2026年7月31日金曜日

褥瘡とは何か?原因・ステージ分類・予防の基本【褥瘡・NSTシリーズ⑦】

 今回から褥瘡(じょくそう)シリーズに入ります。褥瘡は「床ずれ」とも呼ばれる創傷で、高齢者・長期臥床患者に多く発生します。薬剤師として知っておくべき褥瘡の基礎知識を解説します。


褥瘡とは

褥瘡(pressure ulcer / pressure injury)とは、身体に加わった外圧(圧力・ずれ・摩擦)によって、皮膚・皮下組織・筋肉などが損傷した状態です。

俗に「床ずれ(とこずれ)」とも呼ばれます。


褥瘡が発生するメカニズム

圧力(pressure) 骨突出部(仙骨・踵骨・肘・後頭部など)と床やマットレスの間の皮膚・組織に持続的な圧力がかかると、毛細血管が閉塞して血流が途絶え、組織が壊死します。

ずれ(shear) ベッドの頭部を挙上した時に、皮膚は固定されたまま体が滑り落ちようとすることで、皮膚内部でずれ力が働き組織が損傷します。

摩擦(friction) 体位変換や移動の際に皮膚が擦れることで、表面が傷つきます。


褥瘡の好発部位

体位によって発生しやすい部位が異なります。

仰臥位(あおむけ):仙骨部・踵骨部・肘・後頭部・肩甲骨

側臥位(横向き):大転子部(お尻の横)・腸骨稜・膝の内側・足首

腹臥位(うつ伏せ):額・膝・足背

仙骨部と踵骨部が最も多い発生部位です。


褥瘡のステージ分類

日本では日本褥瘡学会の「深達度分類」と、NPUAP(北米褥瘡諮問委員会)分類が使われます。

ステージⅠ(発赤) 皮膚の損傷はないが、圧力を加えても白くならない発赤(不可逆的な発赤)がある状態。皮膚は完全。

ステージⅡ(真皮に至る部分損傷) 表皮または真皮を含む浅い損傷。水泡・びらんが見られる。

ステージⅢ(皮下組織に至る全層損傷) 皮下組織まで達する全層損傷。壊死組織・肉芽組織が見られることがある。骨・腱・筋は露出していない。

ステージⅣ(筋肉・骨・支持組織に至る全層損傷) 骨・腱・筋肉が露出するほどの深い全層損傷。壊死組織が認められることがある。


皮膚の老化とドライスキン

**ドライスキン(乾燥肌)**の問題も褥瘡と密接に関係しています。

65歳以上の90%以上にドライスキンが見られます。皮膚の水分・皮脂が不足して乾燥した状態で、褥瘡発生のリスク因子になります。

皮膚の老化は18〜20歳でピークを迎え、それ以降はゆっくり低下。女性では45歳、男性では55歳頃からはっきりした皮膚の老化が始まります。

ドライスキンケアの注意点

  • 掻いてはいけない。掻くと痒みを感じる神経が伸びてさらに痒くなる悪循環に
  • 保湿剤は入浴後5分以内に塗ることが効果的
  • 尿素含有の保湿剤は傷があるとピリピリする場合がある

褥瘡発生のリスク因子

内因性リスク因子:

  • 低栄養状態(低Alb血症)
  • 浮腫
  • 感覚・運動障害
  • 失禁(皮膚の湿潤)
  • 循環障害

外因性リスク因子:

  • 圧力・ずれ・摩擦
  • 体位変換の不足
  • 不適切なマットレス

褥瘡予防の基本

① 体位変換 2時間ごとの体位変換が基本(リスクが高い場合は1時間ごとも)。ずれを作らない移動技術も重要。

② 体圧分散マットレス エアマットレス・ウレタンマットレスなど体圧を分散するマットレスの使用。

③ スキンケア 皮膚の清潔・保湿。失禁がある場合は撥水性のある保護クリームの使用。

④ 栄養管理(NSTとの連携) 低栄養は褥瘡の最大のリスク因子のひとつ。栄養状態の改善なしに褥瘡は治らない。


まとめ

  • 褥瘡=圧力・ずれ・摩擦による皮膚・組織の損傷(床ずれ)
  • 好発部位:仙骨部・踵骨部(仰臥位)
  • ステージⅠ〜Ⅳ:発赤→真皮損傷→皮下組織損傷→骨・筋露出
  • 65歳以上の90%以上にドライスキンあり。褥瘡発生リスク因子
  • 予防の基本:体位変換・体圧分散マットレス・スキンケア・栄養管理

