「どうすれば患者さんやスタッフが自分から動くようになるのか?」——これは多くの医療従事者が悩む問いです。答えの鍵は「内発的動機づけ」にあります。
やる気には2種類ある
外発的動機づけ(External Motivation)
金銭・報酬・評価・罰則など、外部からの刺激によって行動が引き出される状態です。
「ボーナスが上がるから頑張る」「怒られるから薬を飲む」——これが外発的動機づけです。
外発的動機づけには限界があります。報酬がなくなると行動もなくなる。罰則がなくなれば元に戻る。
内発的動機づけ(Internal Motivation)
興味・関心・向上心・達成感など、内面から湧き上がる力によって行動が引き出される状態です。
「健康でいたいから薬を飲む」「患者さんの役に立ちたいから勉強する」——これが内発的動機づけです。
内発的動機づけから生まれた行動は継続しやすく、質が高く、満足度も高いのが特徴です。
のび太くんのお母さんの事例
アニメ「ドラえもん」の有名なシーンを例に考えましょう。
外発的アプローチ(命令型)
お母さん:「のび太、勉強しなさい!」
のび太:「は、はい。」(やる気:小)内発的アプローチ(コーチング型)
お母さん:「のび太は、将来どんな仕事がしたいの?」
のび太:「将来は、薬剤師になりたいの。」
お母さん:「どうしたら薬剤師になれるんだろう?」
のび太:「薬学部に行かなきゃなれないね。」
お母さん:「薬学部って、何を勉強したら入れるの?」
のび太:「数学と化学と英語だよ!」
お母さん:「薬学部に入るために、これからどのようなことができると思うの!?」
のび太:「あっ、勉強しなきゃ!」(やる気:大)同じ「勉強する」という結果でも、自分で考えて決めた時の方がやる気が全く違うのです。
アンダーマイニング効果に注意
「褒美で釣ればいい」と思いがちですが、注意が必要です。
アンダーマイニング効果とは、達成感や満足感を得るために行っていた行動に報酬が加わることで、「報酬を受けること」そのものが目的になり、本来の内的な動機が失われてしまう心理現象です。
「患者さんが検査値を改善させたらお菓子をあげる」——これを続けると、お菓子がもらえなくなった途端にモチベーションが下がります。
ただし、ほめ言葉は例外です。言語的な称賛は内発的動機づけを高める効果があります(後述の「承認スキル」で詳しく解説します)。
内発的動機づけの本質:自律性と有能感
内発的動機づけを高めるためのカギは2つです。
① 自律性(Autonomy):「楽しいからやろう」という自己決定感
自分が主体的に選んでいるという感覚が、やる気の根本になります。
患者さんに「飲み忘れないようにどんな工夫ができそうですか?」と聞くと、患者さん自身が考えた解決策が生まれます。「薬を財布に入れておく」「スマホのアラームを設定する」——これらは患者さん自身のアイデアなので、実行率が全く違います。
② 有能感(Competence):「進んだ・ほめられた・ぼくもできる」という感覚
小さな成功体験と、それを認めてもらう承認が重要です。「先月よりHbA1cが0.3%改善しましたね!」という一言が、次の行動へのエネルギーになります。
医療での実践:「やらされ感」をなくす質問
外発的アプローチ(やらされ感あり): 「食事制限してください」「毎日運動してください」「必ず薬を飲んでください」
内発的アプローチ(自己決定感あり): 「血糖値を良くするために、何か一つしてみるとしたらどんなことができそうですか?」 「無理なくできそうなことから始めるとしたら、何が挑戦しやすいですか?」
自分で考えて、自分で選んだ目標——これが継続する力の源になります。
まとめ
- 内発的動機づけ:内から湧き出るやる気。継続しやすく、質が高い
- 外発的動機づけ:外からの刺激によるやる気。報酬がなくなると消える
- アンダーマイニング効果:報酬が内発的動機を壊すことがある(ほめ言葉は例外)
- 自律性と有能感を高めることが内発的動機づけのカギ
- 「自分で決めた感」を生む質問が、患者さんのアドヒアランスを変える
次回は「心理的安全性とは何か——Google社が発見した最強チームのカギ」を解説します。
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