2026年7月29日水曜日

経腸栄養・経静脈栄養の選択:TPN・PPN・ENの違いと使い分け【NSTシリーズ⑤】

 栄養投与ルートの選択は、患者さんの回復速度に大きく影響します。「経口が無理なら全部点滴で」という考え方では不十分です。今回はEN・PPN・TPNの違いと使い分けを解説します。


栄養投与ルートの全体像

栄養投与ルートは大きく2種類に分かれます。

栄養投与ルート
│
├─ 経腸栄養(EN:Enteral Nutrition)
│   ├─ 経口摂取
│   ├─ 経鼻チューブ(NGチューブなど)
│   ├─ 胃瘻(PEG)
│   └─ 腸瘻
│
└─ 経静脈栄養(Parenteral Nutrition)
    ├─ 末梢静脈栄養(PPN:Peripheral Parenteral Nutrition)
    └─ 中心静脈栄養(TPN:Total Parenteral Nutrition)

基本原則:「腸が使えるなら腸を使う」

NSTの基本原則は「If the gut works, use it!(腸が動いているなら腸を使え)」です。

経腸栄養が優先される理由

① 腸管免疫の維持 腸を使わないと腸管バリア機能が低下します。腸内細菌のバランスが崩れ、細菌が腸壁を通過して菌血症を起こしやすくなります(バクテリアルトランスロケーション)。

② 感染性合併症の減少 中心静脈カテーテルを使用するTPNではカテーテル感染(カテーテル敗血症)のリスクがあります。

③ コストが安い 経腸栄養剤はTPN製剤より格段に安価です。

④ 生理的 消化管を通るという「本来の経路」で栄養を摂ることができます。


EN(経腸栄養)の種類

経鼻チューブ(NGチューブ)

  • 鼻からチューブを胃・十二指腸・空腸に挿入
  • 短期間の使用(4週間程度まで)に適する
  • デメリット:患者さんの不快感が大きい・自己抜去が多い

胃瘻(PEG:経皮内視鏡下胃瘻造設術)

  • 内視鏡で胃に穴を開けてカテーテルを留置
  • 長期間の経腸栄養に適する
  • 嚥下障害がある患者さんでも安定した栄養投与が可能
  • デメリット:造設に手術が必要

腸瘻

  • 空腸に直接チューブを挿入
  • 胃への逆流が多い・胃切除後の患者に使用

PPN(末梢静脈栄養)の特徴

使用できる場面

  • 短期間(1〜2週間程度)の補助栄養
  • 経腸栄養では不足するカロリーの補充
  • 経口・経腸栄養への移行期

PPNの制限

  • 末梢静脈は高浸透圧の輸液を流せない(静脈炎を起こす)
  • 投与できるカロリーが限られる(1日1000〜1200kcal程度が上限)
  • たんぱく質の補給量も限られる

代表的なPPN製剤

  • ビーフリード500ml(210kcal・アミノ酸15g)
  • エルネオパ1号(TPN製剤だが末梢から使えるタイプ)
  • 脂肪乳剤(イントラリポス)を側管から追加してカロリー補充

TPN(中心静脈栄養)の特徴

使用できる場面

  • 経腸栄養・PPNで必要なカロリーが確保できない場合
  • 消化管の使用が困難な場合(腸閉塞・消化管手術後など)
  • 2週間以上の完全静脈栄養が必要な場合

TPNのメリット

  • 高カロリーの投与が可能(1日1000〜2000kcal以上)
  • 完全な栄養素(糖質・アミノ酸・脂肪・ビタミン・微量元素)を投与できる

TPNのリスク

  • CVC(中心静脈カテーテル)挿入に伴う合併症(気胸・血胸・感染など)
  • カテーテル感染(カテーテル敗血症):最も重篤な合併症
  • 長期使用で腸管が廃用萎縮する

代表的なTPN製剤

製剤名カロリー特徴
エルネオパ1号(1000ml)560kcal電解質・ビタミン・微量元素含有
エルネオパ2号(1000ml)820kcalアミノ酸量が多い
ハイカリックRF(500ml)1000kcal腎不全対応・アミノ酸なし

TPN製剤に脂肪乳剤を追加する意義

TPN製剤だけでは必須脂肪酸が補充できません。長期TPN患者では必須脂肪酸欠乏が起こることがあります。

週2〜3回の脂肪乳剤(20%イントラリポス 100ml)の追加投与が推奨されています。


栄養投与の選択フローチャート

腸が使えるか?
  │
  YES → 経口摂取は可能か?
  │       YES → まず経口で
  │       NO  → 経腸栄養(NGチューブ・胃瘻)
  │
  NO → 短期間(2週間以内)か?
         YES → PPN(ビーフリード+脂肪乳剤など)
         NO  → TPN(中心静脈カテーテル)

まとめ

  • 「腸が使えるなら腸を使う」が基本原則
  • PPN:短期・補助的・1日1000kcal程度が上限
  • TPN:完全栄養補給可能だがカテーテル感染リスクあり
  • TPN長期使用時は必須脂肪酸補充のため脂肪乳剤を追加する

次回は「離島・僻地病院でのNST活動体験記」をお届けします。


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