2026年7月4日土曜日

信頼関係の作り方:尊敬・安心感・味方の3つの柱【コーチングシリーズ⑤】

 コーチングの前提となるのが「信頼関係」です。どれだけスキルが高くても、信頼関係がなければコーチングは機能しません。今回は信頼関係を作る3つの柱を解説します。


信頼関係の3つの柱

コーチングで信頼関係を作るには、3つの要素が必要です。

① 尊敬(Respect) 相手をリスペクトから入る。「尊敬しろ」ではなく、技術として考える。尊敬できるところを探してみる。そこから態度・声に出してみる。人間関係が上手くいきやすくなります。

② 安心感(Safety) コントロールではなく「安心感」があるかどうかが大切です。「正論・説得・おどす・物でつる・泣き落とし」などによるコントロールではなく、安心感を与えられているかを問い直しましょう。

③ 味方(Being on their side) 自分は相手にとって味方だと思ってもらうこと。相手の考え方を「受け入れる」のではなく「受け止める(共感する)」。目標を共有する。その人が大切にしていることを大切にする。

相手は、信頼されたら、裏切りにくくなる。


のび太くんとお母さんに学ぶ「信頼なき関係」

コーチングを語る時によく使う例が「ドラえもん」です。

のび太くんとお母さんの関係を「信頼関係の3つの柱」で見てみましょう。

  • 尊敬 ×:上下の関係になっている
  • 安心感 ×:「勉強しなさい!」はコントロール
  • 味方 ×:のび太の考えを受け止めていない

これでは、いくら「コーチング的な質問」をしても心が開きません。

コーチングの本質は「正そうとするな!わかろうとせよ!」です。


ペーシング:空気を合わせる技術

信頼関係を素早く築く技術が「ペーシング」です。

ペーシングとは、相手にペースを合わせること——相手との間に「共通点」を見つけたり、相手の話し方や表情など、いろいろなことを意識的に合わせていくことです。

ペーシングできること:

  • ①視線を合わせる(視線の高さを合わせる)
  • ②表情・感情・あいづちのスピード・言葉
  • ③話し方(スピード・トーン・テンション)
  • ④動き・仕草(身振り・手振り)

人は自分と似た人に安心する。

共通点探しで、相手に「安心感」をプレゼントしましょう。


タイプ別コミュニケーション:みんなに同じ声かけをしない

2015年に突然、薬局長に任命された私が最初に悩んだことがあります。

「みんなに響く言葉を掛けたい!」

でもすぐに気づきました——スタッフには、いろんなタイプがいると。

  • 給料重視のスタッフ
  • 仕事のやりがい・満足度重視のスタッフ
  • 働きやすさ重視のスタッフ
  • 休みの取りやすさ重視のスタッフ
  • 人間関係重視のスタッフ

同じ声かけでは、全員には届きません。「松岡修造さん」のような情熱的なコミュニケーションが全員に響くわけでもない。

そこで活用できるのが「ソーシャルスタイル」によるタイプ別コミュニケーションです。


ソーシャルスタイルの4タイプ

1968年に社会学者David Merrillらが提唱した「Social Style(ソーシャルスタイル)」を使い、外から見えるその人の態度を4タイプに分類できます。

