2026年7月18日土曜日

「正そうとするな、わかろうとせよ」——コーチングの本質と医療への応用【コーチングシリーズ⑲】

 コーチングを学んできて、今回は一度立ち止まって本質を考えます。「正そうとするな、わかろうとせよ」——この言葉がコーチングのすべてを表しています。


医療従事者が「正そうとしてしまう」理由

私たち医療従事者は「患者さんを正しい方向に導く」ことに使命を感じています。これ自体は素晴らしいことです。

しかし、その使命感が強くなりすぎると——

「なんで薬を飲まないの!」 「血圧が高いのに、なぜ塩分を制限しないの!」 「言ったことを守ってくれれば良くなるのに!」

これは「相手を正そうとしている」状態です。

正そうとする力が強ければ強いほど、相手の心は閉じていきます。


「わかろうとする」ことの力

コーチングは「わかろうとする」ことから始まります。

「なぜ薬を飲めないのか、わかろうとする」 「なぜ血圧が高いままなのか、わかろうとする」 「この患者さんの生活・価値観・不安を、わかろうとする」

「わかろうとする」姿勢は相手に伝わります。「この人は私のことをわかろうとしてくれている」と感じた瞬間、患者さんの心が開き始めます。


横文字・専門用語に要注意

コーチングを学んでいると、どうしても専門用語を使いたくなります。「アドヒアランス」「コンプライアンス」「動機づけ面接」——これらを患者さんに使っても全く伝わりません。

同職種(薬剤師同士)であれば専門用語が共通言語になり、会話が深まることもあります。でも患者さんに対しては、相手がわかる言葉で話すことが最優先です。

「正しい言葉を使おうとするな、相手に伝わる言葉を選ぼう」

これもコーチングマインドのひとつです。


コーチングの3大原則を再確認

コーチングの3原則に「わかろうとする」を重ねてみます。

① 双方向性 一方通行で「正そう」とするのではなく、相手の考えを聴きながら双方向で進む。

② 継続性 一度話して終わりではなく、継続的に「わかろうとする」関わりを続ける。

③ 個別対応 「この患者さん・このスタッフは何を感じているのか」を個別に理解しようとする。


コーチングとティーチングのバランス感覚

「コーチング9:フィードバック1」という比率で考えましょう。

9割の時間を「聴く・引き出す・承認する」に使い、1割の時間を「伝える・指摘する・提案する」に使う。

信頼貯金がたまっていない相手にフィードバックをしても、聞いてもらえません。まず信頼貯金を積む——これがコーチングが先に来る理由です。


医療従事者としての成長の学ぶ順番

医療従事者として成長するための学ぶ順番があります。

① Mind(心の状態) 「患者さんを良くしてあげたい」という気持ち。これが土台。

② Contents(内容) 提供する医療の内容・薬の知識。

③ Delivery(伝え方・表現力) 提供する医療の技術・伝え方。

多くの医療従事者は②と③ばかりを学びがちですが、①の「心の状態」が土台になければ、どれだけ知識や技術があっても患者さんには届きません。


コーチングの魅力——「扉が開く瞬間」

コーチングを学び始めた頃、ある薬局長との会話でこんな場面がありました。

私が「疑問形にするといいですよ」とコミュニケーションのコツを話していたら、

薬局長:「先生、語尾に大丈夫を付けたら、大半の部下は大丈夫ですと言いますよ」

私:「まさに。だから『どうすれば大丈夫になりますか?』と聞く方がいいんです」

薬局長:「あ〜、部下から聞き出すことが大切なのね」

——この瞬間が、コーチングの世界で言う「相手の扉が開いた瞬間」でした。

教えるのではなく、気づいてもらう。この体験を、患者さんやスタッフとの関わりの中で積み重ねていくことがコーチングの魅力です。


まとめ

  • 「正そうとするな、わかろうとせよ」がコーチングの本質
  • 「わかろうとする」姿勢が伝わることで相手の心が開く
  • 専門用語より「相手に伝わる言葉」を選ぶ
  • コーチング9:フィードバック1の比率で信頼貯金を積む
  • 成長の学ぶ順番:Mind → Contents → Delivery

次回は「コーチングが機能する5つの条件——効果を最大化するために知っておくこと」を解説します。


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