次回は「モイストウンドヒーリング:傷は乾かすな!」を解説します。


≪関連記事≫ 

離島・僻地でのNST活動体験記⑥ 

hospharブログ(病院薬剤師の専門情報)

2026年7月30日木曜日

離島・僻地病院でのNST活動体験記:医師が少ない環境で薬剤師にできること【NSTシリーズ⑥】

 今回は私の体験談です。鹿児島県の離島・OKE島、そしてYG病院(僻地)でのNST活動を振り返ります。「医師が少ない環境で薬剤師にできること」——これが私のNSTの原点です。


KT病院:NST事務局の経験(2006〜2009年)

私が初めてNSTに関わったのは薬剤師歴2年目、KT病院(310床)でのことです。NST事務局を担当することになり、「NSTを良くしていきたい!」という情熱だけで動き始めました。

最初の課題:NST認知率35%

NSTを良くするためにまず必要なのは「NSTを知ってもらうこと」でした。

2009年10月、院内でのNST認知率はわずか35%

実施した啓蒙活動:

  • 病院の全体朝礼で「NSTとは」について紹介
  • 摂食・嚥下委員会で「NST活動と活動成果による効果」の勉強会
  • 褥瘡委員会で「褥瘡に使われる薬剤・ドレッシング剤」と「褥瘡と栄養」の勉強会
  • 医療安全委員会で「輸液」についての勉強会

約7ヶ月間の啓蒙活動の結果、2010年5月には認知率**71%**まで向上。


栄養サポートが必要な患者への積極的介入

啓蒙活動と並行して、栄養サポートが必要な患者を積極的に発見し介入しました。

薬剤師として実施した介入:

  • 褥瘡回診に参加し、褥瘡回診時に栄養面も評価
  • Hb低値の患者の原因を考え、貧血食・鉄剤・ビタミンC・葉酸などの提案
  • 経口食事摂取量の少ない患者に補助食品の提案
  • 誤嚥の多い患者にACE阻害薬などの提案
  • 嘔吐の多い患者にドンペリドン・モサプリドなどの提案
  • BUN/Cre比をチェックし脱水や過剰たんぱく質の評価
  • TPN・PPNの投与量最適化提案

OKE島:離島のNST(2009〜2011年)

鹿児島の南西、奄美大島のさらに南にあるOKE島。人口約13,000人の離島にあるOT病院(132床)に異動しました。

離島ならではの制約

  • 専門医が少ない(場合によっては医師2〜3名体制)
  • 検査の種類に制限がある
  • 物資の調達に時間がかかる
  • 島の外への搬送は時間と費用が大きくかかる

このような環境で「NST活動ができるのか?」と思いましたが、逆に気づいたことがありました。

離島だからこそ薬剤師が輝く

医師が少ない環境では、薬剤師が積極的に情報収集・提案をしなければ患者さんの栄養管理が後回しになりやすい。

「今日の外来が終わったら、栄養状態が気になる患者さんを先生に相談しよう」「この点滴の組み合わせ、カロリーが足りていないと思いますが変えませんか?」

医師との距離が近い離島の病院だからこそ、薬剤師からの提案が直接届きやすいのです。

数値での成果: 脂肪乳剤(イントラファット)使用量が月平均17本→46.8本へ。ビーフリード採用後は月平均222.8本の使用実績。これは「適切な栄養管理が院内に浸透した」証拠です。

沖永良部病院での創傷被覆材の整備

NSTと並行して、褥瘡ケアの整備にも力を入れました。当時採用されていなかった創傷被覆材を順次採用し、「浸出液量に応じて選べる体制」を作りました。


NST専門療法士の取得(2010年)

OT病院でのNST活動を経て、2010年にNST専門療法士を取得しました。

NST専門療法士とは、日本静脈経腸栄養学会(現:日本臨床栄養代謝学会)が認定する資格で、医師・歯科医師・薬剤師・看護師・管理栄養士・臨床検査技師など多職種が取得できます。

取得のためには:

  • 5年以上のNST活動実績
  • 規定の講習・研修の受講
  • 資格認定試験の合格

薬剤師がNSTで大切にしてきたこと

10年以上のNST活動を通じて学んだことを一言で表すと——

「患者さんの栄養状態を数字で語れる薬剤師になること」

「なんとなく栄養が足りていないかも」ではなく、「現在の輸液で○kcal・アミノ酸○g。必要量は体重60kgとして1500kcal・60g/日なので、○○が不足しています。ビーフリードへの変更と脂肪乳剤の追加を提案します」と具体的に話せるかどうかが、医師に信頼される薬剤師かどうかの分かれ目です。


まとめ

  • KT病院でNST事務局としてゼロから立ち上げ。認知率35%→71%
  • 脂肪乳剤使用量が月17本→46.8本に増加。ビーフリード採用で月222.8本の実績
  • 離島・僻地では医師が少ないからこそ薬剤師の積極的な提案が重要
  • 「栄養状態を数字で語れる薬剤師」が目標

次回から褥瘡シリーズとして「褥瘡とは何か?原因・ステージ分類」を解説します。


≪関連記事≫ 

経腸栄養・TPN・PPNの選択⑤ 

hospharブログ(病院薬剤師の専門情報)

2026年7月29日水曜日

経腸栄養・経静脈栄養の選択:TPN・PPN・ENの違いと使い分け【NSTシリーズ⑤】

 栄養投与ルートの選択は、患者さんの回復速度に大きく影響します。「経口が無理なら全部点滴で」という考え方では不十分です。今回はEN・PPN・TPNの違いと使い分けを解説します。


栄養投与ルートの全体像

栄養投与ルートは大きく2種類に分かれます。

栄養投与ルート
│
├─ 経腸栄養(EN:Enteral Nutrition)
│   ├─ 経口摂取
│   ├─ 経鼻チューブ(NGチューブなど)
│   ├─ 胃瘻(PEG)
│   └─ 腸瘻
│
└─ 経静脈栄養(Parenteral Nutrition)
    ├─ 末梢静脈栄養(PPN:Peripheral Parenteral Nutrition)
    └─ 中心静脈栄養(TPN:Total Parenteral Nutrition)

基本原則:「腸が使えるなら腸を使う」

NSTの基本原則は「If the gut works, use it!(腸が動いているなら腸を使え)」です。

経腸栄養が優先される理由

① 腸管免疫の維持 腸を使わないと腸管バリア機能が低下します。腸内細菌のバランスが崩れ、細菌が腸壁を通過して菌血症を起こしやすくなります(バクテリアルトランスロケーション)。

② 感染性合併症の減少 中心静脈カテーテルを使用するTPNではカテーテル感染(カテーテル敗血症)のリスクがあります。

③ コストが安い 経腸栄養剤はTPN製剤より格段に安価です。

④ 生理的 消化管を通るという「本来の経路」で栄養を摂ることができます。


EN(経腸栄養)の種類

経鼻チューブ(NGチューブ)

  • 鼻からチューブを胃・十二指腸・空腸に挿入
  • 短期間の使用(4週間程度まで)に適する
  • デメリット:患者さんの不快感が大きい・自己抜去が多い

胃瘻(PEG:経皮内視鏡下胃瘻造設術)

  • 内視鏡で胃に穴を開けてカテーテルを留置
  • 長期間の経腸栄養に適する
  • 嚥下障害がある患者さんでも安定した栄養投与が可能
  • デメリット:造設に手術が必要

腸瘻

  • 空腸に直接チューブを挿入
  • 胃への逆流が多い・胃切除後の患者に使用

PPN(末梢静脈栄養)の特徴

使用できる場面

  • 短期間(1〜2週間程度)の補助栄養
  • 経腸栄養では不足するカロリーの補充
  • 経口・経腸栄養への移行期

PPNの制限

  • 末梢静脈は高浸透圧の輸液を流せない(静脈炎を起こす)
  • 投与できるカロリーが限られる(1日1000〜1200kcal程度が上限)
  • たんぱく質の補給量も限られる

代表的なPPN製剤

  • ビーフリード500ml(210kcal・アミノ酸15g)
  • エルネオパ1号(TPN製剤だが末梢から使えるタイプ)
  • 脂肪乳剤(イントラリポス)を側管から追加してカロリー補充