「自己主張の強弱」と「感情表出の強弱」の2軸で分類します。

コントローラー型 人に指示されるのが大嫌いな行動派。論理と結果を重視。短く簡潔に要点を伝える。

プロモーター型 注目されるのが大好きな社交家。人との関わりを楽しむ。明るく話しかけ、アイデアを認める。

アナライザー型 計画・分析を重視し、我が道を行く勉強家。データと根拠を示す。論理的な説明を好む。

サポーター型 和を好む気配り上手。人間関係を大切にする。共感と安心感を与える話し方が有効。


医療での実践:タイプ別に声かけを変える

コントローラー型の患者さんへ: 「端的に言うと、○○の薬を飲むと△△%改善します」

プロモーター型の患者さんへ: 「一緒に頑張りましょう!きっとできますよ!」

アナライザー型の患者さんへ: 「この薬の作用機序はこういう仕組みで、データ的には○○%の効果があります」

サポーター型の患者さんへ: 「ご家族のためにも、一緒にゆっくり考えていきましょうね」


まとめ

  • 信頼関係の3つの柱:尊敬・安心感・味方
  • コーチングの本質:「正そうとするな、わかろうとせよ」
  • ペーシング:相手に合わせることで素早く安心感を与える
  • タイプ別コミュニケーション:同じ声かけでは全員に届かない
  • ソーシャルスタイル4タイプ:コントローラー・プロモーター・アナライザー・サポーター

次回は「コーチングの3大基本スキル:傾聴・承認・質問の全体像」を解説します。


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心理的安全性とは④ 

病院薬剤師の仕事ブログ(hosphar)

2026年7月3日金曜日

心理的安全性とは?Google社が発見した最強チームの共通点【コーチングシリーズ④】

 「心理的安全性(Psychological Safety)」——この言葉を聞いたことはありますか?実はGoogle社の研究から生まれたこの概念が、医療チームのパフォーマンスを大きく左右することがわかっています。


心理的安全性とは

心理的安全性とは、**「職場の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも、安心して発言できる環境」**のことです。

Googleが数百のチームを研究した結果、最も生産性が高く離職率が低いチームの共通点として発見しました。

心理的安全性が高い職場では:

  • 失敗をしても、リスクを取った行動をとっても「この職場であれば大丈夫」と思える
  • 自分の過ちを認めたり、質問をしたり、新しいアイデアを出したりしても、誰も馬鹿にしたり罰したりしないと信じられる

「良い病院はミスが多い」という逆説

これは衝撃的な事実ですが、心理的安全性の研究で明らかになっています。

悪い病院は、 ミスが少ない → 報告がきちんと上がらない → さらに悪くなる

良い病院は、 ミスが多い → 報告がきちんと上がる → さらに良くなる

「悪い病院のミスが少ない」のは、実際にミスが少ないのではなく、心理的安全性が低いため報告できないのです。

ミスを報告すると怒られる、責められる——そんな職場では、ミスは隠蔽され蓄積されます。

一方、心理的安全性が高い職場では、ミスを安心して報告・共有できるため、組織として学び、改善し続けられます。


心理的安全性のない職場で起きること

職場の心理的安全性を測る7つの質問があります。

① チームの中でミスをすると、たいてい非難される ② チームのメンバーは、課題や難しい問題を指摘し合える(逆転項目) ③ チームのメンバーは、自分と異なることを理由に他者を拒絶することがある ④ チームに対してリスクのある行動をしても安全である(逆転項目) ⑤ チームの他のメンバーに助けを求めることは難しい ⑥ チームメンバーは誰も、自分の仕事を意図的におとしめるような行動をしない(逆転項目) ⑦ チームメンバーと仕事をするとき、自分のスキルと才能が尊重され、活かされていると感じる(逆転項目)

あなたの職場はいかがでしょうか?


薬剤部で心理的安全性が高いと何が変わるか

① 個人の能力を発揮できる 失敗や批判を恐れることなく考えを発言できる。知らないことを積極的に質問し、効率よく成長できる。自分を尊重してもらえることで責任感が芽生え、自主的な行動が増える。

② 仕事の効率が上がる わからないことをすぐに質問できるため、ミスを未然に防げる。良いやり方をチームで共有してクオリティを上げられる。不安が少なく業務に集中できる。

