2026年8月5日水曜日

褥瘡と栄養の深い関係:低栄養では創は絶対に治らない【褥瘡・NSTシリーズ⑫】

 「創の処置をしているのに、褥瘡が全然治らない」——その原因の多くは栄養状態の問題です。NST専門療法士として多くの褥瘡患者さんに関わってきた経験から、褥瘡と栄養の深い関係を解説します。


「創は体の外から治るのではなく、体の内側から治る」

褥瘡治療の本質を一言で表すなら、これです。

どれだけ優れた外用剤・被覆材を使っても、患者さんの栄養状態が悪ければ、創傷治癒に必要な材料(タンパク質・エネルギー・ビタミン・微量元素)が不足して創は治りません。


創傷治癒に必要な栄養素

創傷が治るためには様々な栄養素が必要です。

① エネルギー 創傷治癒プロセス(炎症・肉芽形成・上皮化)は通常よりも多くのエネルギーを消費します。低エネルギー状態では、筋肉が分解されてエネルギーとして使われてしまいます。

② タンパク質(アミノ酸) コラーゲン合成・肉芽組織形成・免疫機能維持に必須。低タンパク(低アルブミン血症)は褥瘡発生の最大のリスク因子のひとつです。

目安:1.2〜1.5g/kg体重/日(褥瘡患者では通常より多く必要)

③ 亜鉛 コラーゲン合成・上皮化促進・免疫機能に必須。長期臥床患者や高齢者では亜鉛欠乏が多い。

亜鉛欠乏のサイン:味覚障害・皮膚炎・脱毛・褥瘡の難治化

④ ビタミンC(アスコルビン酸) コラーゲン合成に不可欠。欠乏すると創傷治癒が著しく遅延します。

⑤ ビタミンA 上皮細胞の増殖・分化に必要。手術後・外傷後は需要が増加します。

⑥ 水分 脱水状態では血流が低下し、組織への酸素・栄養素の供給が減ります。皮膚の乾燥・弾力性低下にもつながります。


アルブミン値と褥瘡の関係

臨床でよく使われる栄養指標が**血清アルブミン(Alb)**値です。

Alb値栄養状態の判定褥瘡への影響
3.5g/dL以上正常褥瘡リスクは低い
3.0〜3.5g/dL軽度低栄養褥瘡発生・難治化リスクあり
2.5〜3.0g/dL中等度低栄養褥瘡が発生しやすく、治りにくい
2.5g/dL未満高度低栄養褥瘡発生率が著しく高く、治癒困難

Alb 2.5g/dL以下では、どんな処置をしても褥瘡はとても治りにくいです。


褥瘡患者の栄養評価ポイント

薬剤師がNSTで確認すべき褥瘡患者の栄養評価ポイント:

① 体重・BMI 体重減少(1ヶ月で5%以上、3ヶ月で10%以上)は重篤な栄養不良のサイン。

② 血清アルブミン(Alb) 栄養状態の指標。ただし炎症があると低値になるため、CRPと合わせて評価。

③ 血清プレアルブミン(トランスサイレチン) 半減期が約2日と短く、短期間の栄養状態の変化を反映しやすい。

④ 総リンパ球数(TLC) 免疫能の指標。低栄養では低下する。

⑤ 食事摂取量 「食べられているか」の確認。何kcal摂れているかを実際に把握する。


栄養補助食品の活用

食事だけでエネルギー・タンパク質を充足できない褥瘡患者には、栄養補助食品(ONS:Oral Nutritional Supplements)が有効です。

褥瘡に特化した栄養補助食品の例:

  • アルギニン・亜鉛・ビタミンCを強化したもの(エンシュア・リキッドなど)
  • コラーゲン前駆体(グリシン・プロリン)を含むもの

薬剤師からの提案例: 「Alb 2.8g/dL、食事摂取量60%程度の褥瘡患者さんに、管理栄養士と相談の上、アルギニン・亜鉛・ビタミンC強化の経口補助食品の追加を提案します」


