2026年7月13日月曜日

ABC理論:出来事・受け止め方・感情の構造を医療現場で活かす【コーチングシリーズ⑭】

 「怒りは第2感情」——アンガーマネジメントシリーズでもお伝えしましたが、今回はその背景にある「ABC理論」をコーチングの文脈で深掘りします。


ABC理論とは

アルバート・エリスが提唱した認知療法の基本概念です。

  • A(Activating event):出来事 遭遇する出来事。100%コントロールは不可能。
  • B(Belief):受け止め方 出来事をどう受け止めるか。自分の意志のもとに生まれる。
  • C(Consequence):感情 結果として生まれる感情・気持ち。

重要な発見:感情Cを生み出しているのは、出来事Aではなく受け止め方Bである

同じ出来事に遭遇しても、受け止め方が違えば、生まれる感情は全く変わります。


医療での具体例

場面:夜勤明けに急患が来た

Aさんの受け止め方:「なんでこんな時間に…最悪だ」→ C:怒り・疲弊感

Bさんの受け止め方:「よかった、私がいるタイミングで来てくれた」→ C:使命感・充実感

同じ「夜勤明けの急患(A)」でも、受け止め方(B)によって感情(C)が全く違います。


患者さんへの応用

場面:糖尿病と診断された患者さん

受け止め方①:「もう終わりだ、一生薬を飲み続けないといけない」→ C:絶望・無力感

受け止め方②:「早期発見できてよかった、今から気をつければ合併症を防げる」→ C:安心感・前向きさ

薬剤師が介入できるのは「B(受け止め方)」へのアプローチです。

「血糖値が改善してきましたね。この調子でいけば、合併症を防いで元気な生活が続けられますよ」という言葉が、患者さんのBを変え、Cを変え、次の行動を変えます。


怒りは「第2感情」

ABC理論と関連して、感情の構造を理解しましょう。

怒りは第2感情です。怒りの前には「期待」という第1感情があります。

薬を飲んでいない患者さんに怒りを感じる——その裏には「良くなってほしい」「心配している」という期待・一次感情があります。

その期待・一次感情を伝えると、相手の受け取り方が全く変わります。

「なんで薬飲んでないの!(怒り・二次感情)」 →「薬を飲んでくれないと、倒れたりしないか心配なんです(心配・一次感情)」

二次感情より一次感情を伝えることが、Iメッセージの本質でもあります。


受け止め方(B)を変えるコーチングの質問

受け止め方(B)に働きかけるコーチングの質問例:

「この状況を、違う角度から見るとどう見えますか?」 「10年後に今の状況を振り返ったら、どう見えると思いますか?」 「もし親友が同じ状況だったら、何と声をかけますか?」 「この経験から学べることは何ですか?」

視点が変わると、受け止め方が変わります。受け止め方が変わると、感情が変わります。感情が変わると、行動が変わります。


まとめ

  • ABC理論:感情Cは出来事Aでなく受け止め方Bが決める
  • 同じ出来事でも受け止め方次第で感情は変わる
  • 医療従事者が介入できるのは患者さんのBへのアプローチ
  • 怒りは第2感情——その裏の第1感情(期待・心配)を伝える
  • 受け止め方を変える質問で視点を広げる

次回は「コーチングマインドチェックリスト実践編:今の自分の姿勢を点検しよう」を解説します。


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内発的気づき⑬ 

病院薬剤師の仕事ブログ(hosphar)

2026年7月12日日曜日

内発的気づきを引き出す——指示より質問が人を成長させる理由【コーチングシリーズ⑬】

 「何度言っても変わらない」「指導しても次の日には元に戻っている」——そんな経験はありませんか?その原因は「伝え方」にあるかもしれません。今回は「内発的気づき」について解説します。


気づきには2種類ある

外発的気づき:指示やアドバイスによって促される気づき

「○○してください」「○○しないといけません」と言われて「ああ、そうか」と気づく。

→ やらされ感が生まれる。指示待ちになりやすい。

内発的気づき:質問や提案によって、自分の内省から生まれる気づき

「どうすれば○○できると思いますか?」という質問から、自分自身で答えを見つけ出す。

→ 行動への納得感が高く、成果が出やすい。自ら考える習慣がつき、成長につながる。


なぜ指示だと続かないのか

「薬を飲みなさい」と言われて飲む患者さん。「どうしたら忘れずに飲めると思いますか?」と聞かれて自分で考えた患者さん。

どちらが長期的に続くでしょうか?

答えは明らかです。自分で考えた解決策は「自分が選んだ」という自己決定感があるため、たとえ上手くいかない日があっても「自分が決めたことだから」という責任感を持ちやすくなります。

内発的気づきによる行動変容は:

  • モチベーションがアップする
  • 行動に納得感があり成果が出やすい
  • 自分と向き合う習慣により成長する

セキュリティカードの事例から学ぶ

上司が部下に対して「振り返り・今後の対応」を話す場面を例に考えます。

A君がセキュリティカードを紛失し、規則通りの報告をしなかった——このような失敗をした部下とどう向き合うか?

外発的アプローチ(NG例) 「なぜルールを守らなかったのか!」 → A君は反省の言葉を言うだけで、本質的な気づきは生まれない

内発的気づきを促すアプローチ(推奨例)

① まず聴く 感情・思考・行動・結果を分けて聴く。できた部分は共感的理解で聴く。できなかった部分も共感的理解で聴く。(自己開示も有効)

② 組織と個人が共に目指せるゴールを設定 チームの考えを説明し、組織と部下が共に目指せるポイントを探す。部下が自ら内省できるように促す。

③ できていることを勇気づけする 今、できていることを具体的に認める。

④ 課題を明確にする 「今回の課題は何だと思う?」という内発的気づきを促す質問で課題を一緒に明確化する。

⑤ 各課題の具体的な対策を検討する 「どうしていけばいいと思う?」という内発的気づきを促す質問で対策を一緒に考える。

⑥ 具体的対策の確認と後押し 合意した対策を確認し、「できる」という勇気づけをする。


内発的気づきを引き出す質問の作り方

内発的気づきを促す「For you」の質問の例:

