2026年8月10日月曜日

除染法の選択:活性炭・胃洗浄・全腸管洗浄の使い分け【中毒シリーズ④】

 中毒治療において「毒をどう体外に出すか(除染)」は極めて重要です。活性炭・胃洗浄・全腸管洗浄——それぞれの適応と禁忌を正しく知っておくことが、薬剤師として中毒医療に貢献する第一歩です。


除染法の全体像

除染には大きく2種類あります。

消化管除染:経口摂取した毒物の消化管からの吸収を減らす・排出を促す

  • 活性炭投与
  • 胃洗浄
  • 全腸管洗浄(WBI)

体表面除染:皮膚・眼に付着した毒物を除去する

  • 皮膚洗浄
  • 眼洗浄

活性炭投与

作用機序

活性炭は微細な孔が無数に存在し、毒物を物理的に吸着します。消化管から毒物が吸収される前に、活性炭に吸着させて便として排出させます。

適応・タイミング

多くの経口中毒で第一選択として考慮されます。

服用後1時間以内が最も有効。時間が経つほど効果が減弱しますが、遅延吸収が予想される薬物(徐放剤・抗コリン薬)では1時間を過ぎても考慮します。

禁忌(活性炭が効かない・逆効果なもの)

  • 腐食性物質(強酸・強アルカリ):活性炭に吸着されず、投与自体のリスクが高い
  • 金属(鉄・リチウム・鉛・ヒ素):活性炭に吸着されない
  • アルコール類(エタノール・メタノール・エチレングリコール):吸着しない
  • リチウム:吸着しない(特記)
  • 石油製品・有機溶剤:嘔吐・誤嚥のリスク大

投与方法

通常:活性炭 1g/kg(最大50g)を水に懸濁して経口投与

多回投与活性炭(MDAC): 一部の薬物(フェノバルビタール・カルバマゼピン・テオフィリン・アスピリン)では、複数回の活性炭投与が腸肝循環を断ち切り、排泄を促進します。

注意事項

  • 意識障害がある患者には誤嚥リスクがあるため、気道確保(挿管)後に投与する
  • 腸蠕動がない場合(腸閉塞疑い)は禁忌
  • 黒い便が出ることを患者・家族に事前説明する

胃洗浄

概要

胃管(太いチューブ)を口腔・鼻腔から胃に挿入し、生理食塩水を注入・排液することで胃内容物を除去します。

適応・タイミング

生命を脅かす量の経口摂取があった場合に考慮。

服用後1時間以内が最も有効。1時間を超えると多くの場合に薬物が腸に移行しており、効果が限定的になります。

禁忌

  • 腐食性物質(強酸・強アルカリ・漂白剤):食道・胃の損傷を悪化させる危険
  • 石油製品・有機溶剤:誤嚥による化学性肺炎のリスク
  • 意識障害がある患者(気道未確保時):嘔吐・誤嚥のリスク
  • 食道静脈瘤・最近の消化管手術後

現在の位置づけ

以前は「まず胃洗浄」という考え方が主流でしたが、現在では多くの場合、活性炭投与の方が優先されます。胃洗浄のリスク(誤嚥・食道穿孔・迷走神経反射)が再評価されたためです。

胃洗浄を積極的に考慮する場面:

  • 致死量以上の服用が確実で、服用後1時間以内
  • 活性炭に吸着されない物質(鉄・リチウムなど)の大量服用

全腸管洗浄(WBI:Whole Bowel Irrigation)

概要

ポリエチレングリコール電解質液(モビプレップ®・ニフレック®などの腸管洗浄剤)を大量に経口・経管投与し、腸管全体を洗い流す方法です。

適応

  • 徐放製剤の大量服用(通常の活性炭・胃洗浄では不十分)
  • 鉄・リチウム(活性炭が効かない物質)
  • 薬物パケット(Body Packer):薬物を包んだものを飲み込んだ密輸業者

禁忌

  • 腸閉塞・腸管穿孔
  • 消化管出血
  • 血行動態が不安定な状態
  • 保護されていない気道(意識障害時)

投与方法

成人:1500〜2000mL/時間で経口・経鼻管投与(直腸排液が澄むまで継続)


皮膚・眼の除染

皮膚除染

農薬・化学物質の皮膚暴露が疑われる場合、できるだけ早期に除染します。

手順:

  1. 汚染された衣服・靴を脱ぐ(二次汚染防止!医療者もPPE着用)
  2. 乾燥した粉末は先に払ってから(水と反応する物質があるため)
  3. 大量の水で15〜30分間洗浄
  4. 中性石鹸を使用(アルカリ性洗浄剤は一部の化学物質と反応する)

有機リン中毒では皮膚から吸収される量が多く、二次汚染(医療者への汚染)に特に注意が必要です。

眼除染

化学物質が眼に入った場合、直ちに大量の水(生理食塩水が望ましい)で洗浄します。

最低15〜30分間の洗浄が推奨されます。コンタクトレンズは除去してから洗浄。


除染法の選択まとめ

除染法適応のポイント主な禁忌
活性炭多くの経口中毒。1時間以内が最有効腐食性・金属・アルコール・リチウム
胃洗浄致死量以上・1時間以内。活性炭が効かない物質腐食性・石油製品・意識障害(気道未確保)
全腸管洗浄徐放剤・鉄・リチウム・薬物パケット腸閉塞・穿孔・血行動態不安定
皮膚除染農薬・化学物質の皮膚暴露乾燥粉末は先に払う
眼除染化学物質の眼暴露15〜30分の洗浄が必須

まとめ

  • 活性炭は多くの経口中毒で第一選択。1時間以内が最も有効
  • 腐食性物質・金属・アルコール・リチウムには活性炭は無効
  • 胃洗浄は以前より適応が絞られている。腐食性・石油製品は禁忌
  • WBI(全腸管洗浄)は徐放剤・鉄・リチウム・薬物パケットに
  • 皮膚除染は二次汚染防止が最重要(医療者のPPE着用)

次回は「排泄促進法:尿アルカリ化と血液浄化」を解説します。


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