私の臨床経験から

KT病院でNST活動を始めた当初、褥瘡の難治症例を見ていて気づいたことがあります。

「創の処置を頑張っているのに治らない患者さんは、ほとんど全員Albが低い」

Alb値が2g/dL台で、絶食にソルデム3Aしか入っていない患者さんに、どんな被覆材を貼っても治るはずがありません。

「褥瘡委員会を中心にNST褥瘡チームを立ち上げよう」という発想はここから生まれました。

特に褥瘡患者さんへの栄養サポート介入からNSTのニーズが高まり、当初2ヶ月に1度だった褥瘡回診が週1回に増加しました。


まとめ

  • 「創は内側から治る」——栄養なしに創傷治癒はない
  • 創傷治癒に必要な栄養素:エネルギー・タンパク質・亜鉛・ビタミンC・ビタミンA・水分
  • Alb 2.5g/dL未満では褥瘡は治癒しにくい
  • 栄養評価:体重・Alb・プレアルブミン・TLC・食事摂取量を確認
  • 食事だけで不足する場合は栄養補助食品(ONS)を活用する
  • 薬剤師がNSTと連携することで、褥瘡ケアの質が上がる

次回は「褥瘡・NSTシリーズ総まとめ:薬剤師がNST・褥瘡ケアに関わる意義」です。


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創傷被覆材の選び方⑪ 

hospharブログ(病院薬剤師の専門情報)

2026年8月4日火曜日

創傷被覆材の選び方:ハイドロサイト・デュオアクティブ・カルトスタット【褥瘡・NSTシリーズ⑪】

 褥瘡治療では外用剤に加えて「創傷被覆材(ドレッシング材)」が重要な役割を果たします。多くの種類があって迷いやすい創傷被覆材の選び方を、浸出液量を軸に整理して解説します。


創傷被覆材とは

創傷被覆材(ドレッシング材)とは、褥瘡・創傷の創面を覆うための医療材料です。

従来の「ガーゼ+消毒」による乾燥療法に代わり、モイストウンドヒーリング(湿潤療法)を実践するためのツールとして普及しました。


ドレッシングの4分類

創傷被覆材は「開放性/閉鎖性」×「ウェット/ドライ」の2軸で4分類できます。

Ⅰ.開放性ウェットドレッシング 食品用フィルム・持続陰圧閉鎖療法(VAC療法)など

Ⅱ.開放性ドライドレッシング 乾燥ガーゼ(現在では推奨されない方法)

Ⅲ.閉鎖性ウェットドレッシング(主流) ポリウレタンフィルム・ポリウレタンフォーム・ハイドロコロイド・軟膏ガーゼなど

Ⅳ.閉鎖性ドライドレッシング カデックス・ユーパスタなど浸出液を吸収・脱水するタイプ


浸出液量で選ぶ:吸収能力別分類

創傷被覆材の選択で最も重要な指標は「浸出液の量」です。

浸出液吸収能力:低いもの(浸出液が少ない創向け)

  • テガダーム・パーミロール(ポリウレタンフィルム)
  • ラップ(食品用フィルム)

浸出液吸収能力:中程度

  • ハイドロサイト薄型(ポリウレタンフォーム)
  • デュオアクティブET(ハイドロコロイド)
  • アブソキュアサジカル

浸出液吸収能力:高いもの

  • ハイドロサイトADジェントル
  • アブソキュアウンド
  • カルトスタット(アルギン酸塩)
  • アクアセル(ハイドロファイバー)

浸出液吸収能力:最も高いもの

  • 尿とりパッド・紙おむつ(代用として使用されることもある)

主要な創傷被覆材の特徴

テガダーム・パーミロール(ポリウレタンフィルム)

特徴:透明で薄く、水蒸気は通すが細菌・水は遮断する

使用場面:

  • ステージⅠ褥瘡(不可逆的な発赤)
  • 骨突出部の摩擦・ずれ防止(予防的使用)
  • 浸出液のない浅い創の保護

デュオアクティブET(ハイドロコロイド)

特徴:浸出液を吸収してゲル化し、湿潤環境を維持する

使用場面:

  • ステージⅡ褥瘡(水泡・びらん)
  • 浸出液が少〜中等度の浅い創

注意:感染創・深い創への使用は避ける


ハイドロサイト・ハイドロサイトADジェントル(ポリウレタンフォーム)

特徴:スポンジ状で浸出液を効率よく吸収・保持する

使用場面:

  • ハイドロサイト薄型:浸出液が少ないステージⅡ、上皮形成期
  • ハイドロサイトADジェントル:浸出液が多いステージⅡ〜Ⅲ
  • 赤色期(肉芽増殖期)の浸出液管理

カルトスタット(アルギン酸塩)

特徴:海藻由来のアルギン酸塩が浸出液を吸収してゲル化。止血作用もある

使用場面:

  • 皮下に至る創(ステージⅢ)
  • 肉芽増殖期
  • 浸出液が多い創
  • 止血が必要な創

アクアセル(ハイドロファイバー)

特徴:繊維状のハイドロコロイドが浸出液を吸収し、ゲル状のシートになる

使用場面:

  • 皮下組織に至る創
  • 黄色壊死期後半〜肉芽増殖期〜表皮形成期
  • 浸出液が中〜多い創

グラニュゲル(ハイドロゲル)

特徴:水分を多く含むゲル。乾燥した壊死組織を軟化させる

使用場面:

  • 皮下に至る創
  • 壊死組織(特に乾燥した黒色壊死)の軟化・除去

創傷被覆材の使い方の実際

創傷被覆材の選択は「試してみながら調整する」というアプローチが現実的です。

① まず貼ってみる(創の状態から最適と思われるものを選択)

② 翌日の浸出液の量・性状を観察する 

③ 浸出液がにじみ出ているようなら、同じ被覆材を重ねるか、一段階上の浸出液吸収能力を持つ被覆材を使用 

④ ②・③の繰り返しで最適な被覆材を見つける


ステージ別・創傷被覆材選択マニュアル

ステージⅠ(不可逆的発赤) → テガダーム・パーミロール(摩擦・ずれ防止)、アズノール軟膏

ステージⅡ(水泡・びらん)

  • 水泡 → デュオアクティブET・アズノール
  • びらん → デュオアクティブET・アズノール
  • 浸出液が多い → ハイドロサイトADジェントル
  • 上皮形成期(白色) → アクトシン・ハイドロサイト薄型

ステージⅢ・Ⅳ(黄色期・黒色期・赤色期)

  • 黄色期(壊死・感染なし) → ブロメライン軟膏
  • 黒色期(感染あり・浸出液少) → ゲーベンクリーム
  • 黒色期(感染あり・浸出液多) → ネグミンシュガー・カデックス
  • 赤色期(肉芽形成中・深い) → フィブラストスプレー
  • 赤色期(浸出液中) → ハイドロサイトADジェントル

まとめ

  • 創傷被覆材の選択軸は「浸出液量」
  • 少ない → フィルム・ハイドロコロイド
  • 中程度 → ポリウレタンフォーム(ハイドロサイト)
  • 多い → アルギン酸塩(カルトスタット)・ハイドロファイバー(アクアセル)
  • まず貼って翌日に評価し、調整するアプローチが現実的
  • 外用剤と組み合わせて使用する

次回は「褥瘡と栄養の深い関係:NST専門療法士の視点から」を解説します。


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褥瘡外用剤の解説⑩ 

hospharブログ(病院薬剤師の専門情報)