  • 「いつまでに、どんな状態になるのが理想?」
  • 「サポートしてくれるとしたら誰がいる?」
  • 「何が成功の邪魔をしていると思う?」
  • 「もし制限がなかったとしたら、何をやってみたい?」

スタッフへの実践:「答えを教えない」指導法

若手スタッフが服薬指導で困っている場面:

外発的アプローチ(普通の指導) 「その患者さんには、こう言えばいい。○○を確認して、△△を説明して…」

内発的気づきを促すアプローチ(コーチング型指導) 「その患者さんに、どんなことを聞いてみたい?」 「何が一番気になった?」 「次回来たとき、どんな声かけをしてみようと思う?」

答えを与えるより時間はかかります。でも、自分で考えた解決策は「自分のもの」になります。これが本当の成長です。


まとめ

  • 気づきには外発的気づき(指示)と内発的気づき(質問・提案)がある
  • 内発的気づきはモチベーション・納得感・成長につながる
  • 失敗した時こそ「聴く→ゴール設定→勇気づけ→課題明確化→対策検討」の順で
  • 内発的気づきを引き出す質問は「For you」の質問
  • 「答えを教えない」指導が長期的な成長を育てる

次回は「自己決定理論の3つの心理的欲求:人が動く根本的なエネルギー」を解説します。


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共感的理解⑫ 

病院薬剤師の仕事ブログ(hosphar)

2026年7月11日土曜日

共感的理解:同じ目・耳・心で聴くとはどういうことか【コーチングシリーズ⑫】

 「共感」という言葉はよく使われますが、「共感的理解」は少し違います。今回はコーチングの核心にある「共感的理解」を、医療現場での実践につながる形で解説します。


「共感」と「共感的理解」の違い

まず言葉の整理から。

共感(Sympathy) 他人の考え・主張に「全くそうだと感ずること」。

共感的理解(Empathic Understanding) 相手が見たまま、聞いたまま、感じたままを、自分の解釈を入れず、評価せず受け止めるという行為。

共感は「私もそう思う」という共鳴ですが、共感的理解は「あなたがそう感じているということを、私は理解しようとしている」という姿勢です。


共感的理解を別の言い方で

「相手と同じ目で見て、同じ耳で聴いて、同じ心で感じようと思って、相手の話を聴くこと」

これが共感的理解の本質です。

「思って」というのがポイントです。完全に同じ心になることは不可能ですが、「なろうとする姿勢」——これが相手に伝わります。


同情・同感・共感の違い

医療現場でよく混同される3つの概念を整理します。

概念意味
同情かわいそうに思うこと(上から見下ろす視点)
同感自分の経験から解釈すること(自分フィルター)
共感的理解他人の気持ちを理解しようと努めること(相手の視点)

「かわいそうに」は同情で、相手の感情に対して上から評価しています。 「私もそういう経験があります」は同感で、自分の経験を投影しています。 「あなたがそう感じているんですね」が共感的理解です。


共感的理解の効果

共感的理解で聴くと、相手に3つのことが起きます。

  • 相手は、とても安心します
  • 相手は、もっと話したい気持ちになります
  • 相手と信頼関係の基礎を築くことができます

患者さんが「聴いてもらえた」と感じた瞬間から、心が開き始めます。アドバイスが届くのはその後です。


コミュニケーションの2つのポイント

共感的理解を実践するための2つの視点:

① 視点を変えて見てみよう(特に相手の目線で)

「私はこう思う」ではなく、「この患者さんはどう見ているのか」という視点の切り替え。同じ状況でも立場によって全く違う風景が見えています。

② イメージ化がポイント

伝える時はイメージ化。聴く時もイメージ化。

患者さんが「朝起きるのがつらくて、薬を飲む気になれない」と言った時、その患者さんの朝の風景を頭の中で映像化する。そうすることで、言葉の奥にある感情が伝わってきます。


聴き方の12のポイント

共感的理解を実践するための具体的な聴き方:

① ポジション(位置・距離) ② 姿勢 ③ ゼスチャー ④ 表情 ⑤ うなずき ⑥ あいづち ⑦ バックトラッキング(オウム返し) ⑧ ミラーリング ⑨ マッチング ⑩ イメージング(共感的理解) ⑪ プラス1ステート(相手より少し高いエネルギー状態を保つ) ⑫ 質問


バックトラッキングの使い方

前回も触れましたが、共感的理解において特に重要なのがバックトラッキングです。

患者さんの言葉をそのまま返したり、要約して返すことで:

  • 「ちゃんと聴いてもらえている」という安心感を与える
  • 患者さん自身の考えが整理される
  • 後の会話の方向性をポジティブに導ける

例: 患者さん「最近、仕事が忙しくて薬を飲み忘れることが増えてきました…」

バックトラッキング:「仕事が忙しい中でも、薬を飲もうとしているんですね」

同じ内容でも、「飲み忘れている(ネガティブ)」ではなく「飲もうとしている(ポジティブ)」にフォーカスすることで、次の話が全く変わります。


まとめ

  • 共感的理解:相手の解釈・評価を入れず、見たまま・聴いたまま・感じたままを受け止める
  • 同情(上から)・同感(自分フィルター)と区別する
  • 「あなたがそう感じているということを、理解しようとしている」姿勢が伝わる
  • 共感的理解の効果:安心・もっと話したくなる・信頼関係の基礎
  • バックトラッキングでポジティブな側面にフォーカスする

次回は「内発的気づきを引き出す——指示より質問が人を成長させる理由」を解説します。


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アドラー心理学⑪ 

病院薬剤師の仕事ブログ(hosphar)

2026年7月10日金曜日

アドラー心理学の5つの要素:医療従事者のための人間関係の教科書【コーチングシリーズ⑪】

 コーチングの根底にある哲学として、アドラー心理学があります。「嫌われる勇気」でも有名なアルフレッド・アドラーの考え方は、患者さんとの関わり方・スタッフマネジメントの両方に深く関係しています。


アドラー心理学の5つの要素

アドラー心理学は5つの柱から成り立っています。

① 目的論 人の行動は「過去の原因」ではなく「未来の目的」によって決まる。「あなたが過去にこんな経験をしたから、こうなった」ではなく、「あなたは今何を目的として行動しているのか」という視点。

