2026年7月9日木曜日

GROWモデル:面談・指導を劇的に変える4ステップ【コーチングシリーズ⑩】

 コーチング面談の実践で最も使われるのが「GROWモデル」です。患者さんとの服薬指導から、スタッフとの1on1面談まで幅広く活用できる強力なフレームワークです。


GROWモデルとは

GROWモデルは、コーチング面談の質問を4つのステップで構造的に捉えるフレームワークです。

  • G(Goal):ゴール——目標を明確にする
  • R(Reality):リアリティ——現状を明確にする
  • R(Resource):リソース——活用できる資源を確認する
  • O(Option):オプション——選択肢を引き出す
  • W(Will):ウィル——意思決定を促す

このモデルを使うことで、面談中に「どこを質問しているのか」が明確になり、迷子にならずに済みます。


G:ゴールの質問——あるべき姿を明確にする

まず「どういう状態を目指しているか」を明確にします。

ゴール設定の質問例:

  • 「どういう状態を目指していますか?」
  • 「具体的にはどういうことですか?」
  • 「例えばどういう状態でしょうか?」
  • 「どれくらいの数値になると達成感が得られますか?」
  • 「その目標を達成したい理由は何でしょうか?」
  • 「その目標が達成できたら何を得られると思いますか?」

糖尿病患者さんへの例: 「血糖値をどのくらいにしたいですか?」 「HbA1cが7.0%になった時、どんな生活ができていると思いますか?」

目標の数値だけでなく、「その目標を達成した先にある生活・未来」を明確にすることが重要です。未来のイメージが明確なほど、行動への動機が強くなります。


R:リアリティ&リソースの質問——現状と資源を明確にする

現在の状態と、活用できる資源(人・物・時間・経験)を確認します。

現状確認の質問例:

  • 「そのことについて、現在はどんな状態ですか?」
  • 「今までどんな対応を取ってきましたか?」
  • 「上手くいった点とそうでない点は?」

資源確認の質問例:

  • 「活用できる資源はありませんか?」
  • 「誰か頼れる人はいませんか?」
  • 「うまくいくときといかないときの差は何だと思いますか?」

スタッフ面談での例: 「この半年で、自分が頑張れたと思うことはどんなことですか?」 「その経験から、今後に活かせることはありますか?」


O:オプションの質問——選択肢を豊富に引き出す

ゴールに向かうための「選択肢」をできるだけ多く引き出します。

選択肢を引き出す質問例:

  • 「どんなことをすると目標が達成できそうですか?」
  • 「他にはいかがですか?」
  • 「うまくいった時のやり方を再現できる方法は?」
  • 「別のやり方で目標達成できる方法は?」
  • 「もし制限がなかったとしたら、何をやってみますか?」

ポイント:どれだけ豊富に選択肢を出せるかが大事です。「それしかない」ではなく「こんな方法もある」という可能性の広がりが、相手の自主性を引き出します。


W:ウィルの質問——意思決定を促す

選択肢から実際に「何を、いつ、どうやって」実行するかを決める段階です。

意思決定を促す質問例:

  • 「様々な選択肢の中で、何を実行に移しますか?」
  • 「いつまでに実行しますか?」
  • 「達成の可能性は何%くらいだと感じますか?」
  • 「進捗のチェックはどうやって行いますか?」
  • 「誰か巻き込んでおいた方がいい人はいませんか?」

大切なこと:コーチが答えに誘導(エセコーチング)するのではなく、相手が本当に求めている正解に導いてあげることが本物のコーチングです。


面談の4レベルと目指すべき関係

スタッフとの面談には4つのレベルがあります。

  • レベル1:雑談面談
  • レベル2:トラブル対応面談
  • レベル3:問題発見・悩み解消面談
  • レベル4:目標共有・共感度アップ面談 ←ここを目指す

多くの管理職が「チームがひとつにならない」と悩みますが、原因は「目標をベースとしたコミュニケーションの不足」にあります。

GROWモデルでの面談習慣が、チームを目標共有・共感度アップの段階へ引き上げます。


私の1on1面談テンプレート

参考として、私が実際に使っている1on1面談のテンプレートを紹介します。

今期(12月〜5月 or 6月〜12月):10点満点中何点? →「何でその点数だったの?」 →「頑張ったこと、取り組んだこと、反省を教えてください」

どうすればあと1〜2点上がりますか? →「次期に向けて頑張りたいこと、やりたいこと」

悩みや問題はある?