2026年8月3日月曜日

褥瘡に使う外用剤を徹底解説:ゲーベン・ネグミンシュガー・ブロメライン・アクトシン【褥瘡・NSTシリーズ⑩】

 褥瘡治療で使われる外用剤(塗り薬)は多種多様で、病期によって使い分けが必要です。薬剤師として正しく知っておくべき「褥瘡の外用剤」を病期別に解説します。


褥瘡外用剤の選択原則

外用剤の選択は「創の状態(病期)」と「浸出液の量」の2軸で考えます。

  • 黒色期・黄色期(壊死・感染)→ 壊死除去・感染コントロール系
  • 赤色期(肉芽増殖)→ 肉芽形成促進系
  • 白色期(上皮形成)→ 上皮化促進系

加えて浸出液が多い創か少ない創かによっても選択が変わります。


病期別外用剤一覧

黒色期・黄色期(壊死除去・感染コントロール)

ゲーベンクリーム(スルファジアジン銀)

作用機序:細胞膜・細胞壁に作用する抗菌作用により、細菌感染の防御

特徴・注意事項:

  • 幅広い抗菌作用(細菌・真菌)を示し、耐性菌の出現が少ない
  • 壊死組織が浸軟(軟化)してデブリードマンが行いやすくなる
  • 浸出液の多い創には不適(浸出液を吸収しない)
  • 多量に使用する場合は腎機能に注意が必要
  • 水溶性のため使用後の疼痛に注意

使用病期:感染創・黒色壊死(感染あり)


ネグミンシュガー(白糖・ポビドンヨード配合剤)

作用機序:ポビドンヨードの殺菌作用 × 白糖による浸出液吸収作用 × 肉芽促進作用

特徴・注意事項:

  • 感染のコントロールに優れている
  • ヨードアレルギーには使用不可
  • 甲状腺機能異常の患者には慎重投与
  • 浮腫を伴う創・浸出液の多い創に適する
  • 浸出液の少ない創に使用すると創を乾燥させすぎることがある

使用病期:感染期・黄色期(浸出液多め)


カデックス(ポビドンヨード・白糖配合のより強力なタイプ)

ネグミンシュガーと同成分ですが、白糖の濃度が高く浸出液吸収能力が強い製剤です。浸出液が非常に多い感染創に使用します。


黒色期(壊死組織除去)

ブロメライン軟膏(ブロメライン)

作用機序:パイナップルから抽出したタンパク分解酵素による壊死組織の自己融解促進

特徴・注意事項:

  • 創周囲の正常皮膚に付着すると、発赤や痛みが生じることがある(創周囲を保護する)
  • 水溶性基剤のため、ある程度浸出液が多い創にも使用できる
  • 感染のある褥瘡には不適(感染コントロールが先)

使用病期:感染のない黒色壊死期(壊死組織の自己融解を促したい場合)


赤色期(肉芽形成促進)

フィブラストスプレー(トラフェルミン)

作用機序:bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)により肉芽形成を促進

特徴・注意事項:

  • 噴霧型で使いやすい
  • 深い褥瘡(ステージⅢ・Ⅳ)の肉芽形成促進に有効
  • 浸出液が多い場合は吸水性の被覆材と組み合わせる
  • 悪性腫瘍に近い部位には使用しない

使用病期:赤色期(良性肉芽が形成されてきた段階)


アクトシン軟膏(ブクラデシンナトリウム)

作用機序:細胞内cAMPを増加させ、肉芽形成と上皮化を促進

特徴・注意事項:

  • 肉芽形成促進と表皮形成促進の両方に効果
  • 浸出液が少〜中等度の創に適する
  • 感染が強い創への使用は避ける

使用病期:赤色期〜白色期


病期別・外用剤選択まとめ表

病期浸出液量推奨外用剤
黒色期(感染なし・壊死)多めブロメライン軟膏
黒色期(感染あり)多めゲーベンクリーム、ネグミンシュガー
黄色期(感染・浸出液多)多いネグミンシュガー、カデックス
黄色期(感染・浸出液少)少ないゲーベンクリーム
赤色期(肉芽形成)中〜多フィブラストスプレー、アクトシン
白色期(上皮形成)少ないアクトシン、アズノール