② 全体論 人間は分割できない全体として捉える。身体・精神・感情は切り分けられない統合体である。

③ 社会統合論 人間は本来、社会や他者とのつながりの中で生きている。人は「共同体感覚」を持って社会に貢献することで幸福を感じる。

④ 現象学的立場 客観的な現実ではなく、その人が主観的にどう見ているかが行動を決定する。「その人にとっての現実」を理解することが大切。

⑤ 勇気づけの心理学 アドラー心理学は「勇気づけ」の心理学。人が行動を変えるのに必要なのは「勇気」であり、その勇気を与えることがサポートの本質。


医療への応用:目的論で患者さんを見る

アドラーの目的論を医療に当てはめると、患者さんの見方が変わります。

「なぜ薬を飲まないのか(過去・原因)」ではなく、 「何のために飲まないという行動をとっているのか(目的)」

薬を飲まないことで「忙しいことをアピールできる」「自分はまだ元気だと感じられる」「副作用が怖いという不安から逃げられる」——患者さんの行動には必ず目的があります。

その目的を理解することで、効果的な介入のポイントが見えてきます。


「勇気づけ」の心理学

アドラーの言葉:

「人は貢献感を感じ、自分に価値があると思える時にだけ勇気を持つことができる」

勇気づけとは、相手が「目標に向かって進む力・困難を克服する力」を持てるよう支援することです。

アドラー心理学は「叱らない、褒めない、勇気づける」を実践します。

「褒める(縦の関係・評価)」ではなく、「勇気づけ(横の関係・貢献感)」によって、人は自ら行動する力を得ます。


相互尊敬・相互信頼

アドラー心理学の核心にあるのは「相互尊敬・相互信頼」です。

医療従事者と患者さんの関係は、どうしても「教える側・教えられる側」という縦の関係になりがちです。

しかしアドラーは「横の関係」を重視します。患者さんを対等なパートナーとして尊重し、一緒に目標に向かって歩む——この姿勢がコーチングの土台になります。


ABC理論:感情は出来事ではなく「受け止め方」で決まる

アドラー心理学と関連する重要な概念が「ABC理論」です。

  • A(Activating event):出来事——遭遇する出来事(100%コントロール不可)
  • B(Belief):受け止め方——出来事をどう受け止めるか(自分の意志で変えられる)
  • C(Consequence):感情——結果として生まれる感情・気持ち

「同じ出来事(A)でも、受け止め方(B)が違えば、感情(C)も変わる」——これがABC理論の核心です。

患者さんが「糖尿病と診断された(A)」という同じ出来事でも、「もう終わりだ(B)→絶望(C)」と受け止める人もいれば、「早めに見つかってよかった(B)→安心(C)」と受け止める人もいます。

薬剤師が介入できるのは「B(受け止め方)」へのアプローチです。


2:6:2の法則——嫌われることに楽になる

アドラー心理学の文脈で、人間関係について知っておいてほしいのが「2:6:2の法則」です。

どんな人でも:

  • 自分を好きな人:2割
  • どっちでもない人:6割
  • 自分を嫌いな人:2割

これはパレートの法則から派生した、組織における自然の法則です。働きアリでも同じで、全力で働く2割、普通に働く6割、サボる2割に必ず分かれます。

「あの患者さんに嫌われた」「あのスタッフに嫌われている」——そう感じる時は、「2割に入っちゃったか」くらいに思えると楽になります。

嫌われないように必死になるより、自分らしくあることの方がずっと大切です。


まとめ

  • アドラー心理学5つの要素:目的論・全体論・社会統合論・現象学・勇気づけ
  • 目的論:「なぜ(過去)」より「何のために(未来)」で患者さんを理解する
  • 勇気づけ:横の関係からの貢献感が人を動かす
  • ABC理論:感情は出来事でなく受け止め方が決める
  • 2:6:2の法則:嫌われることを恐れず、自分らしくあることが大切

次回は「共感的理解:同じ目・耳・心で聴くとはどういうことか」を解説します。


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  GROWモデル⑩ 

病院薬剤師の仕事ブログ(hosphar)

2026年7月9日木曜日

GROWモデル:面談・指導を劇的に変える4ステップ【コーチングシリーズ⑩】

 コーチング面談の実践で最も使われるのが「GROWモデル」です。患者さんとの服薬指導から、スタッフとの1on1面談まで幅広く活用できる強力なフレームワークです。


GROWモデルとは

GROWモデルは、コーチング面談の質問を4つのステップで構造的に捉えるフレームワークです。

  • G(Goal):ゴール——目標を明確にする
  • R(Reality):リアリティ——現状を明確にする
  • R(Resource):リソース——活用できる資源を確認する
  • O(Option):オプション——選択肢を引き出す
  • W(Will):ウィル——意思決定を促す

このモデルを使うことで、面談中に「どこを質問しているのか」が明確になり、迷子にならずに済みます。


G:ゴールの質問——あるべき姿を明確にする

まず「どういう状態を目指しているか」を明確にします。

ゴール設定の質問例:

  • 「どういう状態を目指していますか?」
  • 「具体的にはどういうことですか?」
  • 「例えばどういう状態でしょうか?」
  • 「どれくらいの数値になると達成感が得られますか?」
  • 「その目標を達成したい理由は何でしょうか?」
  • 「その目標が達成できたら何を得られると思いますか?」

糖尿病患者さんへの例: 「血糖値をどのくらいにしたいですか?」 「HbA1cが7.0%になった時、どんな生活ができていると思いますか?」

目標の数値だけでなく、「その目標を達成した先にある生活・未来」を明確にすることが重要です。未来のイメージが明確なほど、行動への動機が強くなります。


R:リアリティ&リソースの質問——現状と資源を明確にする

現在の状態と、活用できる資源(人・物・時間・経験)を確認します。

現状確認の質問例:

  • 「そのことについて、現在はどんな状態ですか?」
  • 「今までどんな対応を取ってきましたか?」
  • 「上手くいった点とそうでない点は?」

資源確認の質問例:

  • 「活用できる資源はありませんか?」
  • 「誰か頼れる人はいませんか?」
  • 「うまくいくときといかないときの差は何だと思いますか?」

スタッフ面談での例: 「この半年で、自分が頑張れたと思うことはどんなことですか?」 「その経験から、今後に活かせることはありますか?」


O:オプションの質問——選択肢を豊富に引き出す

ゴールに向かうための「選択肢」をできるだけ多く引き出します。

選択肢を引き出す質問例:

  • 「どんなことをすると目標が達成できそうですか?」
  • 「他にはいかがですか?」
  • 「うまくいった時のやり方を再現できる方法は?」
  • 「別のやり方で目標達成できる方法は?」
  • 「もし制限がなかったとしたら、何をやってみますか?」

ポイント:どれだけ豊富に選択肢を出せるかが大事です。「それしかない」ではなく「こんな方法もある」という可能性の広がりが、相手の自主性を引き出します。


W:ウィルの質問——意思決定を促す

選択肢から実際に「何を、いつ、どうやって」実行するかを決める段階です。

意思決定を促す質問例:

  • 「様々な選択肢の中で、何を実行に移しますか?」
  • 「いつまでに実行しますか?」
  • 「達成の可能性は何%くらいだと感じますか?」
  • 「進捗のチェックはどうやって行いますか?」
  • 「誰か巻き込んでおいた方がいい人はいませんか?」

大切なこと:コーチが答えに誘導(エセコーチング)するのではなく、相手が本当に求めている正解に導いてあげることが本物のコーチングです。


面談の4レベルと目指すべき関係

スタッフとの面談には4つのレベルがあります。

  • レベル1:雑談面談
  • レベル2:トラブル対応面談
  • レベル3:問題発見・悩み解消面談
  • レベル4:目標共有・共感度アップ面談 ←ここを目指す

多くの管理職が「チームがひとつにならない」と悩みますが、原因は「目標をベースとしたコミュニケーションの不足」にあります。

GROWモデルでの面談習慣が、チームを目標共有・共感度アップの段階へ引き上げます。


私の1on1面談テンプレート

参考として、私が実際に使っている1on1面談のテンプレートを紹介します。

今期(12月〜5月 or 6月〜12月):10点満点中何点? →「何でその点数だったの?」 →「頑張ったこと、取り組んだこと、反省を教えてください」

どうすればあと1〜2点上がりますか? →「次期に向けて頑張りたいこと、やりたいこと」

悩みや問題はある?

周りにプラスを与えられること(患者・自部署・他部署)——一つ宣言

シンプルですが、このテンプレートを使うことで面談が「雑談」で終わらず、スタッフの成長と目標共有につながります。


まとめ

  • GROWモデル:G(目標)→ R(現状・資源)→ O(選択肢)→ W(意思決定)の4ステップ
  • 目標の数値だけでなく「達成した先の未来」を明確にする
  • 選択肢は豊富に引き出す——「これしかない」から「こんな方法も」へ
  • コーチは相手が本当に求める答えに導く(エセコーチングにならない)
  • 1on1面談を習慣化することでチームが目標共有・共感度アップへ

次回は「アドラー心理学の5つの要素:医療従事者のための人間関係の教科書」を解説します。


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Iメッセージ・YOUメッセージ⑨ 

病院薬剤師の仕事ブログ(hosphar)

2026年7月8日水曜日

Iメッセージ・YOUメッセージ:主語を変えるだけで関係が変わる【コーチングシリーズ⑨】

 「なんでできないの!」「ちゃんと飲んでください!」——医療現場でこんな言葉を使っていませんか?今回は言葉の主語を変えるだけで、コミュニケーションが劇的に変わる「Iメッセージ」を解説します。


YOUメッセージとIメッセージの違い

YOUメッセージ:主語が「あなた(YOU)」

「(あなたは)いいかげんにしなさい」 「(あなたは)何度言ったらわかるの」 「(あなたは)なんで薬飲んでないの!?」

YOUメッセージは、相手を責めてしまう傾向があります。言われた側は「自分を攻撃された」と感じ、心の壁を作ります。

Iメッセージ:主語が「わたし(I)」

「(私は)飲んでくれないと倒れたりしないか心配なんです」 「(私は)あなたがいてくれて助かった」 「(私は)連絡がないと心配になる」

Iメッセージは自分の気持ちや考えを主張するにとどまり、相手を尊重したコミュニケーションができます。


薬を飲んでいない患者さんへの関わり方

実際の医療現場での比較です。

YOUメッセージ(避けたい) 「なんで薬飲んでないの?ちゃんと飲まないとダメじゃないですか!」 → 患者さんは萎縮するか、言い訳を考えるかのどちらか

Iメッセージ(オススメ) 「飲んでくれないと倒れたりしないか心配なんです」 「薬をしっかり飲んでくれるとお子さんも安心するんじゃないですか」 → 患者さんは責められた感じがなく、自分ごととして考えやすい


3段階のアイメッセージ

アドラー心理学では、主張を3段階で行うことを教えています。

レベル1:表情アイメッセージ(まずこれを試す) 言葉にしないで表情や声の調子で感情を表現する。30%くらいの人はこれだけで気づいてくれる。

レベル2:言葉のアイメッセージ(それでも気づかない場合) 具体的に言葉にしていく。70%の人はここで気づいてくれる。

レベル3:YOUメッセージ(最後の手段) これでも理解してくれない場合は最終手段としてYOUメッセージを使う。


実例:迷子になった子供への声かけ

親子でデパートに行って、子供が迷子になってやっと再会できました。

YOUメッセージ 「どこに行っていたのよ!はぐれないでよ!もう連れてこないよ!」

Iメッセージ 「心配してたよ。無事でいてくれてよかった」

Iメッセージの後には「心配させないようにしよう」という前向きな行動に繋がります。


実例:テストの点数が悪かった子供へ

いつも80点ぐらいが当たり前の息子が30点を取ってきた。

YOUメッセージ 「ちゃんと勉強した!なんでそんな点数取ったの!そんな点数取って恥ずかしいよ!」

Iメッセージ 「言いづらかったよね。見せたくなかったよね。ちゃんと見せてくれてありがとうね。次いい点を取れるように一緒に勉強しようね」

テストを見せてくれたこと(行動)を承認してから、前向きな提案へ。


Iメッセージの3つの構成要素

効果的なIメッセージには3つの要素があります。

① 事実(行動) 相手の行為や出来事を非難がましくなく述べる(事実の描写)