周りにプラスを与えられること(患者・自部署・他部署)——一つ宣言

シンプルですが、このテンプレートを使うことで面談が「雑談」で終わらず、スタッフの成長と目標共有につながります。


まとめ

  • GROWモデル:G(目標)→ R(現状・資源)→ O(選択肢)→ W(意思決定)の4ステップ
  • 目標の数値だけでなく「達成した先の未来」を明確にする
  • 選択肢は豊富に引き出す——「これしかない」から「こんな方法も」へ
  • コーチは相手が本当に求める答えに導く(エセコーチングにならない)
  • 1on1面談を習慣化することでチームが目標共有・共感度アップへ

次回は「アドラー心理学の5つの要素:医療従事者のための人間関係の教科書」を解説します。


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Iメッセージ・YOUメッセージ⑨ 

病院薬剤師の仕事ブログ(hosphar)

2026年7月8日水曜日

Iメッセージ・YOUメッセージ:主語を変えるだけで関係が変わる【コーチングシリーズ⑨】

 「なんでできないの!」「ちゃんと飲んでください!」——医療現場でこんな言葉を使っていませんか?今回は言葉の主語を変えるだけで、コミュニケーションが劇的に変わる「Iメッセージ」を解説します。


YOUメッセージとIメッセージの違い

YOUメッセージ:主語が「あなた(YOU)」

「(あなたは)いいかげんにしなさい」 「(あなたは)何度言ったらわかるの」 「(あなたは)なんで薬飲んでないの!?」

YOUメッセージは、相手を責めてしまう傾向があります。言われた側は「自分を攻撃された」と感じ、心の壁を作ります。

Iメッセージ:主語が「わたし(I)」

「(私は)飲んでくれないと倒れたりしないか心配なんです」 「(私は)あなたがいてくれて助かった」 「(私は)連絡がないと心配になる」

Iメッセージは自分の気持ちや考えを主張するにとどまり、相手を尊重したコミュニケーションができます。


薬を飲んでいない患者さんへの関わり方

実際の医療現場での比較です。

YOUメッセージ(避けたい) 「なんで薬飲んでないの?ちゃんと飲まないとダメじゃないですか!」 → 患者さんは萎縮するか、言い訳を考えるかのどちらか

Iメッセージ(オススメ) 「飲んでくれないと倒れたりしないか心配なんです」 「薬をしっかり飲んでくれるとお子さんも安心するんじゃないですか」 → 患者さんは責められた感じがなく、自分ごととして考えやすい


3段階のアイメッセージ

アドラー心理学では、主張を3段階で行うことを教えています。

レベル1:表情アイメッセージ(まずこれを試す) 言葉にしないで表情や声の調子で感情を表現する。30%くらいの人はこれだけで気づいてくれる。

レベル2:言葉のアイメッセージ(それでも気づかない場合) 具体的に言葉にしていく。70%の人はここで気づいてくれる。

レベル3:YOUメッセージ(最後の手段) これでも理解してくれない場合は最終手段としてYOUメッセージを使う。


実例:迷子になった子供への声かけ

親子でデパートに行って、子供が迷子になってやっと再会できました。

YOUメッセージ 「どこに行っていたのよ!はぐれないでよ!もう連れてこないよ!」

Iメッセージ 「心配してたよ。無事でいてくれてよかった」

Iメッセージの後には「心配させないようにしよう」という前向きな行動に繋がります。


実例:テストの点数が悪かった子供へ

いつも80点ぐらいが当たり前の息子が30点を取ってきた。

YOUメッセージ 「ちゃんと勉強した!なんでそんな点数取ったの!そんな点数取って恥ずかしいよ!」

Iメッセージ 「言いづらかったよね。見せたくなかったよね。ちゃんと見せてくれてありがとうね。次いい点を取れるように一緒に勉強しようね」

テストを見せてくれたこと(行動)を承認してから、前向きな提案へ。


Iメッセージの3つの構成要素

効果的なIメッセージには3つの要素があります。

① 事実(行動) 相手の行為や出来事を非難がましくなく述べる(事実の描写)

