アセトアミノフェン(APAP)中毒は、日本の急性薬物中毒の中でも頻度が高い疾患のひとつです。OD(過量服用)で市販の解熱鎮痛薬を大量服用するケースが多く、薬剤師が関わる機会も多い中毒です。今回は4段階の経過とNACプロトコルを徹底解説します。
アセトアミノフェンの正常な代謝経路
まず正常な代謝経路を理解することが重要です。
アセトアミノフェン(APAP)の代謝:
- 約90%がグルクロン酸抱合・硫酸抱合 → 無毒の代謝物として尿中排泄
- 約5〜10%がCYP2E1(主に)によりNAPQI(N-アセチル-p-ベンゾキノンイミン)に代謝 → 肝毒性物質
- NAPQIはグルタチオンと結合 → 無毒化して排泄
問題は過量服用した時:グルタチオンが枯渇 → NAPQIが肝細胞を攻撃 → 肝細胞壊死
中毒の4段階の経過
第Ⅰ期(0〜24時間):消化器症状または無症状
- 悪心・嘔吐・倦怠感が主体
- 「症状がほとんどない」ことが多く、軽視されやすい危険な時期
- この時期にNACを投与することが最も効果的
第Ⅱ期(24〜72時間):肝障害出現
- AST・ALT・ビリルビンが上昇し始める
- 右季肋部(肝臓部位)の疼痛・違和感
- 一時的に悪心が改善する場合があり「回復した」と錯覚しやすい
第Ⅲ期(72〜96時間):肝不全ピーク
- 黄疸
- PT-INR延長(凝固障害)
- 肝性脳症(意識障害)
- 腎障害の合併
- 最も重篤な時期。肝移植が必要になる場合もある
第Ⅳ期(4日〜):回復期または死亡
- 肝移植なしで回復できた場合は急速に改善(肝細胞の再生能力が高い)
- 重篤例では多臓器不全・死亡
中毒量の判断:150mg/kgが目安
成人のアセトアミノフェン中毒の目安:
150mg/kg以上の服用 → 治療(NAC投与)を考慮
例)体重50kgの患者:50kg × 150mg/kg = 7,500mg(7.5g)以上で治療対象
市販のアセトアミノフェン(1錠200〜500mg)なら、15〜37錠以上で治療対象になる計算です。
Rumack-Matthewノモグラム
服用後4時間以降に測定した血中APAP濃度を「Rumack-Matthewノモグラム」にプロットして、NAC治療が必要かどうかを判定します。
- 治療ライン(probable toxicity line):服用後4時間で200μg/mL、15時間で25μg/mL(その間を直線でつないだライン)
- このラインを超えていればNAC治療を開始
注意:服用時刻が不明な場合は最悪の場合を想定して早期にNACを開始します。
NAC(N-アセチルシステイン)投与プロトコル
NACはグルタチオンの前駆体として、枯渇したグルタチオンを補充しNAPQIを無毒化します。
最も重要なポイント:8〜10時間以内
服用後8〜10時間以内の投与が最も有効。この時間を超えると効果が低下しますが、10時間を超えても肝障害の進行を抑制する効果があるため、遅れても投与を開始します。
点滴プロトコル(推奨:21時間3段階)
| 段階 | 用量 | 投与時間 |
|---|---|---|
| 第1段階 | NAC 150mg/kg | 60分(1時間)で投与 |
| 第2段階 | NAC 50mg/kg | 4時間で投与 |
| 第3段階 | NAC 100mg/kg | 16時間で投与 |
| 合計 | 300mg/kg | 21時間 |
溶媒:5%ブドウ糖液(グルコース液)を使用
経口プロトコル(点滴製剤がない場合)
初回:140mg/kg → その後70mg/kg を4時間ごと×17回(72時間)
NACの副作用
アナフィラキシー様反応(悪心・蕁麻疹・気管支痙攣)が約5〜20%に起きます。特に第1段階(急速投与)時に多い。
対処:投与速度を落とす・抗ヒスタミン薬・症状が重篤なら一時中断
症例:20歳女性のAPAP中毒
患者情報:20歳女性。市販アセトアミノフェン(1錠300mg)×50錠=約15g服用。服用3時間後に来院。意識清明。バイタル安定。軽度悪心あり。
薬剤師としての対応フロー:
Step 1:中毒量の確認 体重を推定(例:50kg):15g ÷ 50kg = 300mg/kg → 治療ライン(150mg/kg)を大幅に超える
Step 2:活性炭の検討 服用後3時間 → 効果は限定的だが考慮。気道確保できていれば投与を検討
Step 3:採血 服用後4時間以降にAPAP血中濃度を測定 → Rumack-Matthewノモグラムで判定
Step 4:NAC投与開始 点滴プロトコル:150mg/kg(60分)→ 50mg/kg(4時間)→ 100mg/kg(16時間) 溶媒・投与速度を計算して処方提案
Step 5:モニタリング AST・ALT・PT-INR・Cre を経時的にフォロー。48時間以降も肝障害の進行に注意。
薬剤師が準備しておくべきこと
- NAC注射製剤(ムコフィリン注など)の在庫確認と調達ルートの把握
- NACプロトコルの計算・調製手順の熟知
- Rumack-Matthewノモグラムの理解
- 肝障害モニタリング項目(AST・ALT・PT-INR・Cre)の把握
まとめ
- APAPはODで最も多い医薬品中毒のひとつ
- 4段階経過:第Ⅰ期(無症状)→ 第Ⅱ期(肝障害)→ 第Ⅲ期(肝不全)→ 第Ⅳ期(回復or死)
- 治療ライン:150mg/kg以上の服用、または血中濃度がノモグラムを超える場合
- NACは服用後8〜10時間以内が最も有効(遅れても投与する)
- 点滴プロトコル:3段階・21時間・合計300mg/kg
- 薬剤師はNAC調製・モニタリング計画・副作用管理で貢献
次回は「向精神薬中毒:BZD・TCA・リチウム・バルプロ酸」を解説します。
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