中毒患者が搬送されてきた時、最初の数分間の対応が予後を左右します。今回は中毒の分類と、初期対応の基本「ABCDEアプローチ」を解説します。
中毒の分類:3つの視点で整理する
① 意図による分類
意図的中毒:自殺企図・犯罪目的(薬物の過量服用・毒物の混入など)
非意図的中毒:事故・誤飲(小児の家庭用品誤飲が中心)
職業性中毒:農薬・化学物質への職業暴露
成人では意図的中毒(ODなど)が多く、小児では非意図的誤飲が大部分を占めます。
② 時間経過による分類
急性中毒:発症〜24時間以内
亜急性中毒:数日〜数週間かけて進行(例:鉛中毒の慢性化)
慢性中毒:長期暴露による蓄積(例:職業性水銀中毒)
救急外来で最も多いのは急性中毒です。
③ 暴露経路による分類
経口(最多):服用・誤飲
吸入:ガス・揮発性物質
経皮:農薬・化学物質の皮膚暴露
注射:薬物乱用
粘膜:眼・鼻腔への暴露
中毒の疫学:数字で知る
日本中毒情報センター(JPIC)への相談件数は年間約4万件。
成人の中毒原因(多い順)
- 医薬品(向精神薬・睡眠薬・解熱鎮痛薬などの過量服用)
- 農薬(有機リン・パラコートなど)
- 家庭用品(洗剤・漂白剤・防虫剤)
小児(5歳以下)の中毒原因(多い順)
- 家庭用品(タバコ・洗剤・医薬品)
- 医薬品
- 食品・植物
重要なのは、小児誤飲の約70%が5歳以下ということ。チャイルドプルーフ(子供が開けにくい容器)の啓蒙も薬剤師の大切な役割です。
初期対応の原則:ABCDEアプローチ
中毒患者が搬送されてきたら、まず「ABCDEアプローチ」でバイタルサインを安定化させます。原因物質の同定は二の次です。
A:Airway(気道確保)
意識障害がある患者は舌根沈下・分泌物(流涎・嘔吐物)による気道閉塞のリスクがあります。
確認事項:
- 気道は開いているか
- 誤嚥の危険はないか
- 挿管が必要か
特に有機リン中毒では大量分泌物による気道閉塞が起きやすいです。
B:Breathing(呼吸の評価)
呼吸数・呼吸の深さ・SpO₂・聴診で評価します。
薬物による呼吸抑制(オピオイド・ベンゾジアゼピン・アルコール)は致死的になりえます。
C:Circulation(循環の評価)
血圧・脈拍・心電図モニタリング。
注意が必要な所見:
- 徐脈(有機リン・オピオイド・β遮断薬)
- 頻脈(三環系抗うつ薬・交感神経刺激薬)
- QRS延長(三環系抗うつ薬→炭酸水素Naが必要)
- QT延長(抗精神病薬・抗不整脈薬)
D:Disability(意識レベル評価)
GCS(Glasgow Coma Scale)で意識レベルを評価します。
意識障害の鑑別(AIUEO TIPS)も念頭に。特に低血糖(ブドウ糖投与)の除外を優先します。
E:Exposure(全身観察・体温)
全身を観察します。体温も重要なバイタルサインです。
確認事項:
- 皮膚の色・発汗・発疹の有無
- 特異的な臭い(有機リン→ニンニク臭、シアン→苦扁桃臭、アルコール→アルコール臭)
- 注射痕の有無
- 体温(高体温→セロトニン症候群・抗コリン性、低体温→アルコール・オピオイド・バルビツール)
中毒診療の全体フロー
患者搬送
↓
【ABCDE】バイタル安定化
↓
【原因物質の同定】
・トキシドローム(症候群パターン)
・現場の情報(薬の空き瓶・家族からの情報)
・中毒情報センターへの相談
↓
【除染】
・活性炭投与(経口中毒)
・胃洗浄(適応を選ぶ)
・皮膚・眼洗浄(経皮・眼暴露)
↓
【解毒薬投与・排泄促進】
・特異的解毒薬(ある場合)
・尿アルカリ化・血液透析(適応があれば)
↓
【経過観察・モニタリング】
・合併症の管理
・遅発性症状に注意情報収集で知っておくべきこと
中毒患者の情報収集では以下を確認します。
- 何を?(物質名・商品名・成分)
- どのくらい?(量・濃度)
- いつ?(服用・暴露からの経過時間)
- どのように?(経口・吸入・経皮)
- なぜ?(意図的か事故か)
情報が不明の場合は**日本中毒情報センター(JPIC)**に相談します。24時間対応で、医療機関専用の回線があります。
まとめ
- 中毒は意図/時間経過/暴露経路の3軸で分類できる
- 小児誤飲の70%が5歳以下。成人ODは医薬品が最多
- 初期対応の原則はABCDEアプローチ。まず気道・呼吸・循環を安定化
- 体温・臭い・皮膚所見が診断の手がかりになる
- 情報収集(何を・どのくらい・いつ)が治療方針決定の鍵
次回は「トキシドローム:5パターンで原因物質を推定する方法」を解説します。
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