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薬歴(薬剤服用歴)とは、患者さんの服薬状況・副作用歴・アレルギー歴・検査値・生活背景などを継続的に記録したものです。
単なる「処方の記録」ではありません。患者さんの薬物療法を継続的に評価・管理するための臨床記録です。
薬歴を書く目的は大きく3つあります。
① 患者の安全を守るため 過去の副作用歴・アレルギー歴・禁忌薬を把握することで、危険な処方を未然に防ぎます。
② 薬物療法の継続的評価のため 前回の指導内容・患者の反応・検査値の変化を記録・参照することで、今回の対応の質が上がります。
③ 薬剤師業務の根拠を示すため 「なぜこの指導をしたか」「何を確認したか」という判断の記録は、チーム医療の中で薬剤師の専門性を示す証拠になります。
**POS(Problem Oriented System:問題志向型システム)**とは、患者の「問題点」を中心に据えて医療情報を整理・記録・評価する考え方です。
1969年にアメリカの内科医ローレンス・ウィード博士が提唱し、医療記録の標準的な枠組みとして世界中に広まりました。
POSの核心は**「患者の問題点を明確にし、その問題に対して何をしたかを記録する」**という考え方です。
POSに基づく記録形式がSOAPです。
SOAPとは以下の4項目の頭文字を取ったものです。
| 項目 | 英語 | 日本語 | 内容 |
|---|---|---|---|
| S | Subjective | 主観的情報 | 患者さんが語ったこと(訴え・症状・感想) |
| O | Objective | 客観的情報 | 検査値・バイタル・処方内容など数値で示せる情報 |
| A | Assessment | 評価・分析 | SとOを踏まえた薬剤師としての評価・判断 |
| P | Plan | 計画 | 次回に向けた対応・指導計画・フォローアップ内容 |
【症例】
70歳男性。高血圧でアムロジピン5mg(降圧薬)を処方されている。今回の外来で「最近頭が痛い」と訴えた。血圧は160/95mmHg。
【悪い薬歴の例】
S:頭痛あり
O:BP 160/95
A:血圧高め
P:服薬継続
これでは何も考えていないのと同じです。Aに薬剤師の思考が入っておらず、Pに具体性がありません。
【良い薬歴の例】
S:「最近頭が痛い。薬はちゃんと飲んでいる」。朝に飲み忘れることが週に1〜2回あると話していた。
O:本日BP 160/95mmHg(前回140/88mmHg)。アムロジピン5mg処方継続中。eGFR 62(前回68)。
A:血圧が前回より上昇しており、頭痛との関連が疑われる。服薬の飲み忘れが週1〜2回あることが血圧コントロール不良の一因と考えられる。腎機能がやや低下傾向のため引き続きモニタリングが必要。
P:飲み忘れ防止の工夫(朝食と一緒に飲む習慣づけ、アラームの設定)を提案。次回外来時に服薬状況と血圧を再確認。必要に応じ医師へ用量調整の情報提供を検討。
Aに薬剤師としての判断が入り、Pに具体的なアクションが書かれています。これが薬歴の本来の姿です。
① S(主観的情報)が「特になし」で終わる
患者さんとの会話から何も引き出せていないか、引き出した情報を記録していないかのどちらかです。「特になし」は本当に何も聞き取れなかった時だけで、基本的に何らかの情報を記録するべきです。
② A(評価)が「問題なし」だけ
「問題なし」と書くためには、何を確認して問題がないと判断したのかを記録する必要があります。確認した内容・評価した視点がAに書かれていなければ、指導を行った証拠になりません。
③ P(計画)が「継続」だけ
何を継続するのか、次回何を確認するのかが明示されていなければ計画とは言えません。「現状の服薬を継続。次回来局時に副作用症状を再確認する」のように具体的に書きます。
④ コピペ薬歴
前回の記録をそのままコピーして日付だけ変える「コピペ薬歴」は、実際の患者指導が行われていないことを示すリスクがあります。監査・調査で問題になるだけでなく、患者の安全管理という観点からも論外です。
実習や就職したばかりの頃は「何を書けばいいかわからない」という壁にぶつかることがあります。
最初に意識してほしいのはたった一つです。
「この患者さんのために、今日自分は何を考えたか」を書く。
SOAPの形式は道具に過ぎません。大切なのは形式より中身——患者さんの情報から何を読み取り、何を判断し、次に何をするかというプロセスです。
形式が整っていても中身のない薬歴より、多少形式が崩れていても患者さんへの思考が詰まった薬歴の方が、はるかに価値があります。
薬歴は「書かされるもの」から「使うもの」に変わったとき、初めて意味を持ちます。
前回の薬歴を見て「そうか、この患者さんは先月から副作用を気にしていたんだ」と思い出せる。前回の自分の評価を読んで「あの時こう考えていたが、今はどうだろう」と振り返れる。
それが薬歴の本来の力です。
薬学実習生に指導するとき、私はよくこう言います。「薬歴は未来の自分と、次の担当者へのメッセージだ」と。
あなたが丁寧に書いた今日の薬歴が、3ヶ月後の患者さんを守ることがあります。
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