② 影響 その行為によって生じる「波及効果」を伝える

③ 感情 あなたの素直な心情を伝える

例)遅刻癖のある彼氏への一言: 「(私は)大事にされている感じがしない…(感情)遅れるとき(事実)は、次から時間を守ってほしい(影響・お願い)」


Iメッセージを使う注意点

Iメッセージにも弱点があります。

  • 指示をするときには向かない(「○○の作業を○時までにやってほしい」はYOUメッセージの方が明確)
  • 曖昧な伝え方になりやすい(「どうすればいいかわからない」と受け取られることも)

Iメッセージが特に効果的な場面:

  • ネガティブなフィードバックをする時
  • 信頼関係がまだ十分でない時
  • 目上の人への発言

まとめ

  • YOUメッセージは相手を責める印象が強く、心の壁を作る
  • Iメッセージは自分の気持ちを伝え、相手を尊重できる
  • 3段階で主張:表情→言葉のI→YOU(最終手段)
  • Iメッセージの3要素:事実・影響・感情
  • 指示・命令の場面はYOUメッセージの方が明確なことも

次回は「アドラー心理学の勇気づけ:褒めると勇気づけの本質的な違い」を解説します。


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質問スキル⑧ 

病院薬剤師の仕事ブログ(hosphar)

2026年7月7日火曜日

質問スキル:「WHY」より「WHAT・HOW」で相手の可能性を引き出す【コーチングシリーズ⑧】

 コーチングの3大スキルの中で、最もコーチ力が問われるのが「質問」です。良い質問は相手の視点を変え、相手自身が気づきを見つける力を持ちます。


「For me」の質問と「For you」の質問

質問には大きく2種類あります。

「For me」の質問(情報収集の質問) 質問者が知りたいことを聞く質問。「今日はどこが痛いですか?」「薬はいつ飲みますか?」

「For you」の質問(効果的な質問) 相手の内発的気づきを促す質問。相手の行動を促進し、相手が自ら考える力をつける。

コーチングで求められるのは「For you」の質問です。


4種類の質問の特性

過去質問 vs 未来質問

過去質問(あまりオススメしない) 「飲み忘れちゃったんですか?」→「…はい」 過去に焦点を当てる。「そんなこと言われても、構わないでくれ」と感じさせてしまうことがある。

未来質問(オススメ) 「どうしたら忘れずに飲めると思いますか?」→「財布においたら、忘れなくなると思います!」 未来に焦点を当て、これからの行動に結びつきやすい結果が得られる。

否定質問 vs 肯定質問

否定質問(あまりオススメしない) 「ダメじゃないですか!」→「…ですよね。でも、」 やることをやっていなかった場面でつい使いがち。相手は保身にまわりやすく、考えを閉ざしてしまう。

肯定質問(オススメ) 「そんなこともありますよ。どうしたら、できそうですか?」→「つい忘れちゃって。次は気をつけます!」 相手の言動を肯定的に捉え、相手の考えを促す。具体的な行動に結びつきやすい。


WHY質問からWHAT・HOW質問へ

これが最も重要な質問の転換です。

WHY質問(原因追及型:オススメしない)

「どうしてできないの!?」 「なぜ間違えた!?」 →「…」(沈黙)

「なぜ・どうして」という疑問詞は、その人自身の責任を追及する「原因思考型質問詞」です。相手を傷つける結果になりやすく、改善策には繋がりにくい。

WHAT・HOW質問(解決指向型:オススメ)

