「創の処置をしているのに、褥瘡が全然治らない」——その原因の多くは栄養状態の問題です。NST専門療法士として多くの褥瘡患者さんに関わってきた経験から、褥瘡と栄養の深い関係を解説します。
「創は体の外から治るのではなく、体の内側から治る」
褥瘡治療の本質を一言で表すなら、これです。
どれだけ優れた外用剤・被覆材を使っても、患者さんの栄養状態が悪ければ、創傷治癒に必要な材料(タンパク質・エネルギー・ビタミン・微量元素)が不足して創は治りません。
創傷治癒に必要な栄養素
創傷が治るためには様々な栄養素が必要です。
① エネルギー 創傷治癒プロセス(炎症・肉芽形成・上皮化)は通常よりも多くのエネルギーを消費します。低エネルギー状態では、筋肉が分解されてエネルギーとして使われてしまいます。
② タンパク質(アミノ酸) コラーゲン合成・肉芽組織形成・免疫機能維持に必須。低タンパク(低アルブミン血症)は褥瘡発生の最大のリスク因子のひとつです。
目安:1.2〜1.5g/kg体重/日(褥瘡患者では通常より多く必要)
③ 亜鉛 コラーゲン合成・上皮化促進・免疫機能に必須。長期臥床患者や高齢者では亜鉛欠乏が多い。
亜鉛欠乏のサイン:味覚障害・皮膚炎・脱毛・褥瘡の難治化
④ ビタミンC(アスコルビン酸) コラーゲン合成に不可欠。欠乏すると創傷治癒が著しく遅延します。
⑤ ビタミンA 上皮細胞の増殖・分化に必要。手術後・外傷後は需要が増加します。
⑥ 水分 脱水状態では血流が低下し、組織への酸素・栄養素の供給が減ります。皮膚の乾燥・弾力性低下にもつながります。
アルブミン値と褥瘡の関係
臨床でよく使われる栄養指標が**血清アルブミン(Alb)**値です。
| Alb値 | 栄養状態の判定 | 褥瘡への影響 |
|---|---|---|
| 3.5g/dL以上 | 正常 | 褥瘡リスクは低い |
| 3.0〜3.5g/dL | 軽度低栄養 | 褥瘡発生・難治化リスクあり |
| 2.5〜3.0g/dL | 中等度低栄養 | 褥瘡が発生しやすく、治りにくい |
| 2.5g/dL未満 | 高度低栄養 | 褥瘡発生率が著しく高く、治癒困難 |
Alb 2.5g/dL以下では、どんな処置をしても褥瘡はとても治りにくいです。
褥瘡患者の栄養評価ポイント
薬剤師がNSTで確認すべき褥瘡患者の栄養評価ポイント:
① 体重・BMI 体重減少(1ヶ月で5%以上、3ヶ月で10%以上)は重篤な栄養不良のサイン。
② 血清アルブミン(Alb) 栄養状態の指標。ただし炎症があると低値になるため、CRPと合わせて評価。
③ 血清プレアルブミン(トランスサイレチン) 半減期が約2日と短く、短期間の栄養状態の変化を反映しやすい。
④ 総リンパ球数(TLC) 免疫能の指標。低栄養では低下する。
⑤ 食事摂取量 「食べられているか」の確認。何kcal摂れているかを実際に把握する。
栄養補助食品の活用
食事だけでエネルギー・タンパク質を充足できない褥瘡患者には、栄養補助食品(ONS:Oral Nutritional Supplements)が有効です。
褥瘡に特化した栄養補助食品の例:
- アルギニン・亜鉛・ビタミンCを強化したもの(エンシュア・リキッドなど)
- コラーゲン前駆体(グリシン・プロリン)を含むもの
薬剤師からの提案例: 「Alb 2.8g/dL、食事摂取量60%程度の褥瘡患者さんに、管理栄養士と相談の上、アルギニン・亜鉛・ビタミンC強化の経口補助食品の追加を提案します」
私の臨床経験から
KT病院でNST活動を始めた当初、褥瘡の難治症例を見ていて気づいたことがあります。
「創の処置を頑張っているのに治らない患者さんは、ほとんど全員Albが低い」
Alb値が2g/dL台で、絶食にソルデム3Aしか入っていない患者さんに、どんな被覆材を貼っても治るはずがありません。
「褥瘡委員会を中心にNST褥瘡チームを立ち上げよう」という発想はここから生まれました。
特に褥瘡患者さんへの栄養サポート介入からNSTのニーズが高まり、当初2ヶ月に1度だった褥瘡回診が週1回に増加しました。
まとめ
- 「創は内側から治る」——栄養なしに創傷治癒はない
- 創傷治癒に必要な栄養素:エネルギー・タンパク質・亜鉛・ビタミンC・ビタミンA・水分
- Alb 2.5g/dL未満では褥瘡は治癒しにくい
- 栄養評価:体重・Alb・プレアルブミン・TLC・食事摂取量を確認
- 食事だけで不足する場合は栄養補助食品(ONS)を活用する
- 薬剤師がNSTと連携することで、褥瘡ケアの質が上がる
次回は「褥瘡・NSTシリーズ総まとめ:薬剤師がNST・褥瘡ケアに関わる意義」です。
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