TPN(中心静脈栄養)の特徴

使用できる場面

  • 経腸栄養・PPNで必要なカロリーが確保できない場合
  • 消化管の使用が困難な場合(腸閉塞・消化管手術後など)
  • 2週間以上の完全静脈栄養が必要な場合

TPNのメリット

  • 高カロリーの投与が可能(1日1000〜2000kcal以上)
  • 完全な栄養素(糖質・アミノ酸・脂肪・ビタミン・微量元素)を投与できる

TPNのリスク

  • CVC(中心静脈カテーテル)挿入に伴う合併症(気胸・血胸・感染など)
  • カテーテル感染(カテーテル敗血症):最も重篤な合併症
  • 長期使用で腸管が廃用萎縮する

代表的なTPN製剤

製剤名カロリー特徴
エルネオパ1号(1000ml)560kcal電解質・ビタミン・微量元素含有
エルネオパ2号(1000ml)820kcalアミノ酸量が多い
ハイカリックRF(500ml)1000kcal腎不全対応・アミノ酸なし

TPN製剤に脂肪乳剤を追加する意義

TPN製剤だけでは必須脂肪酸が補充できません。長期TPN患者では必須脂肪酸欠乏が起こることがあります。

週2〜3回の脂肪乳剤(20%イントラリポス 100ml)の追加投与が推奨されています。


栄養投与の選択フローチャート

腸が使えるか?
  │
  YES → 経口摂取は可能か?
  │       YES → まず経口で
  │       NO  → 経腸栄養(NGチューブ・胃瘻)
  │
  NO → 短期間(2週間以内)か?
         YES → PPN(ビーフリード+脂肪乳剤など)
         NO  → TPN(中心静脈カテーテル)

まとめ

  • 「腸が使えるなら腸を使う」が基本原則
  • PPN:短期・補助的・1日1000kcal程度が上限
  • TPN:完全栄養補給可能だがカテーテル感染リスクあり
  • TPN長期使用時は必須脂肪酸補充のため脂肪乳剤を追加する

次回は「離島・僻地病院でのNST活動体験記」をお届けします。


≪関連記事≫ 

輸液のカロリーを知ろう④ 

hospharブログ(病院薬剤師の専門情報)

2026年7月28日火曜日

輸液のカロリーを正しく知っていますか?絶食患者の栄養問題【NSTシリーズ④】

 「絶食中だからソルデム3Aを入れています」——この状況、実はとても危険かもしれません。ソルデム3Aを1日3本投与しても、カロリーはわずか258kcal。「おにぎり1.5個分」の栄養しかありません。今回は輸液のカロリーと栄養問題を徹底解説します。


あなたはこの輸液のカロリーを知っていますか?

病棟でよく使われる輸液のカロリーを確認してみましょう。

輸液製剤カロリー特徴
ラクトリンゲル 500ml0kcal電解質補液のみ
生理食塩水 500ml0kcal電解質補液のみ
ソルデム1 500ml52kcalブドウ糖26g含有
ソルデム3A 500ml86kcalブドウ糖43g含有
5%ブドウ糖 500ml100kcalブドウ糖50g
10%ブドウ糖 500ml200kcalブドウ糖100g
50%ブドウ糖 200ml400kcal高濃度
ビーフリード 500ml210kcalアミノ酸15g(+ブドウ糖100g)
20%イントラリポス 100ml200kcal脂肪乳剤
エルネオパ1号 1000ml560kcalTPN製剤
エルネオパ2号 1000ml820kcalTPN製剤

ソルデム3A×3本は「おにぎり1.5個分」

よくある絶食患者への処方:

ソルデム3A 500ml × 3本 = 258kcal

おにぎり1個が約170kcalとすると、1日3本の点滴でおにぎり1.5個分しかカロリーが摂れていません。

しかもソルデム3Aにはたんぱく質(アミノ酸)が全く含まれていません。

血清Alb(アルブミン)値が下がるのは当然のことです。


たんぱく質が入っていない点滴の問題

ソルデム3Aなど多くの維持輸液製剤には、たんぱく質(アミノ酸)が含まれていません。

人間の体はたんぱく質を常に消費しています。特に病気やケガのある患者さんはたんぱく質の需要が高まります。

たんぱく質(アミノ酸)が補給されないと:

