中毒治療において「毒をどう体外に出すか(除染)」は極めて重要です。活性炭・胃洗浄・全腸管洗浄——それぞれの適応と禁忌を正しく知っておくことが、薬剤師として中毒医療に貢献する第一歩です。
除染法の全体像
除染には大きく2種類あります。
消化管除染:経口摂取した毒物の消化管からの吸収を減らす・排出を促す
- 活性炭投与
- 胃洗浄
- 全腸管洗浄(WBI)
体表面除染:皮膚・眼に付着した毒物を除去する
- 皮膚洗浄
- 眼洗浄
活性炭投与
作用機序
活性炭は微細な孔が無数に存在し、毒物を物理的に吸着します。消化管から毒物が吸収される前に、活性炭に吸着させて便として排出させます。
適応・タイミング
多くの経口中毒で第一選択として考慮されます。
服用後1時間以内が最も有効。時間が経つほど効果が減弱しますが、遅延吸収が予想される薬物(徐放剤・抗コリン薬)では1時間を過ぎても考慮します。
禁忌(活性炭が効かない・逆効果なもの)
- 腐食性物質(強酸・強アルカリ):活性炭に吸着されず、投与自体のリスクが高い
- 金属(鉄・リチウム・鉛・ヒ素):活性炭に吸着されない
- アルコール類(エタノール・メタノール・エチレングリコール):吸着しない
- リチウム:吸着しない(特記)
- 石油製品・有機溶剤:嘔吐・誤嚥のリスク大
投与方法
通常:活性炭 1g/kg(最大50g)を水に懸濁して経口投与
多回投与活性炭(MDAC): 一部の薬物(フェノバルビタール・カルバマゼピン・テオフィリン・アスピリン)では、複数回の活性炭投与が腸肝循環を断ち切り、排泄を促進します。
注意事項
- 意識障害がある患者には誤嚥リスクがあるため、気道確保(挿管)後に投与する
- 腸蠕動がない場合(腸閉塞疑い)は禁忌
- 黒い便が出ることを患者・家族に事前説明する
胃洗浄
概要
胃管(太いチューブ)を口腔・鼻腔から胃に挿入し、生理食塩水を注入・排液することで胃内容物を除去します。
適応・タイミング
生命を脅かす量の経口摂取があった場合に考慮。
服用後1時間以内が最も有効。1時間を超えると多くの場合に薬物が腸に移行しており、効果が限定的になります。
禁忌
- 腐食性物質(強酸・強アルカリ・漂白剤):食道・胃の損傷を悪化させる危険
- 石油製品・有機溶剤:誤嚥による化学性肺炎のリスク
- 意識障害がある患者(気道未確保時):嘔吐・誤嚥のリスク
- 食道静脈瘤・最近の消化管手術後
現在の位置づけ
以前は「まず胃洗浄」という考え方が主流でしたが、現在では多くの場合、活性炭投与の方が優先されます。胃洗浄のリスク(誤嚥・食道穿孔・迷走神経反射)が再評価されたためです。
胃洗浄を積極的に考慮する場面:
- 致死量以上の服用が確実で、服用後1時間以内
- 活性炭に吸着されない物質(鉄・リチウムなど)の大量服用
全腸管洗浄(WBI:Whole Bowel Irrigation)
概要
ポリエチレングリコール電解質液(モビプレップ®・ニフレック®などの腸管洗浄剤)を大量に経口・経管投与し、腸管全体を洗い流す方法です。
適応
- 徐放製剤の大量服用(通常の活性炭・胃洗浄では不十分)
- 鉄・リチウム(活性炭が効かない物質)
- 薬物パケット(Body Packer):薬物を包んだものを飲み込んだ密輸業者
禁忌
- 腸閉塞・腸管穿孔
- 消化管出血
- 血行動態が不安定な状態
- 保護されていない気道(意識障害時)
投与方法
成人:1500〜2000mL/時間で経口・経鼻管投与(直腸排液が澄むまで継続)
皮膚・眼の除染
皮膚除染
農薬・化学物質の皮膚暴露が疑われる場合、できるだけ早期に除染します。
手順:
- 汚染された衣服・靴を脱ぐ(二次汚染防止!医療者もPPE着用)
- 乾燥した粉末は先に払ってから(水と反応する物質があるため)
- 大量の水で15〜30分間洗浄
- 中性石鹸を使用(アルカリ性洗浄剤は一部の化学物質と反応する)
有機リン中毒では皮膚から吸収される量が多く、二次汚染(医療者への汚染)に特に注意が必要です。
眼除染
化学物質が眼に入った場合、直ちに大量の水(生理食塩水が望ましい)で洗浄します。
最低15〜30分間の洗浄が推奨されます。コンタクトレンズは除去してから洗浄。
除染法の選択まとめ
| 除染法 | 適応のポイント | 主な禁忌 |
|---|---|---|
| 活性炭 | 多くの経口中毒。1時間以内が最有効 | 腐食性・金属・アルコール・リチウム |
| 胃洗浄 | 致死量以上・1時間以内。活性炭が効かない物質 | 腐食性・石油製品・意識障害(気道未確保) |
| 全腸管洗浄 | 徐放剤・鉄・リチウム・薬物パケット | 腸閉塞・穿孔・血行動態不安定 |
| 皮膚除染 | 農薬・化学物質の皮膚暴露 | 乾燥粉末は先に払う |
| 眼除染 | 化学物質の眼暴露 | 15〜30分の洗浄が必須 |
まとめ
- 活性炭は多くの経口中毒で第一選択。1時間以内が最も有効
- 腐食性物質・金属・アルコール・リチウムには活性炭は無効
- 胃洗浄は以前より適応が絞られている。腐食性・石油製品は禁忌
- WBI(全腸管洗浄)は徐放剤・鉄・リチウム・薬物パケットに
- 皮膚除染は二次汚染防止が最重要(医療者のPPE着用)
次回は「排泄促進法:尿アルカリ化と血液浄化」を解説します。
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