除染で毒物の吸収を防いだ後、すでに体内に吸収された毒物をどう「早く体外に出すか」が次の課題です。今回は尿アルカリ化と血液浄化(透析)の使い分けを解説します。
排泄促進法とは
消化管から吸収された毒物を、腎臓・血液浄化によって積極的に体外に排出する方法です。
すべての中毒に適応があるわけではなく、分布容積が小さく・タンパク結合率が低い薬物が対象となります。
なぜなら:
- 分布容積が大きい薬物 → 組織に広く分布しており、血液を浄化しても組織から血液への移行が追いつかず効果が限定的
- タンパク結合率が高い薬物 → 薬物がタンパクに結合した状態では透析膜を通過できない
尿アルカリ化
原理
弱酸性薬物は、尿をアルカリ性にすることでイオン化が促進され、尿細管での再吸収が減少して尿中への排泄が増加します。
弱酸性薬物 → アルカリ尿中でイオン化 → 尿細管で吸収されにくくなる → 排泄↑
適応薬物
- サリチル酸(アスピリン中毒)
- フェノバルビタール
- メトトレキサート
目標pH
尿pH:7.5〜8.5
方法
炭酸水素ナトリウム(NaHCO₃)の点滴静注でpHを維持します。
注意:低カリウム血症への対応が必須
尿をアルカリ化するとKが細胞内に取り込まれ、低K血症になりやすいです。K補充(KCl補正)を適宜行いながら実施します。
モニタリング
- 尿pH(1〜2時間ごとに確認)
- 血清K値(低K血症に注意)
- 血液ガス(過剰アルカリ化による代謝性アルカローシスに注意)
血液浄化法
体内に吸収された毒物を体外循環によって積極的に除去します。
HD(血液透析)
原理
半透膜を介して血液中の毒物を透析液側に拡散させて除去します。
適応する毒物
- リチウム(治療域が狭く重症中毒では必須)
- メタノール(ギ酸による視神経障害・代謝性アシドーシス)
- エチレングリコール(シュウ酸による腎障害)
- サリチル酸(重症例)
適応の判断基準の例(リチウム):血中リチウム濃度 > 4.0 mEq/L、重篤な神経症状
HDに適する薬物の特徴
- 分子量が小さい
- 分布容積が小さい(Vd < 1L/kg 程度)
- 蛋白結合率が低い
- 水溶性
HP(血液吸着:Hemoperfusion)
原理
血液を活性炭またはイオン交換樹脂カラムに通し、毒物を吸着除去します。HDより大きな分子・脂溶性薬物にも有効です。
適応する毒物
- テオフィリン
- カルバマゼピン
- 一部の農薬
CHDF(持続血液濾過透析)
持続的に緩徐に行う血液浄化法。血行動態が不安定な患者(血圧が低いなど)でHDが実施困難な場合の選択肢です。
中毒治療よりも臓器サポート目的で使われることが多いです。
血液浄化の適応を判断する際のポイント
血液浄化の適応を判断する際に確認すること:
- 薬物の物理化学的性質(分子量・分布容積・蛋白結合率・水溶性/脂溶性)
- 中毒の重症度(意識障害・臓器障害・致死的経過)
- 支持療法だけで回復可能か
- 血液浄化のアクセス確保が可能か(バスキュラーアクセス)
尿アルカリ化 vs 血液浄化の比較
| 手法 | 適応薬物 | 侵襲性 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 尿アルカリ化 | サリチル酸・フェノバルビタール・MTX | 低 | 低K血症・過アルカリ化 |
| HD | リチウム・メタノール・EG・サリチル酸 | 高 | 血行動態安定が必要 |
| HP | テオフィリン・カルバマゼピン | 高 | 血小板減少リスク |
| CHDF | 血行動態不安定時 | 中 | 持続管理が必要 |
薬剤師のかかわり
血液浄化に際して薬剤師がかかわる場面:
- 血液浄化の適応判断支援(薬物の物理化学的性質の情報提供)
- 透析除去率を考慮した投与量の再設計
- 血液浄化中の薬物モニタリング(血中濃度測定の提案)
- 透析後の薬物補充の提案(一部の薬物は透析で除去されるため、補充が必要)
例:リチウムは透析で効率よく除去されますが、透析後に組織からリチウムが再分布して血中濃度が再上昇することがあります(リバウンド現象)。繰り返しの透析が必要な場合があり、薬剤師が濃度推移を管理します。
まとめ
- 排泄促進法:尿アルカリ化と血液浄化(HD・HP・CHDF)
- 分布容積が小さく蛋白結合率が低い薬物が適応
- 尿アルカリ化:サリチル酸・フェノバルビタールに。低K血症に注意
- HD:リチウム・メタノール・エチレングリコール・サリチル酸重症例
- HP:テオフィリン・カルバマゼピンに
- 薬剤師は適応判断・投与量設計・濃度モニタリングで貢献
次回は「主要解毒薬一覧:何に・何を・いつ使うか」を解説します。
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