  • 筋肉が分解されてエネルギーとして使われる(筋肉量の低下)
  • アルブミン合成が低下して血清Alb値が下がる
  • 傷の治癒が遅れる(コラーゲン合成に必要)
  • 免疫機能が低下する
  • 褥瘡の発生・悪化リスクが上がる

ビーフリードに変えるだけで変わること

ソルデム3A 500ml×3本をビーフリード 500ml×3本に変えると——

ソルデム3A ×3本ビーフリード ×3本
カロリー258kcal630kcal
アミノ酸0g45g
電解質組成維持液ほぼ同様の維持液

電解質組成はほぼ同じなので、多くの症例でソルデム3Aの代替として使えます(腎機能低下など個別判断が必要)。

浸透圧が上がり、静脈炎リスクが上がるのはデメリットです。

さらに20%イントラリポス 100mlを側管から追加すれば:

630kcal + 200kcal = 830kcal まで増量可能です。

イントラリポスを側管から投与することにより、浸透圧が下がるので、静脈炎リスクも下がります。


絶食患者に必要なカロリーは?

一般的な必要エネルギー量の計算式:

Harris-Benedict式(簡易計算)

  • 男性:66.5 + 13.8×体重(kg) + 5.0×身長(cm) - 6.8×年齢
  • 女性:655.1 + 9.6×体重(kg) + 1.9×身長(cm) - 4.7×年齢

さらにストレス係数・活動係数をかけます。

簡便法:体重×25〜30kcal/日

例:体重60kgの患者なら1500〜1800kcal/日が目安です。

ソルデム3A×3本の258kcalでは目安量の15〜17%しか充足できません。


「BUN/Creatinine比」で栄養状態を読む

薬剤師がNSTでよく確認する検査値のひとつがBUN/Cre比です。

  • BUN(血中尿素窒素):たんぱく質の代謝産物
  • Creatinine(クレアチニン):筋肉の代謝産物

BUN/Cre比が高い(20以上)

  • たんぱく質の過剰投与
  • 脱水(BUNは上昇するがCreは正常)

BUN/Cre比が低い

  • たんぱく質摂取不足(消耗状態)

このような検査値を読みながら、適切な輸液・栄養療法を提案することが薬剤師のNST業務です。


経腸栄養が使えるなら経腸栄養を優先

「腸が使えるなら腸を使う(If the gut works, use it!)」

これはNSTの基本原則です。

経腸栄養(経鼻チューブ・胃瘻・腸瘻)が使える場合は、静脈栄養より優先します。理由は:

  • 腸管免疫の維持(腸を使わないと腸管バリア機能が低下)
  • 感染性合併症の減少
  • コストが安い
  • 生理的な栄養補給ができる

どうしても経腸栄養が難しい場合に末梢静脈栄養(PPN)または中心静脈栄養(TPN)を選択します。


まとめ

  • ソルデム3A×3本=258kcal=おにぎり1.5個分。これでは栄養不足
  • 多くの維持輸液にたんぱく質(アミノ酸)は含まれていない
  • ビーフリードへの変更だけで630kcal+アミノ酸45gを確保できる
  • 目安のカロリーは体重×25〜30kcal/日
  • BUN/Cre比で脱水・過剰・不足を評価する
  • 腸が使えるなら経腸栄養を優先する

次回は経腸栄養・経静脈栄養の種類と選択について解説します。


≪関連記事≫ 

薬剤師がNSTで担う役割③ 

hospharブログ(病院薬剤師の専門情報)

2026年7月27日月曜日

薬剤師がNSTで担う役割:輸液・薬剤・栄養の専門家として【NSTシリーズ③】

 「NSTって管理栄養士の仕事でしょ?」——薬剤師がNSTに関わると伝えると、よくこう言われます。でも薬剤師こそ、NSTで独自の価値を発揮できます。今回は薬剤師がNSTで果たす具体的な役割を解説します。


薬剤師がNSTに関われる理由

薬剤師は輸液製剤・配合変化・薬物相互作用・薬物動態の専門家です。これらの知識はNSTにおいて非常に重要です。

薬剤師がNSTで関われる主な領域:

  • 輸液の種類とカロリー・栄養素の把握
  • TPN・PPNの適正投与計画への提言
  • 輸液製剤の配合変化チェック
  • 薬物と栄養の相互作用の確認
  • 誤嚥対策薬・消化管運動改善薬などの提案
  • 褥瘡回診への参加と栄養面からの評価

