2026年7月11日土曜日

共感的理解:同じ目・耳・心で聴くとはどういうことか【コーチングシリーズ⑫】

 「共感」という言葉はよく使われますが、「共感的理解」は少し違います。今回はコーチングの核心にある「共感的理解」を、医療現場での実践につながる形で解説します。


「共感」と「共感的理解」の違い

まず言葉の整理から。

共感(Sympathy) 他人の考え・主張に「全くそうだと感ずること」。

共感的理解(Empathic Understanding) 相手が見たまま、聞いたまま、感じたままを、自分の解釈を入れず、評価せず受け止めるという行為。

共感は「私もそう思う」という共鳴ですが、共感的理解は「あなたがそう感じているということを、私は理解しようとしている」という姿勢です。


共感的理解を別の言い方で

「相手と同じ目で見て、同じ耳で聴いて、同じ心で感じようと思って、相手の話を聴くこと」

これが共感的理解の本質です。

「思って」というのがポイントです。完全に同じ心になることは不可能ですが、「なろうとする姿勢」——これが相手に伝わります。


同情・同感・共感の違い

医療現場でよく混同される3つの概念を整理します。

概念意味
同情かわいそうに思うこと(上から見下ろす視点)
同感自分の経験から解釈すること(自分フィルター)
共感的理解他人の気持ちを理解しようと努めること(相手の視点)

「かわいそうに」は同情で、相手の感情に対して上から評価しています。 「私もそういう経験があります」は同感で、自分の経験を投影しています。 「あなたがそう感じているんですね」が共感的理解です。


共感的理解の効果

共感的理解で聴くと、相手に3つのことが起きます。

  • 相手は、とても安心します
  • 相手は、もっと話したい気持ちになります
  • 相手と信頼関係の基礎を築くことができます

患者さんが「聴いてもらえた」と感じた瞬間から、心が開き始めます。アドバイスが届くのはその後です。


コミュニケーションの2つのポイント

共感的理解を実践するための2つの視点:

① 視点を変えて見てみよう(特に相手の目線で)

「私はこう思う」ではなく、「この患者さんはどう見ているのか」という視点の切り替え。同じ状況でも立場によって全く違う風景が見えています。

② イメージ化がポイント

伝える時はイメージ化。聴く時もイメージ化。

患者さんが「朝起きるのがつらくて、薬を飲む気になれない」と言った時、その患者さんの朝の風景を頭の中で映像化する。そうすることで、言葉の奥にある感情が伝わってきます。


聴き方の12のポイント

共感的理解を実践するための具体的な聴き方:

① ポジション(位置・距離) ② 姿勢 ③ ゼスチャー ④ 表情 ⑤ うなずき ⑥ あいづち ⑦ バックトラッキング(オウム返し) ⑧ ミラーリング ⑨ マッチング ⑩ イメージング(共感的理解) ⑪ プラス1ステート(相手より少し高いエネルギー状態を保つ) ⑫ 質問


バックトラッキングの使い方

前回も触れましたが、共感的理解において特に重要なのがバックトラッキングです。

患者さんの言葉をそのまま返したり、要約して返すことで:

  • 「ちゃんと聴いてもらえている」という安心感を与える
  • 患者さん自身の考えが整理される
  • 後の会話の方向性をポジティブに導ける

例: 患者さん「最近、仕事が忙しくて薬を飲み忘れることが増えてきました…」

バックトラッキング:「仕事が忙しい中でも、薬を飲もうとしているんですね」

同じ内容でも、「飲み忘れている(ネガティブ)」ではなく「飲もうとしている(ポジティブ)」にフォーカスすることで、次の話が全く変わります。


まとめ

  • 共感的理解:相手の解釈・評価を入れず、見たまま・聴いたまま・感じたままを受け止める
  • 同情(上から)・同感(自分フィルター)と区別する
  • 「あなたがそう感じているということを、理解しようとしている」姿勢が伝わる
  • 共感的理解の効果:安心・もっと話したくなる・信頼関係の基礎
  • バックトラッキングでポジティブな側面にフォーカスする