③ 離職率が低下する 離職理由の多くは人間関係や仕事のやりがいのなさ。心理的安全性が高いと、自分を尊重してもらえる満足度・充実感が高まり、離職率が下がる。


心理的安全性を高める3つの方法

① 明確な目標設定 チームの目標が明確になると、メンバーの役割が明確になり、仕事に意義を感じられる。週1〜月1回のミーティングで目標・進捗を確認する習慣が有効。

② 質問しやすい環境づくり 上司・先輩が「無知・無能と思われる心配なく質問・相談できる」雰囲気を作る。「どんな質問でも無意味ではない」という文化を醸成する。

③ 個人を尊重する すべてのメンバーが認められ受け入れられている状態を目指す。1on1ミーティングで個人の思いを丁寧に聴く。「ありがとう」「助かった」「嬉しい」という言葉を日常的に使う。


心理的安全性 ≠ 「ぬるい職場」

誤解されやすいのですが、心理的安全性が高い職場は「馴れ合い」「ぬるい」職場ではありません。

心理的安全性と使命感・責任感が両方高い状態が「学習ゾーン(高パフォーマンスゾーン)」です。

心理的安全性が高くても使命感が低ければ「快適ゾーン(共依存の組織)」に留まります。

心理的安全性が高い + 高い使命感 = 率直に発言できる・懸念や疑問を言及できる・アイデアを話し合える組織

これが最強チームの姿です。


まとめ

  • 心理的安全性:「自分の考えを誰にでも安心して発言できる環境」
  • Google研究で最強チームの共通点として発見された
  • 「良い病院はミスが多い」——報告できる環境があるから改善できる
  • 心理的安全性が高いと、個人の能力発揮・仕事効率・離職率低下につながる
  • 高める方法:明確な目標・質問しやすい環境・個人を尊重する姿勢

次回は「アドラー心理学の全体像と信頼関係の作り方」を解説します。


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内発的動機づけとは③ 

病院薬剤師の仕事ブログ(hosphar)

2026年7月2日木曜日

内発的動機づけとは?「やらされ感」をなくす医療コミュニケーション【コーチングシリーズ③】

 「どうすれば患者さんやスタッフが自分から動くようになるのか?」——これは多くの医療従事者が悩む問いです。答えの鍵は「内発的動機づけ」にあります。


やる気には2種類ある

外発的動機づけ(External Motivation)

金銭・報酬・評価・罰則など、外部からの刺激によって行動が引き出される状態です。

「ボーナスが上がるから頑張る」「怒られるから薬を飲む」——これが外発的動機づけです。

外発的動機づけには限界があります。報酬がなくなると行動もなくなる。罰則がなくなれば元に戻る。

内発的動機づけ(Internal Motivation)

興味・関心・向上心・達成感など、内面から湧き上がる力によって行動が引き出される状態です。

「健康でいたいから薬を飲む」「患者さんの役に立ちたいから勉強する」——これが内発的動機づけです。

内発的動機づけから生まれた行動は継続しやすく、質が高く、満足度も高いのが特徴です。


のび太くんのお母さんの事例

アニメ「ドラえもん」の有名なシーンを例に考えましょう。

外発的アプローチ(命令型)

お母さん:「のび太、勉強しなさい!」
のび太:「は、はい。」(やる気:小)

内発的アプローチ(コーチング型)

お母さん:「のび太は、将来どんな仕事がしたいの?」
のび太:「将来は、薬剤師になりたいの。」
お母さん:「どうしたら薬剤師になれるんだろう?」
のび太:「薬学部に行かなきゃなれないね。」
お母さん:「薬学部って、何を勉強したら入れるの?」
のび太:「数学と化学と英語だよ!」
お母さん:「薬学部に入るために、これからどのようなことができると思うの!?」
のび太:「あっ、勉強しなきゃ!」(やる気:大)

同じ「勉強する」という結果でも、自分で考えて決めた時の方がやる気が全く違うのです。


アンダーマイニング効果に注意

「褒美で釣ればいい」と思いがちですが、注意が必要です。

アンダーマイニング効果とは、達成感や満足感を得るために行っていた行動に報酬が加わることで、「報酬を受けること」そのものが目的になり、本来の内的な動機が失われてしまう心理現象です。