「何が調剤過誤の原因だと思う?」→「忙しかったからだと思います」 「どうしていったらいいかな?」→「優先順位をつけるといいと思います」

WHATとHOWは「具体的な解決先に向かうことができる解決指向型質問詞」です。

原因をその人に帰属させるのではなく、原因を外側に引っ張り出して「何が原因なのか」「どのようにしていけばよいか」を一緒に考える。

ミスの当事者も自分が責められた感じがしにくいので、自分のミスを客観的に見つめ直し、改善策を冷静に考えられます。


拡大質問と限定質問の使い分け

拡大質問(オープンエンドクエスチョン) 5W1Hを使う質問。相手が自由に考え、言語化することをサポートする。 「将来どうなっていたいですか?」「血糖値を良くするためにどんなことができそうですか?」

→ 話し好きな方・積極的な方に有効。情報量が多く、踏み込みやすい。

限定質問(クローズドクエスチョン) Yes/Noで答えられる質問。 「循環器内科にご通院ですか?」「朝食後に飲んでいますか?」

→ 話したがらない方・シャイな方に有効。簡単に答えられる。

実は限定質問から始めて話しやすい雰囲気を作り、拡大質問に移行するという使い方も効果的です。


糖尿病患者さんへの「質問力」実例

コーチングを使った糖尿病患者さんへの具体的な質問例:

「糖尿病でもっとも困っている・心配なことは何ですか?」 「糖尿病はあなたやご家族の毎日の生活にどんな影響を与えていますか?」 「(説明前に)お知りになりたいのはどんなことでしょうか?」 「糖尿病を良くするために何かしていることがありますか?」 「糖尿病を良くするために何か一つしてみるとしたら、どんなことができそうですか?」

これらはすべて「For you」の未来質問・肯定質問です。


質問のポイントまとめ

① 拡大質問 ≧ 限定質問(まず拡大、シャイな人には限定から) ② 未来質問 > 過去質問 ③ 肯定質問 > 否定質問 ④ WHAT・HOW > WHY(「なぜ」より「何が・どのように」)


まとめ

  • 「For you」の質問が相手の内発的気づきを促す効果的な質問
  • 過去より未来に焦点を当てる質問が行動に結びつく
  • 否定より肯定の表現で相手の考えを促す
  • WHYより「WHAT・HOW」で解決指向の話し合いができる
  • 患者さんへの具体的な質問例を意識して活用する

次回は「Iメッセージ・YOUメッセージ:言葉の主語を変えるだけで関係が変わる」を解説します。


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承認スキル⑦ 

病院薬剤師の仕事ブログ(hosphar)

2026年7月6日月曜日

承認スキル:5種類の承認で相手の自己肯定感を高める【コーチングシリーズ⑦】

 「仕事をしていて一番つらいことの一つは、誰にも認めてもらえないこと」——これはスタッフにも患者さんにも共通する感情です。今回はコーチングの「承認スキル」を解説します。


承認とは何か

承認とは、相手の変化や成長、存在そのものを、ありのままに認めて、相手に伝えることです。

「誰かに認めてもらいたい」——これは人間の根本的な欲求です(マズローの欲求5段階説の第4段階:承認欲求)。

この承認欲求が満たされることで、人は次の「自己実現」へと向かう力を得ます。

承認は「心の栄養・心のビタミン」です。


「褒める」と「勇気づけ」の決定的な違い

アドラー心理学では「褒めない、叱らない。勇気づけをする」と言われます。

この「褒める」と「勇気づけ」の違いが重要です。

褒める(縦の関係・YOUメッセージ)

「綺麗に掃除できたね。偉いです!」 「売上目標達成したね。良くやった!」

褒めるは「事実+評価」。主語が「あなた(YOU)」になります。評価する側とされる側という縦の関係になります。

勇気づけ(横の関係・Iメッセージ)

「わかりやすい資料ですね。助かります!」 「元気な挨拶してくれるね。嬉しいよ!」

勇気づけは「事実+Iメッセージ(私の感情)」。相互尊敬・相互信頼の横の関係から生まれます。

アドラーの言葉:

「人は貢献感を感じ、自分に価値があると思える時にだけ勇気を持つことができる」


勇気づけの3兄弟

最も万能な承認の言葉は、実はシンプルな3つです。

  • 「ありがとう!」
  • 「嬉しい!」
  • 「助かった!」

これが「勇気づけ3兄弟」です。

難しいことを言わなくていい。この3つを日常的に使うだけで、職場の雰囲気は大きく変わります。


5種類の承認

承認には5つの種類があります。

① 結果承認 生み出した結果を承認する。 「先月のHbA1cが改善しましたね!」

② プロセス承認(過程承認) 結果に至るまでのプロセスや苦労を承認する。失敗したときに特に効果的。 「毎日頑張って来てくれてましたよね。その積み重ねが確実に出てきています」

③ 行動承認 具体的な行動を承認する。 「毎日薬を飲み続けているんですね」

④ 意識承認 まだ行動には出ていないが、意識していることを承認する。 「薬を飲もうとしていることが、もう大事な一歩ですね」

⑤ 存在承認 相手の唯一性・存在そのものを承認する。承認の中で最も重要。 「○○さんに来てもらえて、私も元気をいただいています」


存在承認:在宅・終末期で特に重要

5種類の中で最も大切なのが「存在承認」です。

医療の最前線——在宅や終末期の現場では特に重要です。

利用者さん:「いつもすまんなぁ。ワシなんか人に世話をかけてばっかりで、何の役にも立たん」

薬剤師:「そんなことありませんよ。○○さんに来てもらいたくて、私はお薬を準備しています。○○さんにお会いして、元気をいただいているんですよ。」

利用者さん:「…ありがとう」

「あなたがここにいていいんだ」という安心感——これが存在承認の力です。


承認の示し方:うなずき・あいづち・リフレイン

承認は言葉だけでなく、非言語でも伝えられます。

うなずき 相手の話をしっかり聴き、うなずく。うなずきがない相手に話すことはとても苦痛に感じてしまいます。うなずくだけでも相手は認めてもらっていると感じられます。

あいづち 「うん」「なるほど」「そうなんですね」「いいですね」など。コツは少なすぎず多すぎず。口癖のようにならないよう、バリエーションを持つ。

リフレイン(オウム返し) 相手の言葉をそのまま繰り返したり、キーワードのみを繰り返す。


まとめ

  • 承認とは相手の変化・成長・存在をありのままに認めて伝えること
  • 「褒める(縦・YOU)」より「勇気づけ(横・I)」が強力
  • 勇気づけ3兄弟:「ありがとう」「嬉しい」「助かった」
  • 5種類の承認:結果・プロセス・行動・意識・存在
  • 存在承認が最も重要。「あなたがいていい」という安心感を届ける

次回は「質問スキル:相手の可能性を引き出す効果的な質問とは」を解説します。


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傾聴スキル⑥ 

病院薬剤師の仕事ブログ(hosphar)

2026年7月5日日曜日

傾聴スキル:「心で聴く」3つのレベルと実践法【コーチングシリーズ⑥】

 コーチングの3大基本スキルは「傾聴・承認・質問」です。今回はその中でも最も基本となる「傾聴」について解説します。傾聴は「ただ聞く」ことではありません。


傾聴には3つのレベルがある

レベル1:耳で聞く 耳で音だけを聞く。BGMとして聞く。話に食いつかない。

レベル2:頭で聞く 頭でいろいろ判断し、自分の考えをもって聞く。反対意見を持ったりして(しまう)。

レベル3:心で聴く(本当の傾聴) 心を一緒に動かして聴く。

相手の眼になり、耳になり、心になって、 相手と同じ目で見て、同じ耳で聴いて、同じ心で感じようと思って 相手の話を聴くこと。

コーチングで求められるのはこのレベル3です。


傾聴の4つのポイント

① 先入観・固定観念の排除(ゼロポジション)

