今回は私の体験談です。鹿児島県の離島・OKE島、そしてYG病院(僻地)でのNST活動を振り返ります。「医師が少ない環境で薬剤師にできること」——これが私のNSTの原点です。
KT病院:NST事務局の経験(2006〜2009年)
私が初めてNSTに関わったのは薬剤師歴2年目、KT病院(310床)でのことです。NST事務局を担当することになり、「NSTを良くしていきたい!」という情熱だけで動き始めました。
最初の課題:NST認知率35%
NSTを良くするためにまず必要なのは「NSTを知ってもらうこと」でした。
2009年10月、院内でのNST認知率はわずか35%。
実施した啓蒙活動:
- 病院の全体朝礼で「NSTとは」について紹介
- 摂食・嚥下委員会で「NST活動と活動成果による効果」の勉強会
- 褥瘡委員会で「褥瘡に使われる薬剤・ドレッシング剤」と「褥瘡と栄養」の勉強会
- 医療安全委員会で「輸液」についての勉強会
約7ヶ月間の啓蒙活動の結果、2010年5月には認知率**71%**まで向上。
栄養サポートが必要な患者への積極的介入
啓蒙活動と並行して、栄養サポートが必要な患者を積極的に発見し介入しました。
薬剤師として実施した介入:
- 褥瘡回診に参加し、褥瘡回診時に栄養面も評価
- Hb低値の患者の原因を考え、貧血食・鉄剤・ビタミンC・葉酸などの提案
- 経口食事摂取量の少ない患者に補助食品の提案
- 誤嚥の多い患者にACE阻害薬などの提案
- 嘔吐の多い患者にドンペリドン・モサプリドなどの提案
- BUN/Cre比をチェックし脱水や過剰たんぱく質の評価
- TPN・PPNの投与量最適化提案
OKE島:離島のNST(2009〜2011年)
鹿児島の南西、奄美大島のさらに南にあるOKE島。人口約13,000人の離島にあるOT病院(132床)に異動しました。
離島ならではの制約
- 専門医が少ない(場合によっては医師2〜3名体制)
- 検査の種類に制限がある
- 物資の調達に時間がかかる
- 島の外への搬送は時間と費用が大きくかかる
このような環境で「NST活動ができるのか?」と思いましたが、逆に気づいたことがありました。
離島だからこそ薬剤師が輝く
医師が少ない環境では、薬剤師が積極的に情報収集・提案をしなければ患者さんの栄養管理が後回しになりやすい。
「今日の外来が終わったら、栄養状態が気になる患者さんを先生に相談しよう」「この点滴の組み合わせ、カロリーが足りていないと思いますが変えませんか?」
医師との距離が近い離島の病院だからこそ、薬剤師からの提案が直接届きやすいのです。
数値での成果: 脂肪乳剤(イントラファット)使用量が月平均17本→46.8本へ。ビーフリード採用後は月平均222.8本の使用実績。これは「適切な栄養管理が院内に浸透した」証拠です。
沖永良部病院での創傷被覆材の整備
NSTと並行して、褥瘡ケアの整備にも力を入れました。当時採用されていなかった創傷被覆材を順次採用し、「浸出液量に応じて選べる体制」を作りました。
NST専門療法士の取得(2010年)
OT病院でのNST活動を経て、2010年にNST専門療法士を取得しました。
NST専門療法士とは、日本静脈経腸栄養学会(現:日本臨床栄養代謝学会)が認定する資格で、医師・歯科医師・薬剤師・看護師・管理栄養士・臨床検査技師など多職種が取得できます。
取得のためには:
- 5年以上のNST活動実績
- 規定の講習・研修の受講
- 資格認定試験の合格
薬剤師がNSTで大切にしてきたこと
10年以上のNST活動を通じて学んだことを一言で表すと——
「患者さんの栄養状態を数字で語れる薬剤師になること」
「なんとなく栄養が足りていないかも」ではなく、「現在の輸液で○kcal・アミノ酸○g。必要量は体重60kgとして1500kcal・60g/日なので、○○が不足しています。ビーフリードへの変更と脂肪乳剤の追加を提案します」と具体的に話せるかどうかが、医師に信頼される薬剤師かどうかの分かれ目です。
まとめ
- KT病院でNST事務局としてゼロから立ち上げ。認知率35%→71%
- 脂肪乳剤使用量が月17本→46.8本に増加。ビーフリード採用で月222.8本の実績
- 離島・僻地では医師が少ないからこそ薬剤師の積極的な提案が重要
- 「栄養状態を数字で語れる薬剤師」が目標
次回から褥瘡シリーズとして「褥瘡とは何か?原因・ステージ分類」を解説します。
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