次回は「内発的気づきを引き出す——指示より質問が人を成長させる理由」を解説します。


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アドラー心理学⑪ 

病院薬剤師の仕事ブログ(hosphar)

2026年7月10日金曜日

アドラー心理学の5つの要素:医療従事者のための人間関係の教科書【コーチングシリーズ⑪】

 コーチングの根底にある哲学として、アドラー心理学があります。「嫌われる勇気」でも有名なアルフレッド・アドラーの考え方は、患者さんとの関わり方・スタッフマネジメントの両方に深く関係しています。


アドラー心理学の5つの要素

アドラー心理学は5つの柱から成り立っています。

① 目的論 人の行動は「過去の原因」ではなく「未来の目的」によって決まる。「あなたが過去にこんな経験をしたから、こうなった」ではなく、「あなたは今何を目的として行動しているのか」という視点。

② 全体論 人間は分割できない全体として捉える。身体・精神・感情は切り分けられない統合体である。

③ 社会統合論 人間は本来、社会や他者とのつながりの中で生きている。人は「共同体感覚」を持って社会に貢献することで幸福を感じる。

④ 現象学的立場 客観的な現実ではなく、その人が主観的にどう見ているかが行動を決定する。「その人にとっての現実」を理解することが大切。

⑤ 勇気づけの心理学 アドラー心理学は「勇気づけ」の心理学。人が行動を変えるのに必要なのは「勇気」であり、その勇気を与えることがサポートの本質。


医療への応用:目的論で患者さんを見る

アドラーの目的論を医療に当てはめると、患者さんの見方が変わります。

「なぜ薬を飲まないのか(過去・原因)」ではなく、 「何のために飲まないという行動をとっているのか(目的)」

薬を飲まないことで「忙しいことをアピールできる」「自分はまだ元気だと感じられる」「副作用が怖いという不安から逃げられる」——患者さんの行動には必ず目的があります。

その目的を理解することで、効果的な介入のポイントが見えてきます。


「勇気づけ」の心理学

アドラーの言葉:

「人は貢献感を感じ、自分に価値があると思える時にだけ勇気を持つことができる」

勇気づけとは、相手が「目標に向かって進む力・困難を克服する力」を持てるよう支援することです。

アドラー心理学は「叱らない、褒めない、勇気づける」を実践します。

「褒める(縦の関係・評価)」ではなく、「勇気づけ(横の関係・貢献感)」によって、人は自ら行動する力を得ます。


相互尊敬・相互信頼

アドラー心理学の核心にあるのは「相互尊敬・相互信頼」です。

医療従事者と患者さんの関係は、どうしても「教える側・教えられる側」という縦の関係になりがちです。

しかしアドラーは「横の関係」を重視します。患者さんを対等なパートナーとして尊重し、一緒に目標に向かって歩む——この姿勢がコーチングの土台になります。


ABC理論:感情は出来事ではなく「受け止め方」で決まる

アドラー心理学と関連する重要な概念が「ABC理論」です。

  • A(Activating event):出来事——遭遇する出来事(100%コントロール不可)
  • B(Belief):受け止め方——出来事をどう受け止めるか(自分の意志で変えられる)
  • C(Consequence):感情——結果として生まれる感情・気持ち

「同じ出来事(A)でも、受け止め方(B)が違えば、感情(C)も変わる」——これがABC理論の核心です。

患者さんが「糖尿病と診断された(A)」という同じ出来事でも、「もう終わりだ(B)→絶望(C)」と受け止める人もいれば、「早めに見つかってよかった(B)→安心(C)」と受け止める人もいます。

薬剤師が介入できるのは「B(受け止め方)」へのアプローチです。


2:6:2の法則——嫌われることに楽になる

アドラー心理学の文脈で、人間関係について知っておいてほしいのが「2:6:2の法則」です。

どんな人でも:

  • 自分を好きな人:2割
  • どっちでもない人:6割
  • 自分を嫌いな人:2割

これはパレートの法則から派生した、組織における自然の法則です。働きアリでも同じで、全力で働く2割、普通に働く6割、サボる2割に必ず分かれます。

「あの患者さんに嫌われた」「あのスタッフに嫌われている」——そう感じる時は、「2割に入っちゃったか」くらいに思えると楽になります。

嫌われないように必死になるより、自分らしくあることの方がずっと大切です。


まとめ

  • アドラー心理学5つの要素:目的論・全体論・社会統合論・現象学・勇気づけ
  • 目的論:「なぜ(過去)」より「何のために(未来)」で患者さんを理解する
  • 勇気づけ:横の関係からの貢献感が人を動かす
  • ABC理論:感情は出来事でなく受け止め方が決める
  • 2:6:2の法則:嫌われることを恐れず、自分らしくあることが大切

次回は「共感的理解:同じ目・耳・心で聴くとはどういうことか」を解説します。


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  GROWモデル⑩ 

病院薬剤師の仕事ブログ(hosphar)

2026年7月9日木曜日

GROWモデル:面談・指導を劇的に変える4ステップ【コーチングシリーズ⑩】

 コーチング面談の実践で最も使われるのが「GROWモデル」です。患者さんとの服薬指導から、スタッフとの1on1面談まで幅広く活用できる強力なフレームワークです。


GROWモデルとは

GROWモデルは、コーチング面談の質問を4つのステップで構造的に捉えるフレームワークです。

  • G(Goal):ゴール——目標を明確にする
  • R(Reality):リアリティ——現状を明確にする
  • R(Resource):リソース——活用できる資源を確認する
  • O(Option):オプション——選択肢を引き出す
  • W(Will):ウィル——意思決定を促す

このモデルを使うことで、面談中に「どこを質問しているのか」が明確になり、迷子にならずに済みます。


G:ゴールの質問——あるべき姿を明確にする

まず「どういう状態を目指しているか」を明確にします。

ゴール設定の質問例:

  • 「どういう状態を目指していますか?」
  • 「具体的にはどういうことですか?」
  • 「例えばどういう状態でしょうか?」
  • 「どれくらいの数値になると達成感が得られますか?」
  • 「その目標を達成したい理由は何でしょうか?」
  • 「その目標が達成できたら何を得られると思いますか?」

糖尿病患者さんへの例: 「血糖値をどのくらいにしたいですか?」 「HbA1cが7.0%になった時、どんな生活ができていると思いますか?」

目標の数値だけでなく、「その目標を達成した先にある生活・未来」を明確にすることが重要です。未来のイメージが明確なほど、行動への動機が強くなります。


R:リアリティ&リソースの質問——現状と資源を明確にする

現在の状態と、活用できる資源(人・物・時間・経験)を確認します。

現状確認の質問例:

  • 「そのことについて、現在はどんな状態ですか?」
  • 「今までどんな対応を取ってきましたか?」
  • 「上手くいった点とそうでない点は?」

資源確認の質問例:

  • 「活用できる資源はありませんか?」
  • 「誰か頼れる人はいませんか?」
  • 「うまくいくときといかないときの差は何だと思いますか?」

スタッフ面談での例: 「この半年で、自分が頑張れたと思うことはどんなことですか?」 「その経験から、今後に活かせることはありますか?」


O:オプションの質問——選択肢を豊富に引き出す

ゴールに向かうための「選択肢」をできるだけ多く引き出します。

選択肢を引き出す質問例:

  • 「どんなことをすると目標が達成できそうですか?」
  • 「他にはいかがですか?」
  • 「うまくいった時のやり方を再現できる方法は?」
  • 「別のやり方で目標達成できる方法は?」
  • 「もし制限がなかったとしたら、何をやってみますか?」

