ分類 ⑧ モイストウンドヒーリング ⑨ 褥瘡治療の基本的な考え方 ⑩ 褥瘡外用剤の解説 ⑪ 創傷被覆材の選び方 ⑫ 褥瘡と栄養の深い関係 ⑬ 総まとめ(本記事)


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田浦マインドのパーソナルブログ

講演・研修依頼:toshiki.taura@gmail.com(生駒市立病院 薬局長 田浦稔基)

2026年8月5日水曜日

褥瘡と栄養の深い関係:低栄養では創は絶対に治らない【褥瘡・NSTシリーズ⑫】

 「創の処置をしているのに、褥瘡が全然治らない」——その原因の多くは栄養状態の問題です。NST専門療法士として多くの褥瘡患者さんに関わってきた経験から、褥瘡と栄養の深い関係を解説します。


「創は体の外から治るのではなく、体の内側から治る」

褥瘡治療の本質を一言で表すなら、これです。

どれだけ優れた外用剤・被覆材を使っても、患者さんの栄養状態が悪ければ、創傷治癒に必要な材料(タンパク質・エネルギー・ビタミン・微量元素)が不足して創は治りません。


創傷治癒に必要な栄養素

創傷が治るためには様々な栄養素が必要です。

① エネルギー 創傷治癒プロセス(炎症・肉芽形成・上皮化)は通常よりも多くのエネルギーを消費します。低エネルギー状態では、筋肉が分解されてエネルギーとして使われてしまいます。

② タンパク質(アミノ酸) コラーゲン合成・肉芽組織形成・免疫機能維持に必須。低タンパク(低アルブミン血症)は褥瘡発生の最大のリスク因子のひとつです。

目安:1.2〜1.5g/kg体重/日(褥瘡患者では通常より多く必要)

③ 亜鉛 コラーゲン合成・上皮化促進・免疫機能に必須。長期臥床患者や高齢者では亜鉛欠乏が多い。

亜鉛欠乏のサイン:味覚障害・皮膚炎・脱毛・褥瘡の難治化

④ ビタミンC(アスコルビン酸) コラーゲン合成に不可欠。欠乏すると創傷治癒が著しく遅延します。

⑤ ビタミンA 上皮細胞の増殖・分化に必要。手術後・外傷後は需要が増加します。

⑥ 水分 脱水状態では血流が低下し、組織への酸素・栄養素の供給が減ります。皮膚の乾燥・弾力性低下にもつながります。


アルブミン値と褥瘡の関係

臨床でよく使われる栄養指標が**血清アルブミン(Alb)**値です。

Alb値栄養状態の判定褥瘡への影響
3.5g/dL以上正常褥瘡リスクは低い
3.0〜3.5g/dL軽度低栄養褥瘡発生・難治化リスクあり
2.5〜3.0g/dL中等度低栄養褥瘡が発生しやすく、治りにくい
2.5g/dL未満高度低栄養褥瘡発生率が著しく高く、治癒困難

Alb 2.5g/dL以下では、どんな処置をしても褥瘡はとても治りにくいです。


褥瘡患者の栄養評価ポイント

薬剤師がNSTで確認すべき褥瘡患者の栄養評価ポイント:

① 体重・BMI 体重減少(1ヶ月で5%以上、3ヶ月で10%以上)は重篤な栄養不良のサイン。

② 血清アルブミン(Alb) 栄養状態の指標。ただし炎症があると低値になるため、CRPと合わせて評価。

③ 血清プレアルブミン(トランスサイレチン) 半減期が約2日と短く、短期間の栄養状態の変化を反映しやすい。

④ 総リンパ球数(TLC) 免疫能の指標。低栄養では低下する。

⑤ 食事摂取量 「食べられているか」の確認。何kcal摂れているかを実際に把握する。


栄養補助食品の活用

食事だけでエネルギー・タンパク質を充足できない褥瘡患者には、栄養補助食品(ONS:Oral Nutritional Supplements)が有効です。

褥瘡に特化した栄養補助食品の例:

  • アルギニン・亜鉛・ビタミンCを強化したもの(エンシュア・リキッドなど)
  • コラーゲン前駆体(グリシン・プロリン)を含むもの

薬剤師からの提案例: 「Alb 2.8g/dL、食事摂取量60%程度の褥瘡患者さんに、管理栄養士と相談の上、アルギニン・亜鉛・ビタミンC強化の経口補助食品の追加を提案します」


私の臨床経験から

KT病院でNST活動を始めた当初、褥瘡の難治症例を見ていて気づいたことがあります。

「創の処置を頑張っているのに治らない患者さんは、ほとんど全員Albが低い」

Alb値が2g/dL台で、絶食にソルデム3Aしか入っていない患者さんに、どんな被覆材を貼っても治るはずがありません。

「褥瘡委員会を中心にNST褥瘡チームを立ち上げよう」という発想はここから生まれました。

特に褥瘡患者さんへの栄養サポート介入からNSTのニーズが高まり、当初2ヶ月に1度だった褥瘡回診が週1回に増加しました。


まとめ

  • 「創は内側から治る」——栄養なしに創傷治癒はない
  • 創傷治癒に必要な栄養素:エネルギー・タンパク質・亜鉛・ビタミンC・ビタミンA・水分
  • Alb 2.5g/dL未満では褥瘡は治癒しにくい
  • 栄養評価:体重・Alb・プレアルブミン・TLC・食事摂取量を確認
  • 食事だけで不足する場合は栄養補助食品(ONS)を活用する
  • 薬剤師がNSTと連携することで、褥瘡ケアの質が上がる

次回は「褥瘡・NSTシリーズ総まとめ:薬剤師がNST・褥瘡ケアに関わる意義」です。


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創傷被覆材の選び方⑪ 

hospharブログ(病院薬剤師の専門情報)

2026年8月4日火曜日

創傷被覆材の選び方:ハイドロサイト・デュオアクティブ・カルトスタット【褥瘡・NSTシリーズ⑪】

 褥瘡治療では外用剤に加えて「創傷被覆材(ドレッシング材)」が重要な役割を果たします。多くの種類があって迷いやすい創傷被覆材の選び方を、浸出液量を軸に整理して解説します。


創傷被覆材とは

創傷被覆材(ドレッシング材)とは、褥瘡・創傷の創面を覆うための医療材料です。

従来の「ガーゼ+消毒」による乾燥療法に代わり、モイストウンドヒーリング(湿潤療法)を実践するためのツールとして普及しました。


ドレッシングの4分類

創傷被覆材は「開放性/閉鎖性」×「ウェット/ドライ」の2軸で4分類できます。

Ⅰ.開放性ウェットドレッシング 食品用フィルム・持続陰圧閉鎖療法(VAC療法)など

Ⅱ.開放性ドライドレッシング 乾燥ガーゼ(現在では推奨されない方法)

Ⅲ.閉鎖性ウェットドレッシング(主流) ポリウレタンフィルム・ポリウレタンフォーム・ハイドロコロイド・軟膏ガーゼなど

Ⅳ.閉鎖性ドライドレッシング カデックス・ユーパスタなど浸出液を吸収・脱水するタイプ


浸出液量で選ぶ:吸収能力別分類

創傷被覆材の選択で最も重要な指標は「浸出液の量」です。

浸出液吸収能力:低いもの(浸出液が少ない創向け)

  • テガダーム・パーミロール(ポリウレタンフィルム)
  • ラップ(食品用フィルム)

浸出液吸収能力:中程度

  • ハイドロサイト薄型(ポリウレタンフォーム)
  • デュオアクティブET(ハイドロコロイド)
  • アブソキュアサジカル

浸出液吸収能力:高いもの

  • ハイドロサイトADジェントル
  • アブソキュアウンド
  • カルトスタット(アルギン酸塩)
  • アクアセル(ハイドロファイバー)

