今回は理論ではなく「実践」の話です。糖尿病患者さんへの服薬指導でコーチングをどう使うか、具体的な質問例と実際の会話の流れを解説します。
糖尿病患者さんが抱える課題
糖尿病は以下の特徴を持つ疾患です。
- 全身性疾患で、多くの臓器に影響する
- 生活習慣や加齢の影響を受ける
- 根治困難で、生涯にわたってケア・管理が必要
- 診療には多職種チーム医療が重要
- 自己教育・自己管理が治療効果に大きく影響する
- 診療の対象は検査値ではなく患者さん自身
この特徴から見えてくるのは、患者さん自身が「動く・変わる」ことなしに治療は成功しないということです。だからこそコーチングが有効です。
糖尿病患者さんの受診中断の理由
受診中断者の理由(糖尿病受診中断対策包括ガイド2019.9より):
1位:多忙のため 2位:体調が良いから 3位:医療費が負担だから
これらの理由の裏には「受診の必要性を感じていない」「通院そのものがつらい」という患者さんの気持ちが隠れています。
コーチングで患者さんと向き合うことで、これらの背景を引き出し、行動変容に繋げられます。
糖尿病患者さんへの「質問力」を高める6つの例
① 「糖尿病でもっとも困っている・心配なことは何ですか?」
最初に患者さんが何を心配しているのかを把握します。「合併症が怖い」「仕事に影響しないか」「家族に心配をかけたくない」——それぞれに応じた関わりが変わります。
② 「糖尿病はあなたやご家族の毎日の生活にどんな影響を与えていますか?」
生活全体への影響を聞くことで、患者さんが「なぜ治療するのか」という動機に繋がる部分を探れます。
③ 「(説明前に)お知りになりたいのはどんなことでしょうか?」
一方的に説明する前に、まず患者さんが知りたいことを聞く。患者さんのニーズに合った情報提供ができます。
④ 「どうすればもっとお役に立てるでしょうか?」
患者さんに「薬剤師に何を求めているか」を直接聞く。サービスとしての服薬指導の質が上がります。
⑤ 「糖尿病を良くするために何かしていることがありますか?」
できていることを承認するための入口。「散歩を始めました」「食事の量を少し減らしました」——小さな取り組みでも承認することで次の行動につながります。
⑥ 「糖尿病を良くするために何か一つしてみるとしたら、どんなことができそうですか?」
最も重要な質問です。「一つ」に絞ることで患者さんが考えやすくなります。自分で言葉にした目標は実行率が高まります。
実際の会話の流れ
薬剤師:「先月よりHbA1cが少し改善しましたね(結果承認)。この1ヶ月、何か工夫されましたか?(プロセス引き出し)」
患者:「夕食を少し早めに食べるようにしてみたんです」
薬剤師:「それは素晴らしいですね。夕食の時間を変えるって、習慣を変えることで、実はなかなか難しいことだと思います(プロセス承認)。続けられてよかったです(存在承認)」
患者:「まあ、なんとか。でもやっぱり間食は減らせなくて…」
薬剤師:「間食について、どんな工夫だったらできそうだと思いますか?(コーチング質問)」
患者:「間食の種類を変えるくらいならできるかも…ナッツとかならいいですかね?」
薬剤師:「いいですね!ナッツは血糖値への影響も比較的緩やかですし、満足感もありますよ(ティーチング)。次回、試してみた感想を聞かせてください(継続性)」
「コーチングが必要な患者さん」と「不要な患者さん」
コーチングはすべての患者さんに同じように使うのではありません。
コーチングが特に有効:
- 生活習慣の改善が必要な患者さん
- アドヒアランスが低い患者さん
- 治療への抵抗感がある患者さん
- 長期的な関わりが必要な慢性疾患の患者さん
ティーチングが主体になる場面:
- 急性疾患で緊急の情報提供が必要
- 初めての薬剤で必ず知っておくべき情報がある
- 患者さん自身が「教えてほしい」と求めている
まとめ
- 糖尿病治療は患者さんの自己管理が鍵。だからコーチングが有効
- 受診中断の背景を引き出すことで適切なアプローチができる
- 6つの質問例を服薬指導に組み込む
- 承認(できていること)→コーチング(一つ試してみること)→ティーチング(知識提供)の順が効果的
- 全患者さんに一律ではなく、状況に応じてコーチングとティーチングを使い分ける
次回は「心理的安全性を高める7つの質問と職場診断の実践」を解説します。
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