「この患者さんはいつも薬を飲まない人だから…」「この部下は問題を起こすから…」という固定観念を取り払う「ゼロ」の状態で聴く。

自分のフレームを取り払うことが、相手を正しく理解する最初のステップです。

② 最後まで聴く

自分の話したいことは脇に置く。相手が話し終わるまで遮らない。これだけで相手の信頼を大きく得ることができます。

③ うなずき・あいづち

相手が話しやすくなるような、うなずき・あいづちをしましょう。 ポイントは相手の話し方に合わせた深さ・同じくらいの頻度。「うんうんうん」と連続したり、口癖のように「なるほどなるほど」を繰り返すのは逆効果です。バリエーションを持って。

④ 共感(同情・同感と区別する)

意味
同情かわいそうに思うこと
同感自分の経験から解釈すること
共感他人の気持ちを理解しようと努めること

「かわいそうに」と上から見るのでも、「自分もそうだったから」と自分の経験を押し付けるのでもなく、「あなたはそう感じているんですね」と相手の気持ちに寄り添うのが共感です。

⑤ ペーシング

相手の身振りや動作、表情、話すスピードに合わせること。人は「自分と似ている」と感じる相手に親近感を覚えます。


傾聴を妨げる「D言葉」

傾聴を妨げる「D言葉」があります。

だから」「だけど」「だったら」「だって」「でも」「ですから」「どうせ

相手との会話の中でD言葉を使うと、相手は自分を否定されたと感じ、話を傾聴してもらえないという不信感を持つようになります。

代わりに「YES+BUT法」を使う:

「そうですね(YES)」→ 相手の気持ちを受け取る 「しかし…」(BUT)→ 自分の考えを添える 「どうでしょうか?」→ 確認する

この順番で話すと、否定的なニュアンスを和らげながら自分の意見を伝えられます。


傾聴の3つの具体スキル

ミラーリング 相手の姿勢や仕草を鏡のように合わせる

ペーシング 相手の声のトーンや話すペースを合わせる

バックトラッキング(オウム返し) 相手の言葉をそのまま繰り返したり、時おり要約して返す

バックトラッキングは特に強力です。話し手が自分の言葉を聞き直すことで、混沌としていた考えが整理され、新たな気づきが生まれます。

例: 患者さん:「最初の1週間は頑張って散歩していたけど、雨が続いてやめちゃいました。やっぱりだめですね」

バックトラッキングA:「雨が続いてやめちゃったんですね」(ネガティブを強調) バックトラッキングB:「運動のよさを実感された時期もあったんですね」(ポジティブを強調)

バックトラッキングの仕方によって、その後の話の方向性が大きく変わります。できたことに焦点を当てることで、行動変容がより効果的になります。


「聴くということ」——詩に学ぶ傾聴の本質

グレン・ヴァン・エカレンの詩の一節を紹介します。

話を聞いてくれと言うと、あなたは忠告を始める。 私はそんなことを頼んでいない。 話を聞いてくれと言うと、問題を解決してくれようとする。 私が求めているのは、そんなことではない。 聞いてください。ただ私の話を聞くだけでいい。

患者さんもスタッフも、まず「聴いてほしい」と思っています。すぐにアドバイスや解決策を出そうとするより、まず「聴く」——この姿勢が、信頼関係の基盤になります。


まとめ

  • 傾聴の3レベル:耳で聞く→頭で聞く→心で聴く(コーチングはレベル3)
  • 4つのポイント:先入観排除・最後まで聴く・うなずき・共感
  • D言葉(だから・だけど・でも…)は傾聴を妨げる
  • ミラーリング・ペーシング・バックトラッキングが具体スキル
  • まず「聴く」——これが信頼関係の土台

次回は「承認スキル:5種類の承認で相手の自己肯定感を高める」を解説します。


講演・研修依頼について

「コーチングを活用した患者・スタッフとの信頼関係の作り方」研修を病院・薬局向けに承っています。 E-mail:toshiki.taura@gmail.com

≪関連記事≫ 

信頼関係の作り方⑤ 

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