ポイント:どれだけ豊富に選択肢を出せるかが大事です。「それしかない」ではなく「こんな方法もある」という可能性の広がりが、相手の自主性を引き出します。


W:ウィルの質問——意思決定を促す

選択肢から実際に「何を、いつ、どうやって」実行するかを決める段階です。

意思決定を促す質問例:

  • 「様々な選択肢の中で、何を実行に移しますか?」
  • 「いつまでに実行しますか?」
  • 「達成の可能性は何%くらいだと感じますか?」
  • 「進捗のチェックはどうやって行いますか?」
  • 「誰か巻き込んでおいた方がいい人はいませんか?」

大切なこと:コーチが答えに誘導(エセコーチング)するのではなく、相手が本当に求めている正解に導いてあげることが本物のコーチングです。


面談の4レベルと目指すべき関係

スタッフとの面談には4つのレベルがあります。

  • レベル1:雑談面談
  • レベル2:トラブル対応面談
  • レベル3:問題発見・悩み解消面談
  • レベル4:目標共有・共感度アップ面談 ←ここを目指す

多くの管理職が「チームがひとつにならない」と悩みますが、原因は「目標をベースとしたコミュニケーションの不足」にあります。

GROWモデルでの面談習慣が、チームを目標共有・共感度アップの段階へ引き上げます。


私の1on1面談テンプレート

参考として、私が実際に使っている1on1面談のテンプレートを紹介します。

今期(12月〜5月 or 6月〜12月):10点満点中何点? →「何でその点数だったの?」 →「頑張ったこと、取り組んだこと、反省を教えてください」

どうすればあと1〜2点上がりますか? →「次期に向けて頑張りたいこと、やりたいこと」

悩みや問題はある?

周りにプラスを与えられること(患者・自部署・他部署)——一つ宣言

シンプルですが、このテンプレートを使うことで面談が「雑談」で終わらず、スタッフの成長と目標共有につながります。


まとめ

  • GROWモデル:G(目標)→ R(現状・資源)→ O(選択肢)→ W(意思決定)の4ステップ
  • 目標の数値だけでなく「達成した先の未来」を明確にする
  • 選択肢は豊富に引き出す——「これしかない」から「こんな方法も」へ
  • コーチは相手が本当に求める答えに導く(エセコーチングにならない)
  • 1on1面談を習慣化することでチームが目標共有・共感度アップへ

次回は「アドラー心理学の5つの要素:医療従事者のための人間関係の教科書」を解説します。


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Iメッセージ・YOUメッセージ⑨ 

病院薬剤師の仕事ブログ(hosphar)

2026年7月8日水曜日

Iメッセージ・YOUメッセージ:主語を変えるだけで関係が変わる【コーチングシリーズ⑨】

 「なんでできないの!」「ちゃんと飲んでください!」——医療現場でこんな言葉を使っていませんか?今回は言葉の主語を変えるだけで、コミュニケーションが劇的に変わる「Iメッセージ」を解説します。


YOUメッセージとIメッセージの違い

YOUメッセージ:主語が「あなた(YOU)」

「(あなたは)いいかげんにしなさい」 「(あなたは)何度言ったらわかるの」 「(あなたは)なんで薬飲んでないの!?」

YOUメッセージは、相手を責めてしまう傾向があります。言われた側は「自分を攻撃された」と感じ、心の壁を作ります。

Iメッセージ:主語が「わたし(I)」

「(私は)飲んでくれないと倒れたりしないか心配なんです」 「(私は)あなたがいてくれて助かった」 「(私は)連絡がないと心配になる」

Iメッセージは自分の気持ちや考えを主張するにとどまり、相手を尊重したコミュニケーションができます。


薬を飲んでいない患者さんへの関わり方

実際の医療現場での比較です。

YOUメッセージ(避けたい) 「なんで薬飲んでないの?ちゃんと飲まないとダメじゃないですか!」 → 患者さんは萎縮するか、言い訳を考えるかのどちらか

Iメッセージ(オススメ) 「飲んでくれないと倒れたりしないか心配なんです」 「薬をしっかり飲んでくれるとお子さんも安心するんじゃないですか」 → 患者さんは責められた感じがなく、自分ごととして考えやすい