「患者さんが検査値を改善させたらお菓子をあげる」——これを続けると、お菓子がもらえなくなった途端にモチベーションが下がります。

ただし、ほめ言葉は例外です。言語的な称賛は内発的動機づけを高める効果があります(後述の「承認スキル」で詳しく解説します)。


内発的動機づけの本質:自律性と有能感

内発的動機づけを高めるためのカギは2つです。

① 自律性(Autonomy):「楽しいからやろう」という自己決定感

自分が主体的に選んでいるという感覚が、やる気の根本になります。

患者さんに「飲み忘れないようにどんな工夫ができそうですか?」と聞くと、患者さん自身が考えた解決策が生まれます。「薬を財布に入れておく」「スマホのアラームを設定する」——これらは患者さん自身のアイデアなので、実行率が全く違います。

② 有能感(Competence):「進んだ・ほめられた・ぼくもできる」という感覚

小さな成功体験と、それを認めてもらう承認が重要です。「先月よりHbA1cが0.3%改善しましたね!」という一言が、次の行動へのエネルギーになります。


医療での実践:「やらされ感」をなくす質問

外発的アプローチ(やらされ感あり): 「食事制限してください」「毎日運動してください」「必ず薬を飲んでください」

内発的アプローチ(自己決定感あり): 「血糖値を良くするために、何か一つしてみるとしたらどんなことができそうですか?」 「無理なくできそうなことから始めるとしたら、何が挑戦しやすいですか?」

自分で考えて、自分で選んだ目標——これが継続する力の源になります。


まとめ

  • 内発的動機づけ:内から湧き出るやる気。継続しやすく、質が高い
  • 外発的動機づけ:外からの刺激によるやる気。報酬がなくなると消える
  • アンダーマイニング効果:報酬が内発的動機を壊すことがある(ほめ言葉は例外)
  • 自律性と有能感を高めることが内発的動機づけのカギ
  • 「自分で決めた感」を生む質問が、患者さんのアドヒアランスを変える

次回は「心理的安全性とは何か——Google社が発見した最強チームのカギ」を解説します。


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コーチング・ティーチング・カウンセリングの違い② 

病院薬剤師の仕事ブログ(hosphar)

2026年7月1日水曜日

コーチング・ティーチング・カウンセリングの違い【医療従事者向け解説】【コーチングシリーズ②】

 「コーチングって結局カウンセリングと何が違うの?」という質問をよく受けます。この3つは似ているようで、使いどころが全く異なります。使い分けを知ることで、患者さんへの関わり方が劇的に変わります。


3つのアプローチの根本的な違い

ティーチング(Teaching)

「私が持っている答えを、相手に伝える」

指示・命令・指導によって知識や技術を教えます。問題解決に迅速につながりますが、相手は受動的になり「指示待ち」になりやすい側面があります。

医療での例:「この薬は朝食後に1錠飲んでください」「HbA1cを7.0未満にしましょう」

コーチング(Coaching)

「相手が持っている答えを、質問によって引き出す」

こちらが思ってもみなかった答えを引き出せる可能性があり、相手も主体的に考えることで自主性が芽生えます。

医療での例:「血糖値を良くするために、あなたが一番取り組みやすいことは何だと思いますか?」

カウンセリング(Counseling)

「相手のマイナスの心の状態を、0付近まで引き上げる」

不安や悲しみなど、心の状態がマイナスの状態にある人に対して、その感情を受け止め、心理的な安定を取り戻すための支援をします。

医療での例:「糖尿病になって、何か不安なことはありませんか?」


医療での具体的な使い分け

糖尿病患者さんに「コーチング」か「カウンセリング」か

新たに糖尿病と診断された患者さんを想像してください。

「インスリンを打たないといけないと言われた」「ネットで調べたら一生打ち続けないといけないかも」「足が切断になることもある」「目が悪くなる」「腎臓も悪くなる」——そんな不安を抱えた状態で来た患者さんに、いきなり「血糖値を良くするために何ができますか?」とコーチングをしても響きません。