② 影響 その行為によって生じる「波及効果」を伝える

③ 感情 あなたの素直な心情を伝える

例)遅刻癖のある彼氏への一言: 「(私は)大事にされている感じがしない…(感情)遅れるとき(事実)は、次から時間を守ってほしい(影響・お願い)」


Iメッセージを使う注意点

Iメッセージにも弱点があります。

  • 指示をするときには向かない(「○○の作業を○時までにやってほしい」はYOUメッセージの方が明確)
  • 曖昧な伝え方になりやすい(「どうすればいいかわからない」と受け取られることも)

Iメッセージが特に効果的な場面:

  • ネガティブなフィードバックをする時
  • 信頼関係がまだ十分でない時
  • 目上の人への発言

まとめ

  • YOUメッセージは相手を責める印象が強く、心の壁を作る
  • Iメッセージは自分の気持ちを伝え、相手を尊重できる
  • 3段階で主張:表情→言葉のI→YOU(最終手段)
  • Iメッセージの3要素:事実・影響・感情
  • 指示・命令の場面はYOUメッセージの方が明確なことも

次回は「アドラー心理学の勇気づけ:褒めると勇気づけの本質的な違い」を解説します。


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質問スキル⑧ 

病院薬剤師の仕事ブログ(hosphar)

2026年7月7日火曜日

質問スキル:「WHY」より「WHAT・HOW」で相手の可能性を引き出す【コーチングシリーズ⑧】

 コーチングの3大スキルの中で、最もコーチ力が問われるのが「質問」です。良い質問は相手の視点を変え、相手自身が気づきを見つける力を持ちます。


「For me」の質問と「For you」の質問

質問には大きく2種類あります。

「For me」の質問(情報収集の質問) 質問者が知りたいことを聞く質問。「今日はどこが痛いですか?」「薬はいつ飲みますか?」

「For you」の質問(効果的な質問) 相手の内発的気づきを促す質問。相手の行動を促進し、相手が自ら考える力をつける。

コーチングで求められるのは「For you」の質問です。


4種類の質問の特性

過去質問 vs 未来質問

過去質問(あまりオススメしない) 「飲み忘れちゃったんですか?」→「…はい」 過去に焦点を当てる。「そんなこと言われても、構わないでくれ」と感じさせてしまうことがある。

未来質問(オススメ) 「どうしたら忘れずに飲めると思いますか?」→「財布においたら、忘れなくなると思います!」 未来に焦点を当て、これからの行動に結びつきやすい結果が得られる。

否定質問 vs 肯定質問

否定質問(あまりオススメしない) 「ダメじゃないですか!」→「…ですよね。でも、」 やることをやっていなかった場面でつい使いがち。相手は保身にまわりやすく、考えを閉ざしてしまう。

肯定質問(オススメ) 「そんなこともありますよ。どうしたら、できそうですか?」→「つい忘れちゃって。次は気をつけます!」 相手の言動を肯定的に捉え、相手の考えを促す。具体的な行動に結びつきやすい。


WHY質問からWHAT・HOW質問へ

これが最も重要な質問の転換です。

WHY質問(原因追及型:オススメしない)

「どうしてできないの!?」 「なぜ間違えた!?」 →「…」(沈黙)

「なぜ・どうして」という疑問詞は、その人自身の責任を追及する「原因思考型質問詞」です。相手を傷つける結果になりやすく、改善策には繋がりにくい。

WHAT・HOW質問(解決指向型:オススメ)

「何が調剤過誤の原因だと思う?」→「忙しかったからだと思います」 「どうしていったらいいかな?」→「優先順位をつけるといいと思います」

WHATとHOWは「具体的な解決先に向かうことができる解決指向型質問詞」です。

原因をその人に帰属させるのではなく、原因を外側に引っ張り出して「何が原因なのか」「どのようにしていけばよいか」を一緒に考える。

ミスの当事者も自分が責められた感じがしにくいので、自分のミスを客観的に見つめ直し、改善策を冷静に考えられます。


拡大質問と限定質問の使い分け

拡大質問(オープンエンドクエスチョン) 5W1Hを使う質問。相手が自由に考え、言語化することをサポートする。 「将来どうなっていたいですか?」「血糖値を良くするためにどんなことができそうですか?」

→ 話し好きな方・積極的な方に有効。情報量が多く、踏み込みやすい。

限定質問(クローズドクエスチョン) Yes/Noで答えられる質問。 「循環器内科にご通院ですか?」「朝食後に飲んでいますか?」

→ 話したがらない方・シャイな方に有効。簡単に答えられる。

実は限定質問から始めて話しやすい雰囲気を作り、拡大質問に移行するという使い方も効果的です。


糖尿病患者さんへの「質問力」実例

コーチングを使った糖尿病患者さんへの具体的な質問例:

「糖尿病でもっとも困っている・心配なことは何ですか?」 「糖尿病はあなたやご家族の毎日の生活にどんな影響を与えていますか?」 「(説明前に)お知りになりたいのはどんなことでしょうか?」 「糖尿病を良くするために何かしていることがありますか?」 「糖尿病を良くするために何か一つしてみるとしたら、どんなことができそうですか?」

これらはすべて「For you」の未来質問・肯定質問です。


質問のポイントまとめ

① 拡大質問 ≧ 限定質問(まず拡大、シャイな人には限定から) ② 未来質問 > 過去質問 ③ 肯定質問 > 否定質問 ④ WHAT・HOW > WHY(「なぜ」より「何が・どのように」)


まとめ

  • 「For you」の質問が相手の内発的気づきを促す効果的な質問
  • 過去より未来に焦点を当てる質問が行動に結びつく
  • 否定より肯定の表現で相手の考えを促す
  • WHYより「WHAT・HOW」で解決指向の話し合いができる
  • 患者さんへの具体的な質問例を意識して活用する

次回は「Iメッセージ・YOUメッセージ:言葉の主語を変えるだけで関係が変わる」を解説します。


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承認スキル⑦ 

病院薬剤師の仕事ブログ(hosphar)