浸出液吸収能力:最も高いもの

  • 尿とりパッド・紙おむつ(代用として使用されることもある)

主要な創傷被覆材の特徴

テガダーム・パーミロール(ポリウレタンフィルム)

特徴:透明で薄く、水蒸気は通すが細菌・水は遮断する

使用場面:

  • ステージⅠ褥瘡(不可逆的な発赤)
  • 骨突出部の摩擦・ずれ防止(予防的使用)
  • 浸出液のない浅い創の保護

デュオアクティブET(ハイドロコロイド)

特徴:浸出液を吸収してゲル化し、湿潤環境を維持する

使用場面:

  • ステージⅡ褥瘡(水泡・びらん)
  • 浸出液が少〜中等度の浅い創

注意:感染創・深い創への使用は避ける


ハイドロサイト・ハイドロサイトADジェントル(ポリウレタンフォーム)

特徴:スポンジ状で浸出液を効率よく吸収・保持する

使用場面:

  • ハイドロサイト薄型:浸出液が少ないステージⅡ、上皮形成期
  • ハイドロサイトADジェントル:浸出液が多いステージⅡ〜Ⅲ
  • 赤色期(肉芽増殖期)の浸出液管理

カルトスタット(アルギン酸塩)

特徴:海藻由来のアルギン酸塩が浸出液を吸収してゲル化。止血作用もある

使用場面:

  • 皮下に至る創(ステージⅢ)
  • 肉芽増殖期
  • 浸出液が多い創
  • 止血が必要な創

アクアセル(ハイドロファイバー)

特徴:繊維状のハイドロコロイドが浸出液を吸収し、ゲル状のシートになる

使用場面:

  • 皮下組織に至る創
  • 黄色壊死期後半〜肉芽増殖期〜表皮形成期
  • 浸出液が中〜多い創

グラニュゲル(ハイドロゲル)

特徴:水分を多く含むゲル。乾燥した壊死組織を軟化させる

使用場面:

  • 皮下に至る創
  • 壊死組織(特に乾燥した黒色壊死)の軟化・除去

創傷被覆材の使い方の実際

創傷被覆材の選択は「試してみながら調整する」というアプローチが現実的です。

① まず貼ってみる(創の状態から最適と思われるものを選択)

② 翌日の浸出液の量・性状を観察する 

③ 浸出液がにじみ出ているようなら、同じ被覆材を重ねるか、一段階上の浸出液吸収能力を持つ被覆材を使用 

④ ②・③の繰り返しで最適な被覆材を見つける


ステージ別・創傷被覆材選択マニュアル

ステージⅠ(不可逆的発赤) → テガダーム・パーミロール(摩擦・ずれ防止)、アズノール軟膏

ステージⅡ(水泡・びらん)

  • 水泡 → デュオアクティブET・アズノール
  • びらん → デュオアクティブET・アズノール
  • 浸出液が多い → ハイドロサイトADジェントル
  • 上皮形成期(白色) → アクトシン・ハイドロサイト薄型

ステージⅢ・Ⅳ(黄色期・黒色期・赤色期)

  • 黄色期(壊死・感染なし) → ブロメライン軟膏
  • 黒色期(感染あり・浸出液少) → ゲーベンクリーム
  • 黒色期(感染あり・浸出液多) → ネグミンシュガー・カデックス
  • 赤色期(肉芽形成中・深い) → フィブラストスプレー
  • 赤色期(浸出液中) → ハイドロサイトADジェントル

まとめ

  • 創傷被覆材の選択軸は「浸出液量」
  • 少ない → フィルム・ハイドロコロイド
  • 中程度 → ポリウレタンフォーム(ハイドロサイト)
  • 多い → アルギン酸塩(カルトスタット)・ハイドロファイバー(アクアセル)
  • まず貼って翌日に評価し、調整するアプローチが現実的
  • 外用剤と組み合わせて使用する

次回は「褥瘡と栄養の深い関係:NST専門療法士の視点から」を解説します。


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褥瘡外用剤の解説⑩ 

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