薬剤師としての関わり方

褥瘡の外用剤処方に際して、薬剤師ができることは:

①処方された外用剤が病期・浸出液量と合っているか確認する

例:「浸出液が少ない創にネグミンシュガーが処方されている → 創が乾燥しすぎる可能性、創の状態確認を医師に確認」

②外用剤の副作用・禁忌を確認する

例:「ヨードアレルギー歴がある患者にネグミンシュガー → 疑義照会」

③スタッフへの外用剤に関する情報提供・指導

処置を行う看護師・介護士への正確な使用方法・注意事項の指導


まとめ

  • 褥瘡外用剤は「病期」×「浸出液量」で選択する
  • ゲーベン:幅広い抗菌・デブリ補助。浸出液多い創は不適
  • ネグミンシュガー:殺菌+浸出液吸収+肉芽促進。ヨードアレルギー禁忌
  • ブロメライン:タンパク分解酵素。感染なし壊死期に使用
  • フィブラスト・アクトシン:肉芽形成〜上皮化促進
  • 薬剤師は処方の適切性確認・副作用チェック・スタッフ指導で貢献できる

次回は「創傷被覆材の選び方:ハイドロサイト・デュオアクティブ・カルトスタット」を解説します。


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褥瘡治療の基本⑨ 

hospharブログ(病院薬剤師の専門情報)

2026年8月2日日曜日

褥瘡治療の基本的な考え方:処置の多様性と皮膚潰瘍治療の3ステップ【褥瘡・NSTシリーズ⑨】

 「褥瘡の治療はこれが正解!」という絶対的な答えはありません。今回は褥瘡治療の多様性と、薬剤師が知っておくべき基本的な考え方を解説します。


褥瘡治療に「絶対の正解」はない

褥瘡治療には、必ずこれをしなければいけないという絶対はありません。一つの傷に対しても何通りもの考え方・治療法があります。

例えば——

皮膚科の先生は外用剤(塗り薬)を塗ることを好む傾向があります。

形成外科の先生はデブリードマン(壊死組織の切除)をして創傷被覆剤を貼ることを好む傾向があります。

ラップ療法を使う先生もいます(食品用ラップで創を覆う)。

マゴットセラピーを使う先生もいます(医療用ウジ虫で壊死組織を除去する)。

どれが「正しい」というわけではなく、それぞれの先生の経験・哲学・患者さんの状態によって最適解が変わります。


褥瘡治療に必要な要素

処置だけで褥瘡は治りません。褥瘡治療には以下の要素が複合的に関わります。

  • 薬剤(外用薬)
  • 創傷被覆剤(ドレッシング材)
  • 体位交換(圧力の除去)
  • マットレス(体圧分散)
  • 栄養状態(低栄養では治らない)
  • 血流(末梢循環の改善)

「創の処置をしているのに良くならない」という場合、処置以外の要素に問題があることが多いです。特に栄養状態と血流は治癒に直結するため、薬剤師・管理栄養士の介入が重要になります。


皮膚潰瘍治療の基本的な考え方:3ステップ

褥瘡を含む皮膚潰瘍の治療は、以下の3ステップで考えます。

Step 1:壊死があれば除去を図る

壊死組織は創傷治癒を妨げる最大の要因です。

方法:外科的切除(デブリードマン)または外用剤による自己融解の促進

注意点:

  • 特に浸出液の多い壊死は積極的に除去する
  • 乾燥している壊死は少し待ってもいい場合もある(自己融解を促してから)
  • 血流障害による潰瘍(糖尿病性壊疽・虚血性潰瘍)は触らない方がいい場合もある

Step 2:感染があれば対策を図る

感染は創傷治癒を大きく妨げます。

感染の徴候:

  • 浸出液の増加・性状の変化(膿性)
  • 創周囲の発赤・熱感・腫脹・疼痛
  • 臭いの増強(感染臭)
  • 全身症状(発熱・白血球上昇・CRP上昇)