3段階のアイメッセージ

アドラー心理学では、主張を3段階で行うことを教えています。

レベル1:表情アイメッセージ(まずこれを試す) 言葉にしないで表情や声の調子で感情を表現する。30%くらいの人はこれだけで気づいてくれる。

レベル2:言葉のアイメッセージ(それでも気づかない場合) 具体的に言葉にしていく。70%の人はここで気づいてくれる。

レベル3:YOUメッセージ(最後の手段) これでも理解してくれない場合は最終手段としてYOUメッセージを使う。


実例:迷子になった子供への声かけ

親子でデパートに行って、子供が迷子になってやっと再会できました。

YOUメッセージ 「どこに行っていたのよ!はぐれないでよ!もう連れてこないよ!」

Iメッセージ 「心配してたよ。無事でいてくれてよかった」

Iメッセージの後には「心配させないようにしよう」という前向きな行動に繋がります。


実例:テストの点数が悪かった子供へ

いつも80点ぐらいが当たり前の息子が30点を取ってきた。

YOUメッセージ 「ちゃんと勉強した!なんでそんな点数取ったの!そんな点数取って恥ずかしいよ!」

Iメッセージ 「言いづらかったよね。見せたくなかったよね。ちゃんと見せてくれてありがとうね。次いい点を取れるように一緒に勉強しようね」

テストを見せてくれたこと(行動)を承認してから、前向きな提案へ。


Iメッセージの3つの構成要素

効果的なIメッセージには3つの要素があります。

① 事実(行動) 相手の行為や出来事を非難がましくなく述べる(事実の描写)

② 影響 その行為によって生じる「波及効果」を伝える

③ 感情 あなたの素直な心情を伝える

例)遅刻癖のある彼氏への一言: 「(私は)大事にされている感じがしない…(感情)遅れるとき(事実)は、次から時間を守ってほしい(影響・お願い)」


Iメッセージを使う注意点

Iメッセージにも弱点があります。

  • 指示をするときには向かない(「○○の作業を○時までにやってほしい」はYOUメッセージの方が明確)
  • 曖昧な伝え方になりやすい(「どうすればいいかわからない」と受け取られることも)

Iメッセージが特に効果的な場面:

  • ネガティブなフィードバックをする時
  • 信頼関係がまだ十分でない時
  • 目上の人への発言

まとめ

  • YOUメッセージは相手を責める印象が強く、心の壁を作る
  • Iメッセージは自分の気持ちを伝え、相手を尊重できる
  • 3段階で主張:表情→言葉のI→YOU(最終手段)
  • Iメッセージの3要素:事実・影響・感情
  • 指示・命令の場面はYOUメッセージの方が明確なことも

次回は「アドラー心理学の勇気づけ:褒めると勇気づけの本質的な違い」を解説します。


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質問スキル⑧ 

病院薬剤師の仕事ブログ(hosphar)

2026年7月7日火曜日

質問スキル:「WHY」より「WHAT・HOW」で相手の可能性を引き出す【コーチングシリーズ⑧】

 コーチングの3大スキルの中で、最もコーチ力が問われるのが「質問」です。良い質問は相手の視点を変え、相手自身が気づきを見つける力を持ちます。


「For me」の質問と「For you」の質問

質問には大きく2種類あります。

「For me」の質問(情報収集の質問) 質問者が知りたいことを聞く質問。「今日はどこが痛いですか?」「薬はいつ飲みますか?」

「For you」の質問(効果的な質問) 相手の内発的気づきを促す質問。相手の行動を促進し、相手が自ら考える力をつける。

コーチングで求められるのは「For you」の質問です。


4種類の質問の特性

過去質問 vs 未来質問

過去質問(あまりオススメしない) 「飲み忘れちゃったんですか?」→「…はい」 過去に焦点を当てる。「そんなこと言われても、構わないでくれ」と感じさせてしまうことがある。