× 「糖尿病治療にあなたは何ができますか?」→ コーチング(この段階では不適切) ○ 「糖尿病になって、何か不安なことはありませんか?」→ カウンセリング(まずこちらから)

まずはカウンセリングで不安を取り除き、心の状態を±0付近まで引き上げてから、治療に前向きになるようにコーチングで促していく——この順番が大切です。


コーチングとティーチングは組み合わせると効果的

医療では特に、コーチングとティーチングを組み合わせることが重要です。

患者さんからいくら引き出そうとしても、患者さんに医療に関する知識がなければ引き出せません。

まずティーチングで医療知識を教え、目的地に連れて行ってあげる。そしてコーチングで信頼バロメーターを上げながら、患者さん自身の言葉で目標を語ってもらう。

コーチング(信頼構築)→ ティーチング(知識提供)→ コーチング(行動引き出し)

このサイクルが機能することで、患者さんのアドヒアランスが大きく改善します。


「コーチングはみんなに必要?」という誤解

コーチングは万能ではありません。必要とする人に、必要なタイミングで提供することが大切です。

例えば、定期的に薬をもらうだけで急いでいる患者さんに「血糖値を良くするために何かしていることがありますか?」と突然聞いたら、怒られることもあります(笑)。

患者さんの状態・ニーズ・タイミングに合わせて、ティーチング・コーチング・カウンセリングを使い分ける——これが真のコミュニケーション力です。


緊急度・重要度との関係

コーチングとティーチングの使い分けは、緊急度と重要度にも関係します。

  • 緊急度が高い場面(副作用発現・緊急の処置など)→ ティーチング(即座に正しい情報を伝える)
  • 重要度が高く、継続的な行動変容が必要な場面(生活習慣・慢性疾患管理)→ コーチング
  • 心理的サポートが必要な場面(診断直後・治療への抵抗感)→ カウンセリング

山本五十六の名言に学ぶ

連合艦隊司令長官・山本五十六の名言は、コーチング・ティーチング・エンパワーメントの本質を表しています。

「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ。」 → ティーチング(指示・命令)

「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。」 → コーチング(支持・支援)

「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。」 → エンパワーメント(権限移譲)

人を動かし、育て、実らせる——この3段階の成長を、コーチング・ティーチング・エンパワーメントが支えているのです。


まとめ

  • ティーチング:「私の答えを相手に伝える」→ 知識提供・指示命令に有効
  • コーチング:「相手の答えを引き出す」→ 行動変容・自主性促進に有効
  • カウンセリング:「マイナスの心を±0に引き上げる」→ 心理的支援に有効
  • 診断直後などマイナス状態の患者さんには、まずカウンセリングから
  • コーチングとティーチングを組み合わせることで効果が最大化する

次回は「自己決定理論と内発的動機づけ——なぜ人は自分で決めた時に動くのか」を解説します。


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コーチングとは何か① 

病院薬剤師の仕事ブログ(hosphar)

2026年6月30日火曜日

コーチングとは何か?医療従事者が知っておくべき基本【コーチングシリーズ①】

 アンガーマネジメントシリーズに続いて、今回から「コーチングシリーズ」をお届けします。

「コーチングって怪しくない?」「スポーツや企業の話でしょ?」——そう思っている医療従事者の方もいるかもしれません。でも実は、コーチングは患者さんとの服薬指導や、スタッフとのコミュニケーションに今すぐ使える、非常に実践的なスキルです。


コーチングとは

コーチングとは、知識やスキルを一方的に教えるのではなく、相手の中にある「やる気・能力・アイディア・可能性・行動力」を引き出し、自分で考え行動する「自発性」を促すコミュニケーションスキルです。

相手が目指すゴール(目標達成)に向けてサポートするのがコーチの役割です。

コーチは「クライアントには無限の可能性があり、夢や目標達成に必要なものはすべて持っている」ということを100%信じて、相手の話を最後まで否定せずにとことん聴きます。


なぜ医療でコーチングが必要なのか

こんな患者さん、いませんか?

