2026年7月1日水曜日

コーチング・ティーチング・カウンセリングの違い【医療従事者向け解説】【コーチングシリーズ②】

 「コーチングって結局カウンセリングと何が違うの?」という質問をよく受けます。この3つは似ているようで、使いどころが全く異なります。使い分けを知ることで、患者さんへの関わり方が劇的に変わります。


3つのアプローチの根本的な違い

ティーチング(Teaching)

「私が持っている答えを、相手に伝える」

指示・命令・指導によって知識や技術を教えます。問題解決に迅速につながりますが、相手は受動的になり「指示待ち」になりやすい側面があります。

医療での例:「この薬は朝食後に1錠飲んでください」「HbA1cを7.0未満にしましょう」

コーチング(Coaching)

「相手が持っている答えを、質問によって引き出す」

こちらが思ってもみなかった答えを引き出せる可能性があり、相手も主体的に考えることで自主性が芽生えます。

医療での例:「血糖値を良くするために、あなたが一番取り組みやすいことは何だと思いますか?」

カウンセリング(Counseling)

「相手のマイナスの心の状態を、0付近まで引き上げる」

不安や悲しみなど、心の状態がマイナスの状態にある人に対して、その感情を受け止め、心理的な安定を取り戻すための支援をします。

医療での例:「糖尿病になって、何か不安なことはありませんか?」


医療での具体的な使い分け

糖尿病患者さんに「コーチング」か「カウンセリング」か

新たに糖尿病と診断された患者さんを想像してください。

「インスリンを打たないといけないと言われた」「ネットで調べたら一生打ち続けないといけないかも」「足が切断になることもある」「目が悪くなる」「腎臓も悪くなる」——そんな不安を抱えた状態で来た患者さんに、いきなり「血糖値を良くするために何ができますか?」とコーチングをしても響きません。

× 「糖尿病治療にあなたは何ができますか?」→ コーチング(この段階では不適切) ○ 「糖尿病になって、何か不安なことはありませんか?」→ カウンセリング(まずこちらから)

まずはカウンセリングで不安を取り除き、心の状態を±0付近まで引き上げてから、治療に前向きになるようにコーチングで促していく——この順番が大切です。


コーチングとティーチングは組み合わせると効果的

医療では特に、コーチングとティーチングを組み合わせることが重要です。

患者さんからいくら引き出そうとしても、患者さんに医療に関する知識がなければ引き出せません。

まずティーチングで医療知識を教え、目的地に連れて行ってあげる。そしてコーチングで信頼バロメーターを上げながら、患者さん自身の言葉で目標を語ってもらう。

コーチング(信頼構築)→ ティーチング(知識提供)→ コーチング(行動引き出し)

このサイクルが機能することで、患者さんのアドヒアランスが大きく改善します。


「コーチングはみんなに必要?」という誤解

コーチングは万能ではありません。必要とする人に、必要なタイミングで提供することが大切です。

例えば、定期的に薬をもらうだけで急いでいる患者さんに「血糖値を良くするために何かしていることがありますか?」と突然聞いたら、怒られることもあります(笑)。

患者さんの状態・ニーズ・タイミングに合わせて、ティーチング・コーチング・カウンセリングを使い分ける——これが真のコミュニケーション力です。


緊急度・重要度との関係

コーチングとティーチングの使い分けは、緊急度と重要度にも関係します。

  • 緊急度が高い場面(副作用発現・緊急の処置など)→ ティーチング(即座に正しい情報を伝える)
  • 重要度が高く、継続的な行動変容が必要な場面(生活習慣・慢性疾患管理)→ コーチング
  • 心理的サポートが必要な場面(診断直後・治療への抵抗感)→ カウンセリング

山本五十六の名言に学ぶ

連合艦隊司令長官・山本五十六の名言は、コーチング・ティーチング・エンパワーメントの本質を表しています。

「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ。」 → ティーチング(指示・命令)

「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。」 → コーチング(支持・支援)

「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。」 → エンパワーメント(権限移譲)

人を動かし、育て、実らせる——この3段階の成長を、コーチング・ティーチング・エンパワーメントが支えているのです。


まとめ

  • ティーチング:「私の答えを相手に伝える」→ 知識提供・指示命令に有効
  • コーチング:「相手の答えを引き出す」→ 行動変容・自主性促進に有効
  • カウンセリング:「マイナスの心を±0に引き上げる」→ 心理的支援に有効
  • 診断直後などマイナス状態の患者さんには、まずカウンセリングから
  • コーチングとティーチングを組み合わせることで効果が最大化する

次回は「自己決定理論と内発的動機づけ——なぜ人は自分で決めた時に動くのか」を解説します。


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