2026年8月14日金曜日

向精神薬中毒:BZD・TCA・リチウム・バルプロ酸の特徴と治療【中毒シリーズ⑧】

 向精神薬の過量服用(OD)は、救急外来で最も多く見られる薬物中毒のひとつです。ベンゾジアゼピン・三環系抗うつ薬・リチウム・バルプロ酸——それぞれに特徴的な病態と治療があります。


ベンゾジアゼピン(BZD)中毒

特徴

最も頻度の高い薬物OD。比較的安全域が広いため、BZD単独服用での死亡は少ないですが、アルコールや他の中枢抑制薬との混合服用では危険性が増します。

症状

  • 鎮静・傾眠
  • 意識障害
  • 呼吸抑制(重症例)
  • 構音障害・運動失調

治療

拮抗薬:フルマゼニル(アネキセート®)

  • 投与量:0.2mg IV → 反応なければ0.1mg追加(最大1mg)
  • 効果発現:1〜2分
  • 作用持続:30〜60分(BZDより短い!)

フルマゼニル使用時の注意点(重要)

半減期が短いため再鎮静が起きる BZDの半減期はフルマゼニルより長いため、初期に改善しても数時間後に再鎮静が起きることがある。繰り返し投与または経過観察が必要。

慢性BZD使用者では痙攣誘発リスクがある 長期間BZDを服用している患者に急速拮抗すると、BZD離脱症状として痙攣が起きることがある。

三環系抗うつ薬(TCA)との混合服用時は使用禁忌 TCAによる痙攣閾値低下状態でフルマゼニルを使うと、BZDの抗痙攣作用がなくなって激しい痙攣発作が起きる危険がある。


三環系抗うつ薬(TCA)中毒

特徴

TCA(イミプラミン・アミトリプチリン・クロミプラミンなど)は治療域が比較的狭く、過量服用では致死的になりうる薬物です。ODでは非常に危険な薬物グループです。

3大毒性

① 抗コリン作用 散瞳・頻脈・口腔乾燥・尿閉・腸蠕動低下・皮膚乾燥(抗コリン性トキシドロームを呈する)

② Na⁺チャネル遮断(最も重要・致死的) 心臓のNa⁺チャネルを遮断 → QRS幅延長(>100ms) → 致死的不整脈(心室頻拍・心室細動) → QRSが100msを超えたら炭酸水素Naの適応

③ 中枢神経毒性 痙攣・昏睡(GABA受容体阻害による)

心電図所見

  • QRS延長(>100ms:危険信号)
  • 右軸偏位
  • aVRでのR波増高(TCA中毒に特徴的)

治療

炭酸水素ナトリウム(NaHCO₃)

  • 適応:QRS > 100ms または低血圧・不整脈がある場合
  • 作用:アルカリ化によりNa⁺チャネルへのTCA結合を減少・Na⁺競合で回路を改善
  • 目標pH:7.45〜7.55
  • 投与:1〜2mEq/kg ボーラス → 効果なければ繰り返し

痙攣対策 ジアゼパム(ベンゾジアゼピン)

禁忌:フルマゼニル(痙攣誘発のため絶対禁忌)


リチウム中毒

特徴

リチウムは治療域が非常に狭い薬物(0.6〜1.2mEq/L)。わずかな要因で中毒域(>1.5mEq/L)に達します。

中毒になりやすい状況

  • 発熱・嘔吐・下痢・発汗による脱水(Na欠乏はリチウム再吸収を促進)
  • NSAIDs・ACE阻害薬・利尿薬との相互作用(リチウムの腎クリアランスを低下)
  • 腎機能低下

症状(重症度別)

重症度血中濃度症状
軽度1.5〜2.5mEq/L振戦・悪心・下痢・口渇
中等度2.5〜3.5mEq/L運動失調・構音障害・混乱
重度>3.5mEq/L痙攣・昏睡・不整脈

治療

  • 輸液(生理食塩水)で排泄促進(Naを補充することでリチウムの再吸収を減らす)
  • 活性炭は無効
  • Li > 4.0mEq/L → 血液透析(HD)
  • 注意:HDでリチウムは除去されるが、透析後に組織からリバウンドして血中濃度が再上昇することがある

バルプロ酸中毒

特徴

バルプロ酸(デパケン®)は抗てんかん薬・気分安定薬として広く使われます。過量服用では特徴的な高アンモニア血症が問題になります。

症状

  • 意識障害・鎮静
  • 呼吸抑制
  • 代謝性アシドーシス
  • 高アンモニア血症 → 肝性脳症様症状
  • 血小板減少
  • 低体温

治療

L-カルニチン点滴

  • 適応:高アンモニア血症(NH₃上昇)
  • 作用機序:バルプロ酸の代謝経路がβ酸化を阻害してカルニチン欠乏を起こす → カルニチン補充でアンモニア産生を抑制
  • 投与:100mg/kg を30分で(最大6g)

活性炭:早期(服用後1時間以内)なら有効

重症例:血液透析(HD)


向精神薬中毒まとめ

薬物特徴的な症状重要な治療・注意点
BZD鎮静・呼吸抑制フルマゼニル(TCA混合時禁忌・再鎮静注意)
TCAQRS延長・不整脈・痙攣炭酸水素Na(QRS>100ms)。フルマゼニル禁忌
リチウム振戦→運動失調→痙攣生食補液。HD(>4.0mEq/L)。活性炭無効
バルプロ酸意識障害・高NH₃血症L-カルニチン点滴。活性炭(早期)。重症はHD

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