感染対策:抗菌薬を含有する外用剤の使用(ゲーベンクリーム・ネグミンシュガーなど)

Step 3:壊死・感染が軽快したら肉芽形成促進・上皮化を図る

壊死除去・感染コントロールができたら、いよいよ肉芽形成と上皮化の段階です。

使用するもの:肉芽形成促進薬(フィブラストスプレー・アクトシン軟膏)・創傷被覆剤

全ての時期において創の清浄化(洗浄)に努めることが重要です。


褥瘡の色調と病期の関係

褥瘡の色は病期(治癒段階)を表しています。「NERB分類」(日本褥瘡学会の考え方)で整理します。

黒色期(Necrotic:壊死期・炎症期) 黒色〜茶褐色の壊死組織がある状態。 → まず壊死組織の除去が必要

黄色期(Fibrinous:感染期・不良肉芽) 黄色い壊死組織・膿性浸出液がある状態。感染が多い。 → 感染コントロール・壊死除去

赤色期(Granulation:肉芽増殖期) 赤い良性肉芽が形成されている状態。 → 肉芽形成の促進・創の保護

白色期(Epithelialization:上皮形成期) ピンク〜白色の上皮が伸びてきている状態。 → 上皮化の促進・保護


褥瘡アセスメントで「なぜできたか」を考える

褥瘡の傷をアセスメントして「どうやってできたのか」を分析することが大切です。

傷ができた原因がわかれば、対策が立てられます。

例えば:

  • 仙骨部褥瘡 → 体位変換が不足している? マットレスが合っていない?
  • 踵骨部褥瘡 → 踵をフリーにするポジショニングができているか?
  • 耳介部褥瘡 → 酸素マスクや医療デバイスによる圧迫では?

原因を特定することで、処置だけでなく発生予防策が打てます。


まとめ

  • 褥瘡治療に「絶対の正解」はない。医師によってアプローチが異なる
  • 処置だけでなく栄養・血流・体位・マットレスが全て関係する
  • 皮膚潰瘍治療の3ステップ:壊死除去→感染対策→肉芽形成促進
  • 全時期で創の清浄化(洗浄)が最重要
  • 色調(黒→黄→赤→白)で病期を把握する

次回は「褥瘡に使う外用剤:ゲーベン・ネグミンシュガー・ブロメラインを徹底解説」です。


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モイストウンドヒーリング⑧ 

hospharブログ(病院薬剤師の専門情報)

2026年8月1日土曜日

モイストウンドヒーリング:「傷は乾かすな」が現代の常識【褥瘡・NSTシリーズ⑧】

 「傷は乾かして治す」——昔はそう信じられていました。でも今の医学では全く逆です。「傷は適切な湿潤環境に置いた方が早く治る」——これを「モイストウンドヒーリング」と言います。今回は創傷治療の根本的な考え方を解説します。