  • 「血圧が高いのに認めない」「病院でマスクを着けてくれない」
  • 「タバコやめるぐらいやったら、死んだ方がマシや」
  • 「一生懸命に説明しても、薬をきちんと飲んでくれない」

このような状況に医療従事者が陥りがちな対応があります。

医療従事者:「血糖値を良くするためには、
      食事はバランスよく!
      毎日運動してね!
      タバコはやめて!
      薬はきちんと飲んで!」

患者さん:(何も言わず、小さくなる…話聞いてくれよ)

知識を一方的に与える指示命令型の一方通行コミュニケーションでは、うまくいかないケースがあるのです。


双方向コミュニケーションの力

コーチングが提案するのは「双方向のコミュニケーション」です。

「行動を変えないのには、変えない理由がある」 「答えは相手の中にある」 「相手の中にある答えを引き出してあげる」

この発想に基づいて、患者さん自身に考えてもらいます。

例えば:

医療従事者:「血糖値を良くするために、
      これから気をつけていきたいと
      思っていることは何ですか?」

患者さん:「うーん、やっぱりまずは食べる量に
     気をつけないといけないんだよね。
     でも、なかなか上手くいかないんだよ。」

患者さん自身が言葉にした目標は、医療者から言われた目標よりはるかに行動に結びつきやすいのです。


自己決定感がやる気を変える

なぜ自分で決めたことの方が行動に結びつくのでしょうか。

それは「自己決定感」の力です。

何かを自分で選んだり、自分で決めたりすること——この自己決定できるかどうかは、やる気に深く関わっています。「自己決定感・自分で決めた感」が強いと内発的動機づけが高まり、自信が付くことが論文でも報告されています(『幸福感と自己決定―日本における実証研究』参照)。

指示され「やらされること」では、やる気はいまいち出ません。

自分で決めたことの方が、やる気が出る。だから成果も出やすく、仮に結果に繋がらなかったとしても自分で決めたことなので納得でき、それが「満足度・幸福度」に繋がります。


コーチングの3原則

コーチングには3つの原則があります。

① 双方向性 上から下にならないように、同じ立場で会話できる関係を作る。患者さんの話をしっかり聞き、受け取ったことを伝えたり、質問したりすることで双方向の関わりを持つ。

② 継続性 患者さんが行動を起こす・変わるまで継続的に関わる。ズレがある場合は軌道修正する。

③ 個別対応 その人に合わせたコミュニケーションを行うことで、スピードを高め、結果を出しやすくする。


コーチングの第一歩はスキルではなく「心の状態」

コーチングを学び始める時、多くの人がスキルを知りたがります。でも実は、**一番のベースになるのはコーチングをする「あなた自身のいい状態」**です。

元気のない医療者だったら、患者さんはがっかりします。

まずは自分が元気であること。これが土台です。

知識やスキルがどれだけあっても、あなたの状態がよくなかったら、相手の状態もつかめないし、何をしたらいいかも思いつかず、よい結果には結びつきません。

「患者さんを良くしてあげたい」という気持ち——この**Mind(心の状態)**が土台にあってこそ、Contents(内容)とDelivery(伝え方)が活きてくるのです。


まとめ

  • コーチングとは相手の中にある答えを引き出す双方向コミュニケーション
  • 指示命令では動かない患者さんも、自分で決めると動き出す
  • 「自己決定感」が内発的動機づけを高め、行動・成果につながる
  • コーチングの3原則:双方向性・継続性・個別対応
  • スキルより先に、自分自身の「心の状態」を整えることが大切

次回はコーチング・ティーチング・カウンセリングの違いを解説します。


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