2026年7月6日月曜日

承認スキル:5種類の承認で相手の自己肯定感を高める【コーチングシリーズ⑦】

 「仕事をしていて一番つらいことの一つは、誰にも認めてもらえないこと」——これはスタッフにも患者さんにも共通する感情です。今回はコーチングの「承認スキル」を解説します。


承認とは何か

承認とは、相手の変化や成長、存在そのものを、ありのままに認めて、相手に伝えることです。

「誰かに認めてもらいたい」——これは人間の根本的な欲求です(マズローの欲求5段階説の第4段階:承認欲求)。

この承認欲求が満たされることで、人は次の「自己実現」へと向かう力を得ます。

承認は「心の栄養・心のビタミン」です。


「褒める」と「勇気づけ」の決定的な違い

アドラー心理学では「褒めない、叱らない。勇気づけをする」と言われます。

この「褒める」と「勇気づけ」の違いが重要です。

褒める(縦の関係・YOUメッセージ)

「綺麗に掃除できたね。偉いです!」 「売上目標達成したね。良くやった!」

褒めるは「事実+評価」。主語が「あなた(YOU)」になります。評価する側とされる側という縦の関係になります。

勇気づけ(横の関係・Iメッセージ)

「わかりやすい資料ですね。助かります!」 「元気な挨拶してくれるね。嬉しいよ!」

勇気づけは「事実+Iメッセージ(私の感情)」。相互尊敬・相互信頼の横の関係から生まれます。

アドラーの言葉:

「人は貢献感を感じ、自分に価値があると思える時にだけ勇気を持つことができる」


勇気づけの3兄弟

最も万能な承認の言葉は、実はシンプルな3つです。

  • 「ありがとう!」
  • 「嬉しい!」
  • 「助かった!」

これが「勇気づけ3兄弟」です。

難しいことを言わなくていい。この3つを日常的に使うだけで、職場の雰囲気は大きく変わります。


5種類の承認

承認には5つの種類があります。

① 結果承認 生み出した結果を承認する。 「先月のHbA1cが改善しましたね!」

② プロセス承認(過程承認) 結果に至るまでのプロセスや苦労を承認する。失敗したときに特に効果的。 「毎日頑張って来てくれてましたよね。その積み重ねが確実に出てきています」

③ 行動承認 具体的な行動を承認する。 「毎日薬を飲み続けているんですね」

④ 意識承認 まだ行動には出ていないが、意識していることを承認する。 「薬を飲もうとしていることが、もう大事な一歩ですね」

⑤ 存在承認 相手の唯一性・存在そのものを承認する。承認の中で最も重要。 「○○さんに来てもらえて、私も元気をいただいています」


存在承認:在宅・終末期で特に重要

5種類の中で最も大切なのが「存在承認」です。

医療の最前線——在宅や終末期の現場では特に重要です。

利用者さん:「いつもすまんなぁ。ワシなんか人に世話をかけてばっかりで、何の役にも立たん」

薬剤師:「そんなことありませんよ。○○さんに来てもらいたくて、私はお薬を準備しています。○○さんにお会いして、元気をいただいているんですよ。」

利用者さん:「…ありがとう」

「あなたがここにいていいんだ」という安心感——これが存在承認の力です。


承認の示し方:うなずき・あいづち・リフレイン

承認は言葉だけでなく、非言語でも伝えられます。

うなずき 相手の話をしっかり聴き、うなずく。うなずきがない相手に話すことはとても苦痛に感じてしまいます。うなずくだけでも相手は認めてもらっていると感じられます。

あいづち 「うん」「なるほど」「そうなんですね」「いいですね」など。コツは少なすぎず多すぎず。口癖のようにならないよう、バリエーションを持つ。

リフレイン(オウム返し) 相手の言葉をそのまま繰り返したり、キーワードのみを繰り返す。


まとめ

  • 承認とは相手の変化・成長・存在をありのままに認めて伝えること
  • 「褒める(縦・YOU)」より「勇気づけ(横・I)」が強力
  • 勇気づけ3兄弟:「ありがとう」「嬉しい」「助かった」
  • 5種類の承認:結果・プロセス・行動・意識・存在
  • 存在承認が最も重要。「あなたがいていい」という安心感を届ける

次回は「質問スキル:相手の可能性を引き出す効果的な質問とは」を解説します。


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傾聴スキル⑥ 

病院薬剤師の仕事ブログ(hosphar)

2026年7月5日日曜日

傾聴スキル:「心で聴く」3つのレベルと実践法【コーチングシリーズ⑥】

 コーチングの3大基本スキルは「傾聴・承認・質問」です。今回はその中でも最も基本となる「傾聴」について解説します。傾聴は「ただ聞く」ことではありません。


傾聴には3つのレベルがある

レベル1:耳で聞く 耳で音だけを聞く。BGMとして聞く。話に食いつかない。

レベル2:頭で聞く 頭でいろいろ判断し、自分の考えをもって聞く。反対意見を持ったりして(しまう)。

レベル3:心で聴く(本当の傾聴) 心を一緒に動かして聴く。

相手の眼になり、耳になり、心になって、 相手と同じ目で見て、同じ耳で聴いて、同じ心で感じようと思って 相手の話を聴くこと。

コーチングで求められるのはこのレベル3です。


傾聴の4つのポイント

① 先入観・固定観念の排除(ゼロポジション)

「この患者さんはいつも薬を飲まない人だから…」「この部下は問題を起こすから…」という固定観念を取り払う「ゼロ」の状態で聴く。

自分のフレームを取り払うことが、相手を正しく理解する最初のステップです。

② 最後まで聴く

自分の話したいことは脇に置く。相手が話し終わるまで遮らない。これだけで相手の信頼を大きく得ることができます。

③ うなずき・あいづち

相手が話しやすくなるような、うなずき・あいづちをしましょう。 ポイントは相手の話し方に合わせた深さ・同じくらいの頻度。「うんうんうん」と連続したり、口癖のように「なるほどなるほど」を繰り返すのは逆効果です。バリエーションを持って。

④ 共感(同情・同感と区別する)