モイストウンドヒーリングとは

Moist Wound Healing(モイスト・ウンド・ヒーリング)とは、「創面を湿潤環境に置くと創傷治癒が促進される」という概念です。

1962年、Winterらが発表した新しい概念で、それ以前の「創傷は乾燥させて治療するもの」という常識を覆しました。

「傷は乾かした方が早く治るのではなく、適した湿潤環境においた方が、早く治っていく」

これが現代の創傷治療の基本となっています。


なぜ湿潤環境がいいのか

湿潤環境が創傷治癒を促進する理由は5つあります。

① 浸出液内に創傷治癒因子が含まれている 白血球・マクロファージ・細胞成長因子(サイトカイン)など、創傷治癒に必要な細胞・因子が浸出液に豊富に含まれています。

② 乾燥すると壊死が広がる 初期に生じる痂皮(かさぶた)の下が乾燥していると、残存真皮や皮下組織に壊死が生じます。

③ 自己融解(デブリドマン)が起こりやすい 湿潤環境では痂皮が生じにくく、壊死組織の自己融解が速やかに起こります。

④ 細胞の活動・遊走が促進される 炎症期・増殖期での細胞の活動や遊走が容易になります。乾燥していると細胞の活動が低下します。

⑤ 上皮細胞の遊走が速い 乾燥している痂皮の下を進む場合と、湿潤環境下で下床組織の活性が高い場合では、上皮細胞の遊走速度が違います。


身近な例で考える

小さい切り傷の治し方を考えてみましょう。

昔の常識(乾燥療法): 傷をオキシドールで消毒 → 乾燥させてかさぶたを作る → かさぶたが剥がれて治癒

現代の方法(湿潤療法): 傷を水で洗浄(消毒しない) → バンドエイドで保護 → 浸出液を適度に吸収させ湿った環境を維持 → 治癒

バンドエイドで傷を保護し、浸出液を適度に吸収させ、湿った環境を整えてあげる方が傷は早く治ります。これが湿潤療法の最もわかりやすい例です。


浸出液は「悪者」じゃない

湿潤療法を始めると、浸出液が増えたように感じることがあります。また、臭いが強くなることもあります。

「感染したのでは?」と心配する声も聞きます。でも——

浸出液と感染の関係

浸潤治療を行うと → 浸出液が増える・臭いが強くなる 創感染が起こると → 浸出液が増える・臭いが強くなる

見た目は似ていますが、「浸潤治療=感染しやすい」ではありません。

「感染している創はにおう」はおおむね正しい。でも「においる創は感染している」とは限りません。

浸出液の量・色調・粘稠度・臭いなどを総合的に評価することが重要です。


なぜ傷は臭うのか

浸出液が臭う理由を化学的に説明すると——

たんぱく質はアミノ酸が結合したものです。アミノ酸は:

  • アミノ基(NH2)→アンモニア(NH3)に変化 → においます
  • カルボキシル基(COOH)を持つ酸 → 酢酸(CH3COOH)など → においます

また皮膚には、においやすい構造があります:

  • 角質・毛はシステイン(硫黄含有アミノ酸)を多く含む
  • 硫黄化合物はにおいます(例:硫化水素)

皮膚が融解するとにおいがきつくなりますが、これは感染でも湿潤治療でも起こります。


創傷治療の3大コンセプト

モイストウンドヒーリングに基づく現代の創傷治療の基本コンセプトは3つです。

① 傷を乾かしすぎないこと 適切な湿潤環境を維持する。乾燥させると創傷治癒が遅延します。

② 傷を湿らせすぎないこと 過剰な浸出液は創周囲の皮膚を浸軟(ふやける)させ、創傷治癒を阻害します。適切な浸出液管理が必要です。

③ 消毒しないこと 消毒薬(イソジン・オキシドールなど)は細菌だけでなく正常な細胞(線維芽細胞・白血球)にも有害です。消毒は創傷治癒を妨げます。

ガーゼを貼り消毒をすると創感染が増加するという研究結果もあります。

洗浄は水(生理食塩水)で、消毒はしない。 これが基本です。


なぜ傷が治らないのか

逆に傷が治らない原因を整理すると:

  • 壊死組織または組織の損傷(血流障害を含む)があるから
  • 炎症または感染があるから
  • 皮膚の湿潤性の異常(過乾燥または過湿潤)があるから
  • 上皮形成の遅延があるから

これらの問題を解決することが褥瘡治療の根本です。


まとめ

  • モイストウンドヒーリング:「傷は湿潤環境に置いた方が早く治る」1962年Winter発表
  • 湿潤が良い5つの理由:創傷治癒因子・壊死防止・自己融解・細胞活動・上皮遊走促進
  • 「傷はにおう=感染している」とは限らない
  • 創傷治療の3大コンセプト:乾かしすぎない・湿らせすぎない・消毒しない

次回は「褥瘡治療の基本的な考え方:処置の多様性と選択方法」を解説します。


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褥瘡とは何か⑦ 

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