「共感」という言葉はよく使われますが、「共感的理解」は少し違います。今回はコーチングの核心にある「共感的理解」を、医療現場での実践につながる形で解説します。
「共感」と「共感的理解」の違い
まず言葉の整理から。
共感(Sympathy) 他人の考え・主張に「全くそうだと感ずること」。
共感的理解(Empathic Understanding) 相手が見たまま、聞いたまま、感じたままを、自分の解釈を入れず、評価せず受け止めるという行為。
共感は「私もそう思う」という共鳴ですが、共感的理解は「あなたがそう感じているということを、私は理解しようとしている」という姿勢です。
共感的理解を別の言い方で
「相手と同じ目で見て、同じ耳で聴いて、同じ心で感じようと思って、相手の話を聴くこと」
これが共感的理解の本質です。
「思って」というのがポイントです。完全に同じ心になることは不可能ですが、「なろうとする姿勢」——これが相手に伝わります。
同情・同感・共感の違い
医療現場でよく混同される3つの概念を整理します。
| 概念 | 意味 |
|---|---|
| 同情 | かわいそうに思うこと(上から見下ろす視点) |
| 同感 | 自分の経験から解釈すること(自分フィルター) |
| 共感的理解 | 他人の気持ちを理解しようと努めること(相手の視点) |
「かわいそうに」は同情で、相手の感情に対して上から評価しています。 「私もそういう経験があります」は同感で、自分の経験を投影しています。 「あなたがそう感じているんですね」が共感的理解です。
共感的理解の効果
共感的理解で聴くと、相手に3つのことが起きます。
- 相手は、とても安心します
- 相手は、もっと話したい気持ちになります
- 相手と信頼関係の基礎を築くことができます
患者さんが「聴いてもらえた」と感じた瞬間から、心が開き始めます。アドバイスが届くのはその後です。
コミュニケーションの2つのポイント
共感的理解を実践するための2つの視点:
① 視点を変えて見てみよう(特に相手の目線で)
「私はこう思う」ではなく、「この患者さんはどう見ているのか」という視点の切り替え。同じ状況でも立場によって全く違う風景が見えています。
② イメージ化がポイント
伝える時はイメージ化。聴く時もイメージ化。
患者さんが「朝起きるのがつらくて、薬を飲む気になれない」と言った時、その患者さんの朝の風景を頭の中で映像化する。そうすることで、言葉の奥にある感情が伝わってきます。
聴き方の12のポイント
共感的理解を実践するための具体的な聴き方:
① ポジション(位置・距離) ② 姿勢 ③ ゼスチャー ④ 表情 ⑤ うなずき ⑥ あいづち ⑦ バックトラッキング(オウム返し) ⑧ ミラーリング ⑨ マッチング ⑩ イメージング(共感的理解) ⑪ プラス1ステート(相手より少し高いエネルギー状態を保つ) ⑫ 質問
バックトラッキングの使い方
前回も触れましたが、共感的理解において特に重要なのがバックトラッキングです。
患者さんの言葉をそのまま返したり、要約して返すことで:
- 「ちゃんと聴いてもらえている」という安心感を与える
- 患者さん自身の考えが整理される
- 後の会話の方向性をポジティブに導ける
例: 患者さん「最近、仕事が忙しくて薬を飲み忘れることが増えてきました…」
バックトラッキング:「仕事が忙しい中でも、薬を飲もうとしているんですね」
同じ内容でも、「飲み忘れている(ネガティブ)」ではなく「飲もうとしている(ポジティブ)」にフォーカスすることで、次の話が全く変わります。
まとめ
- 共感的理解:相手の解釈・評価を入れず、見たまま・聴いたまま・感じたままを受け止める
- 同情(上から)・同感(自分フィルター)と区別する
- 「あなたがそう感じているということを、理解しようとしている」姿勢が伝わる
- 共感的理解の効果:安心・もっと話したくなる・信頼関係の基礎
- バックトラッキングでポジティブな側面にフォーカスする
次回は「内発的気づきを引き出す——指示より質問が人を成長させる理由」を解説します。
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