意味
同情かわいそうに思うこと
同感自分の経験から解釈すること
共感他人の気持ちを理解しようと努めること

「かわいそうに」と上から見るのでも、「自分もそうだったから」と自分の経験を押し付けるのでもなく、「あなたはそう感じているんですね」と相手の気持ちに寄り添うのが共感です。

⑤ ペーシング

相手の身振りや動作、表情、話すスピードに合わせること。人は「自分と似ている」と感じる相手に親近感を覚えます。


傾聴を妨げる「D言葉」

傾聴を妨げる「D言葉」があります。

だから」「だけど」「だったら」「だって」「でも」「ですから」「どうせ

相手との会話の中でD言葉を使うと、相手は自分を否定されたと感じ、話を傾聴してもらえないという不信感を持つようになります。

代わりに「YES+BUT法」を使う:

「そうですね(YES)」→ 相手の気持ちを受け取る 「しかし…」(BUT)→ 自分の考えを添える 「どうでしょうか?」→ 確認する

この順番で話すと、否定的なニュアンスを和らげながら自分の意見を伝えられます。


傾聴の3つの具体スキル

ミラーリング 相手の姿勢や仕草を鏡のように合わせる

ペーシング 相手の声のトーンや話すペースを合わせる

バックトラッキング(オウム返し) 相手の言葉をそのまま繰り返したり、時おり要約して返す

バックトラッキングは特に強力です。話し手が自分の言葉を聞き直すことで、混沌としていた考えが整理され、新たな気づきが生まれます。

例: 患者さん:「最初の1週間は頑張って散歩していたけど、雨が続いてやめちゃいました。やっぱりだめですね」

バックトラッキングA:「雨が続いてやめちゃったんですね」(ネガティブを強調) バックトラッキングB:「運動のよさを実感された時期もあったんですね」(ポジティブを強調)

バックトラッキングの仕方によって、その後の話の方向性が大きく変わります。できたことに焦点を当てることで、行動変容がより効果的になります。


「聴くということ」——詩に学ぶ傾聴の本質

グレン・ヴァン・エカレンの詩の一節を紹介します。

話を聞いてくれと言うと、あなたは忠告を始める。 私はそんなことを頼んでいない。 話を聞いてくれと言うと、問題を解決してくれようとする。 私が求めているのは、そんなことではない。 聞いてください。ただ私の話を聞くだけでいい。

患者さんもスタッフも、まず「聴いてほしい」と思っています。すぐにアドバイスや解決策を出そうとするより、まず「聴く」——この姿勢が、信頼関係の基盤になります。


まとめ

  • 傾聴の3レベル:耳で聞く→頭で聞く→心で聴く(コーチングはレベル3)
  • 4つのポイント:先入観排除・最後まで聴く・うなずき・共感
  • D言葉(だから・だけど・でも…)は傾聴を妨げる
  • ミラーリング・ペーシング・バックトラッキングが具体スキル
  • まず「聴く」——これが信頼関係の土台

次回は「承認スキル:5種類の承認で相手の自己肯定感を高める」を解説します。


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信頼関係の作り方⑤ 

病院薬剤師の仕事ブログ(hosphar)

2026年7月4日土曜日

信頼関係の作り方:尊敬・安心感・味方の3つの柱【コーチングシリーズ⑤】

 コーチングの前提となるのが「信頼関係」です。どれだけスキルが高くても、信頼関係がなければコーチングは機能しません。今回は信頼関係を作る3つの柱を解説します。


信頼関係の3つの柱

コーチングで信頼関係を作るには、3つの要素が必要です。

① 尊敬(Respect) 相手をリスペクトから入る。「尊敬しろ」ではなく、技術として考える。尊敬できるところを探してみる。そこから態度・声に出してみる。人間関係が上手くいきやすくなります。

② 安心感(Safety) コントロールではなく「安心感」があるかどうかが大切です。「正論・説得・おどす・物でつる・泣き落とし」などによるコントロールではなく、安心感を与えられているかを問い直しましょう。

③ 味方(Being on their side) 自分は相手にとって味方だと思ってもらうこと。相手の考え方を「受け入れる」のではなく「受け止める(共感する)」。目標を共有する。その人が大切にしていることを大切にする。

相手は、信頼されたら、裏切りにくくなる。


のび太くんとお母さんに学ぶ「信頼なき関係」

コーチングを語る時によく使う例が「ドラえもん」です。

のび太くんとお母さんの関係を「信頼関係の3つの柱」で見てみましょう。

  • 尊敬 ×:上下の関係になっている
  • 安心感 ×:「勉強しなさい!」はコントロール
  • 味方 ×:のび太の考えを受け止めていない

これでは、いくら「コーチング的な質問」をしても心が開きません。

コーチングの本質は「正そうとするな!わかろうとせよ!」です。


ペーシング:空気を合わせる技術

信頼関係を素早く築く技術が「ペーシング」です。

ペーシングとは、相手にペースを合わせること——相手との間に「共通点」を見つけたり、相手の話し方や表情など、いろいろなことを意識的に合わせていくことです。

ペーシングできること:

  • ①視線を合わせる(視線の高さを合わせる)
  • ②表情・感情・あいづちのスピード・言葉
  • ③話し方(スピード・トーン・テンション)
  • ④動き・仕草(身振り・手振り)

人は自分と似た人に安心する。

共通点探しで、相手に「安心感」をプレゼントしましょう。


タイプ別コミュニケーション:みんなに同じ声かけをしない

2015年に突然、薬局長に任命された私が最初に悩んだことがあります。

「みんなに響く言葉を掛けたい!」

でもすぐに気づきました——スタッフには、いろんなタイプがいると。

  • 給料重視のスタッフ
  • 仕事のやりがい・満足度重視のスタッフ
  • 働きやすさ重視のスタッフ
  • 休みの取りやすさ重視のスタッフ
  • 人間関係重視のスタッフ

同じ声かけでは、全員には届きません。「松岡修造さん」のような情熱的なコミュニケーションが全員に響くわけでもない。

そこで活用できるのが「ソーシャルスタイル」によるタイプ別コミュニケーションです。


ソーシャルスタイルの4タイプ

1968年に社会学者David Merrillらが提唱した「Social Style(ソーシャルスタイル)」を使い、外から見えるその人の態度を4タイプに分類できます。