薬剤師のNST介入事例

私がKT病院・OT病院時代に実際に行っていた介入の具体例です。

① 輸液カロリー不足の発見と改善提案 絶食患者にソルデム3Aが1日3本(258kcal)だけ投与されているケースを発見。「おにぎり1.5個分のカロリーしかない」という状態です。ビーフリード(500ml×3本)に変更を提案することで630kcalに増量でき、アミノ酸45gも同時に投与可能になります。

② 脂肪乳剤の積極的活用の提案 20%イントラリポス100mlを側管から追加することで200kcal上乗せできます。エネルギー密度の低い末梢静脈栄養でも工夫次第でカロリー確保が可能です。

③ 貧血患者への提案 Hb低値の患者の原因を考え、貧血食や鉄剤・ビタミンC・葉酸などの提案を行う。

④ 誤嚥対策薬の提案 誤嚥の多い患者にACE阻害薬(嚥下反射を促す作用)などの提案を行う。

⑤ 消化管運動促進薬の提案 嘔吐の多い患者にドンペリドンやモサプリドなどの提案を行う。

⑥ 脱水・過剰栄養の評価 BUN/Cre比などをチェックし、脱水や過剰なたんぱく質投与がないか評価する。

⑦ TPN・PPNの最適化提案 その患者に必要な栄養素量に近づけられないか提案する。


輸液のカロリーを正しく知る

薬剤師として最低限知っておくべき輸液のカロリーを整理します。

輸液カロリー
ラクトリンゲル 500ml0kcal
ソルデム1 500ml52kcal
ソルデム3A 500ml86kcal
生理食塩水 500ml0kcal
5%ブドウ糖 500ml100kcal
10%ブドウ糖 500ml200kcal
50%ブドウ糖 200ml400kcal
ビーフリード 500ml210kcal(アミノ酸15g含む)
20%イントラリポス 100ml200kcal
エルネオパ1号 1000ml560kcal
エルネオパ2号 1000ml820kcal

絶食でソルデム3A 500ml×3本=258kcal。これしかなければアルブミン値が下がるのは当然です。


ビーフリード採用で変わること

私がOT病院でNSTを立ち上げた時のエピソードです。

当時、末梢静脈から投与できるアミノ酸製剤はアミノレバン(肝不全用)とネオアミュー(腎不全用)の2種類しか採用されていませんでした。

「普通の患者さんに末梢から投与できるアミノ酸製剤がない」——これでは栄養管理の選択肢が限られます。

ビーフリードを採用した結果、末梢静脈栄養からでも積極的にたんぱく質の投与ができるようになりました。ビーフリード採用後の1ヶ月平均使用量が222.8本という実績が出ました。


脂肪乳剤の重要性

「脂肪の点滴」というと敬遠されがちですが、脂肪乳剤は重要なエネルギー源です。

イントラファットなどの脂肪乳剤のメリット

  • 末梢静脈から投与可能で高カロリー(100ml=200kcal)
  • 必須脂肪酸(リノール酸など)の補給ができる
  • 静脈炎を起こしにくい(脂質は浸透圧が低い)

私が関わった病院で、NST活動開始後に脂肪乳剤の使用量が月平均17本→46.8本に増加した実績があります。これは「適切な栄養管理が浸透した」証拠です。


薬剤師として大切にしていること

NSTで薬剤師が医師に提案する際に意識していること:

  • まず輸液のカロリーと栄養素を正確に把握する
  • 「現状で足りているか」を患者の体格・病態から計算する
  • 変更案を具体的に(「ソルデム3Aを3本→ビーフリード3本に変えると630kcalになります」)
  • 副作用・禁忌・腎機能への影響も合わせてチェック

まとめ

  • 薬剤師はNSTで輸液・薬剤・栄養の専門家として独自の価値を発揮できる
  • 具体的介入:輸液カロリー不足の発見・脂肪乳剤活用・誤嚥対策薬提案・貧血対策
  • ソルデム3A×3本=258kcal。これしかなければアルブミンが下がって当然
  • ビーフリード・脂肪乳剤の積極活用で末梢静脈栄養でもカロリーを確保できる

次回は「絶食患者の輸液カロリーを正しく計算しよう」を解説します。


≪関連記事≫ 

NSTの目的・役割② 

hospharブログ(病院薬剤師の専門情報)