未来質問(オススメ) 「どうしたら忘れずに飲めると思いますか?」→「財布においたら、忘れなくなると思います!」 未来に焦点を当て、これからの行動に結びつきやすい結果が得られる。

否定質問 vs 肯定質問

否定質問(あまりオススメしない) 「ダメじゃないですか!」→「…ですよね。でも、」 やることをやっていなかった場面でつい使いがち。相手は保身にまわりやすく、考えを閉ざしてしまう。

肯定質問(オススメ) 「そんなこともありますよ。どうしたら、できそうですか?」→「つい忘れちゃって。次は気をつけます!」 相手の言動を肯定的に捉え、相手の考えを促す。具体的な行動に結びつきやすい。


WHY質問からWHAT・HOW質問へ

これが最も重要な質問の転換です。

WHY質問(原因追及型:オススメしない)

「どうしてできないの!?」 「なぜ間違えた!?」 →「…」(沈黙)

「なぜ・どうして」という疑問詞は、その人自身の責任を追及する「原因思考型質問詞」です。相手を傷つける結果になりやすく、改善策には繋がりにくい。

WHAT・HOW質問(解決指向型:オススメ)

「何が調剤過誤の原因だと思う?」→「忙しかったからだと思います」 「どうしていったらいいかな?」→「優先順位をつけるといいと思います」

WHATとHOWは「具体的な解決先に向かうことができる解決指向型質問詞」です。

原因をその人に帰属させるのではなく、原因を外側に引っ張り出して「何が原因なのか」「どのようにしていけばよいか」を一緒に考える。

ミスの当事者も自分が責められた感じがしにくいので、自分のミスを客観的に見つめ直し、改善策を冷静に考えられます。


拡大質問と限定質問の使い分け

拡大質問(オープンエンドクエスチョン) 5W1Hを使う質問。相手が自由に考え、言語化することをサポートする。 「将来どうなっていたいですか?」「血糖値を良くするためにどんなことができそうですか?」

→ 話し好きな方・積極的な方に有効。情報量が多く、踏み込みやすい。

限定質問(クローズドクエスチョン) Yes/Noで答えられる質問。 「循環器内科にご通院ですか?」「朝食後に飲んでいますか?」

→ 話したがらない方・シャイな方に有効。簡単に答えられる。

実は限定質問から始めて話しやすい雰囲気を作り、拡大質問に移行するという使い方も効果的です。


糖尿病患者さんへの「質問力」実例

コーチングを使った糖尿病患者さんへの具体的な質問例:

「糖尿病でもっとも困っている・心配なことは何ですか?」 「糖尿病はあなたやご家族の毎日の生活にどんな影響を与えていますか?」 「(説明前に)お知りになりたいのはどんなことでしょうか?」 「糖尿病を良くするために何かしていることがありますか?」 「糖尿病を良くするために何か一つしてみるとしたら、どんなことができそうですか?」

これらはすべて「For you」の未来質問・肯定質問です。


質問のポイントまとめ

① 拡大質問 ≧ 限定質問(まず拡大、シャイな人には限定から) ② 未来質問 > 過去質問 ③ 肯定質問 > 否定質問 ④ WHAT・HOW > WHY(「なぜ」より「何が・どのように」)


まとめ

  • 「For you」の質問が相手の内発的気づきを促す効果的な質問
  • 過去より未来に焦点を当てる質問が行動に結びつく
  • 否定より肯定の表現で相手の考えを促す
  • WHYより「WHAT・HOW」で解決指向の話し合いができる
  • 患者さんへの具体的な質問例を意識して活用する

次回は「Iメッセージ・YOUメッセージ:言葉の主語を変えるだけで関係が変わる」を解説します。


講演・研修依頼について

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承認スキル⑦ 

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