栄養投与ルートの選択は、患者さんの回復速度に大きく影響します。「経口が無理なら全部点滴で」という考え方では不十分です。今回はEN・PPN・TPNの違いと使い分けを解説します。
栄養投与ルートの全体像
栄養投与ルートは大きく2種類に分かれます。
栄養投与ルート
│
├─ 経腸栄養(EN:Enteral Nutrition)
│ ├─ 経口摂取
│ ├─ 経鼻チューブ(NGチューブなど)
│ ├─ 胃瘻(PEG)
│ └─ 腸瘻
│
└─ 経静脈栄養(Parenteral Nutrition)
├─ 末梢静脈栄養(PPN:Peripheral Parenteral Nutrition)
└─ 中心静脈栄養(TPN:Total Parenteral Nutrition)基本原則:「腸が使えるなら腸を使う」
NSTの基本原則は「If the gut works, use it!(腸が動いているなら腸を使え)」です。
経腸栄養が優先される理由:
① 腸管免疫の維持 腸を使わないと腸管バリア機能が低下します。腸内細菌のバランスが崩れ、細菌が腸壁を通過して菌血症を起こしやすくなります(バクテリアルトランスロケーション)。
② 感染性合併症の減少 中心静脈カテーテルを使用するTPNではカテーテル感染(カテーテル敗血症)のリスクがあります。
③ コストが安い 経腸栄養剤はTPN製剤より格段に安価です。
④ 生理的 消化管を通るという「本来の経路」で栄養を摂ることができます。
EN(経腸栄養)の種類
経鼻チューブ(NGチューブ)
- 鼻からチューブを胃・十二指腸・空腸に挿入
- 短期間の使用(4週間程度まで)に適する
- デメリット:患者さんの不快感が大きい・自己抜去が多い
胃瘻(PEG:経皮内視鏡下胃瘻造設術)
- 内視鏡で胃に穴を開けてカテーテルを留置
- 長期間の経腸栄養に適する
- 嚥下障害がある患者さんでも安定した栄養投与が可能
- デメリット:造設に手術が必要
腸瘻
- 空腸に直接チューブを挿入
- 胃への逆流が多い・胃切除後の患者に使用
PPN(末梢静脈栄養)の特徴
使用できる場面:
- 短期間(1〜2週間程度)の補助栄養
- 経腸栄養では不足するカロリーの補充
- 経口・経腸栄養への移行期
PPNの制限:
- 末梢静脈は高浸透圧の輸液を流せない(静脈炎を起こす)
- 投与できるカロリーが限られる(1日1000〜1200kcal程度が上限)
- たんぱく質の補給量も限られる
代表的なPPN製剤:
- ビーフリード500ml(210kcal・アミノ酸15g)
- エルネオパ1号(TPN製剤だが末梢から使えるタイプ)
- 脂肪乳剤(イントラリポス)を側管から追加してカロリー補充
TPN(中心静脈栄養)の特徴
使用できる場面:
- 経腸栄養・PPNで必要なカロリーが確保できない場合
- 消化管の使用が困難な場合(腸閉塞・消化管手術後など)
- 2週間以上の完全静脈栄養が必要な場合
TPNのメリット:
- 高カロリーの投与が可能(1日1000〜2000kcal以上)
- 完全な栄養素(糖質・アミノ酸・脂肪・ビタミン・微量元素)を投与できる
TPNのリスク:
- CVC(中心静脈カテーテル)挿入に伴う合併症(気胸・血胸・感染など)
- カテーテル感染(カテーテル敗血症):最も重篤な合併症
- 長期使用で腸管が廃用萎縮する
代表的なTPN製剤:
| 製剤名 | カロリー | 特徴 |
|---|---|---|
| エルネオパ1号(1000ml) | 560kcal | 電解質・ビタミン・微量元素含有 |
| エルネオパ2号(1000ml) | 820kcal | アミノ酸量が多い |
| ハイカリックRF(500ml) | 1000kcal | 腎不全対応・アミノ酸なし |
TPN製剤に脂肪乳剤を追加する意義
TPN製剤だけでは必須脂肪酸が補充できません。長期TPN患者では必須脂肪酸欠乏が起こることがあります。
週2〜3回の脂肪乳剤(20%イントラリポス 100ml)の追加投与が推奨されています。
栄養投与の選択フローチャート
腸が使えるか?
│
YES → 経口摂取は可能か?
│ YES → まず経口で
│ NO → 経腸栄養(NGチューブ・胃瘻)
│
NO → 短期間(2週間以内)か?
YES → PPN(ビーフリード+脂肪乳剤など)
NO → TPN(中心静脈カテーテル)まとめ
- 「腸が使えるなら腸を使う」が基本原則
- PPN:短期・補助的・1日1000kcal程度が上限
- TPN:完全栄養補給可能だがカテーテル感染リスクあり
- TPN長期使用時は必須脂肪酸補充のため脂肪乳剤を追加する
次回は「離島・僻地病院でのNST活動体験記」をお届けします。
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