「自己主張の強弱」と「感情表出の強弱」の2軸で分類します。

コントローラー型 人に指示されるのが大嫌いな行動派。論理と結果を重視。短く簡潔に要点を伝える。

プロモーター型 注目されるのが大好きな社交家。人との関わりを楽しむ。明るく話しかけ、アイデアを認める。

アナライザー型 計画・分析を重視し、我が道を行く勉強家。データと根拠を示す。論理的な説明を好む。

サポーター型 和を好む気配り上手。人間関係を大切にする。共感と安心感を与える話し方が有効。


医療での実践:タイプ別に声かけを変える

コントローラー型の患者さんへ: 「端的に言うと、○○の薬を飲むと△△%改善します」

プロモーター型の患者さんへ: 「一緒に頑張りましょう!きっとできますよ!」

アナライザー型の患者さんへ: 「この薬の作用機序はこういう仕組みで、データ的には○○%の効果があります」

サポーター型の患者さんへ: 「ご家族のためにも、一緒にゆっくり考えていきましょうね」


まとめ

  • 信頼関係の3つの柱:尊敬・安心感・味方
  • コーチングの本質:「正そうとするな、わかろうとせよ」
  • ペーシング:相手に合わせることで素早く安心感を与える
  • タイプ別コミュニケーション:同じ声かけでは全員に届かない
  • ソーシャルスタイル4タイプ:コントローラー・プロモーター・アナライザー・サポーター

次回は「コーチングの3大基本スキル:傾聴・承認・質問の全体像」を解説します。


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心理的安全性とは④ 

病院薬剤師の仕事ブログ(hosphar)

2026年7月3日金曜日

心理的安全性とは?Google社が発見した最強チームの共通点【コーチングシリーズ④】

 「心理的安全性(Psychological Safety)」——この言葉を聞いたことはありますか?実はGoogle社の研究から生まれたこの概念が、医療チームのパフォーマンスを大きく左右することがわかっています。


心理的安全性とは

心理的安全性とは、**「職場の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも、安心して発言できる環境」**のことです。

Googleが数百のチームを研究した結果、最も生産性が高く離職率が低いチームの共通点として発見しました。

心理的安全性が高い職場では:

  • 失敗をしても、リスクを取った行動をとっても「この職場であれば大丈夫」と思える
  • 自分の過ちを認めたり、質問をしたり、新しいアイデアを出したりしても、誰も馬鹿にしたり罰したりしないと信じられる

「良い病院はミスが多い」という逆説

これは衝撃的な事実ですが、心理的安全性の研究で明らかになっています。

悪い病院は、 ミスが少ない → 報告がきちんと上がらない → さらに悪くなる

良い病院は、 ミスが多い → 報告がきちんと上がる → さらに良くなる

「悪い病院のミスが少ない」のは、実際にミスが少ないのではなく、心理的安全性が低いため報告できないのです。

ミスを報告すると怒られる、責められる——そんな職場では、ミスは隠蔽され蓄積されます。

一方、心理的安全性が高い職場では、ミスを安心して報告・共有できるため、組織として学び、改善し続けられます。


心理的安全性のない職場で起きること

職場の心理的安全性を測る7つの質問があります。

① チームの中でミスをすると、たいてい非難される ② チームのメンバーは、課題や難しい問題を指摘し合える(逆転項目) ③ チームのメンバーは、自分と異なることを理由に他者を拒絶することがある ④ チームに対してリスクのある行動をしても安全である(逆転項目) ⑤ チームの他のメンバーに助けを求めることは難しい ⑥ チームメンバーは誰も、自分の仕事を意図的におとしめるような行動をしない(逆転項目) ⑦ チームメンバーと仕事をするとき、自分のスキルと才能が尊重され、活かされていると感じる(逆転項目)

あなたの職場はいかがでしょうか?


薬剤部で心理的安全性が高いと何が変わるか

① 個人の能力を発揮できる 失敗や批判を恐れることなく考えを発言できる。知らないことを積極的に質問し、効率よく成長できる。自分を尊重してもらえることで責任感が芽生え、自主的な行動が増える。

② 仕事の効率が上がる わからないことをすぐに質問できるため、ミスを未然に防げる。良いやり方をチームで共有してクオリティを上げられる。不安が少なく業務に集中できる。

③ 離職率が低下する 離職理由の多くは人間関係や仕事のやりがいのなさ。心理的安全性が高いと、自分を尊重してもらえる満足度・充実感が高まり、離職率が下がる。


心理的安全性を高める3つの方法

① 明確な目標設定 チームの目標が明確になると、メンバーの役割が明確になり、仕事に意義を感じられる。週1〜月1回のミーティングで目標・進捗を確認する習慣が有効。

② 質問しやすい環境づくり 上司・先輩が「無知・無能と思われる心配なく質問・相談できる」雰囲気を作る。「どんな質問でも無意味ではない」という文化を醸成する。

③ 個人を尊重する すべてのメンバーが認められ受け入れられている状態を目指す。1on1ミーティングで個人の思いを丁寧に聴く。「ありがとう」「助かった」「嬉しい」という言葉を日常的に使う。


心理的安全性 ≠ 「ぬるい職場」

誤解されやすいのですが、心理的安全性が高い職場は「馴れ合い」「ぬるい」職場ではありません。

心理的安全性と使命感・責任感が両方高い状態が「学習ゾーン(高パフォーマンスゾーン)」です。

心理的安全性が高くても使命感が低ければ「快適ゾーン(共依存の組織)」に留まります。

心理的安全性が高い + 高い使命感 = 率直に発言できる・懸念や疑問を言及できる・アイデアを話し合える組織

これが最強チームの姿です。


まとめ

  • 心理的安全性:「自分の考えを誰にでも安心して発言できる環境」
  • Google研究で最強チームの共通点として発見された
  • 「良い病院はミスが多い」——報告できる環境があるから改善できる
  • 心理的安全性が高いと、個人の能力発揮・仕事効率・離職率低下につながる
  • 高める方法:明確な目標・質問しやすい環境・個人を尊重する姿勢

次回は「アドラー心理学の全体像と信頼関係の作り方」を解説します。


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内発的動機づけとは③ 

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