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薬剤師の話
病院薬剤師日記
旧病院薬剤師日記
病院で働いている薬剤師が、薬や医療についての情報などを配信していきます。 講演や執筆依頼などは、toshiki.taura@gmail.comまで気軽にご連絡ください。
**お薬手帳(おくすり手帳)**とは、自分が服用している・使用している薬の情報を一冊にまとめた手帳です。
記録される主な情報は以下のとおりです。
お薬手帳は患者さん自身のものです。複数の病院・クリニック・歯科・皮膚科など、どこにかかっても必ず同じ一冊を持参することで、すべての医療機関・薬局が薬の全体像を把握できます。
複数の医療機関から同じ成分の薬が重複して処方されることがあります。たとえば内科で眠れないからと睡眠薬を処方され、精神科でも別の眠れない薬をもらっているというケースです。お薬手帳があれば薬局でこの重複に気づき、処方医に確認することができます。
薬と薬の組み合わせによっては、効果が強くなりすぎたり弱くなったりすることがあります(相互作用)。代表的な例として、ワルファリン(血液をサラサラにする薬)と解熱鎮痛薬の組み合わせは出血リスクを高めます。お薬手帳で全処方薬を確認することで、危険な飲み合わせを事前に発見できます。
「以前この薬でアレルギーが出た」「この薬を飲むと気持ち悪くなった」という経験は、次の処方に大きく影響します。お薬手帳に記録しておくことで、どの医療機関でも同じ情報を共有でき、同じ失敗を繰り返さずに済みます。
救急搬送された際や意識を失った状態では、患者さん本人が薬の情報を伝えることができません。お薬手帳があれば救急医療スタッフが即座に薬の情報を把握でき、適切な処置につながります。
病院薬剤師として実際によく遭遇する場面を紹介します。
ケース①:同じ成分の薬が2か所から
内科でアムロジピン(降圧薬)を処方されていた患者さんが、引っ越しを機に別のクリニックに転院。前の処方情報が引き継がれず、同じアムロジピンが追加処方された。お薬手帳の確認で重複を発見し、処方医に連絡して1剤に整理できた。
ケース②:禁忌薬の投与を防いだ
ぜんそくの患者さんに、別の症状で受診したクリニックからβ遮断薬(ぜんそくの禁忌薬)が処方されそうになった。お薬手帳に「ぜんそく」の既往と使用中の吸入薬の記録があったため、薬局で確認し処方医に変更を提案できた。
ケース③:副作用の早期発見
ある抗菌薬を処方された患者さんのお薬手帳に「過去にこの系統の薬でじんましんが出た」という記録があった。薬局で確認して処方医に連絡し、別の薬に変更することができた。
近年、紙のお薬手帳に加えて**電子お薬手帳(スマートフォンアプリ)**が普及しています。
代表的なアプリとして「EPION(エピオン)」「お薬手帳プラス」「日本調剤お薬手帳」「kakariお薬手帳」などがあります。
電子お薬手帳のメリット:
電子お薬手帳の注意点:
紙か電子かではなく、使い続けられる方法を選ぶことが最も重要です。
2023年以降、マイナンバーカードを健康保険証として利用するマイナ保険証の運用が進んでいます。
マイナ保険証を利用すると、マイナポータルを通じて過去の処方情報・薬剤情報を医療機関・薬局が閲覧できるようになりました。これにより、お薬手帳を持っていなくても処方情報の共有が可能になりつつあります。
ただし現時点では次の点に注意が必要です。閲覧できるのはマイナ保険証で受診した医療機関での処方情報のみです。登録されるまでに時間差があり、直近の処方が即座に反映されないこともあります。患者さんが情報提供に同意している必要があります。医療機関・薬局のシステム対応状況によって利用できない場合があります。
現時点では、お薬手帳(紙または電子)とマイナ保険証の両方を活用することが最も安全です。
「ふだんは面倒くさいからお薬手帳は持ち歩かない」という方でも、災害が起きてから後悔するケースがあります。
東日本大震災・熊本地震・能登半島地震などの大規模災害の経験から、お薬手帳の重要性は繰り返し指摘されています。
災害時にお薬手帳がないと起こること:
お薬手帳があると:
災害医療の現場に関わった経験から言えば、お薬手帳一冊が患者さんの命を守ることがあります。日頃から持ち歩く習慣をつけておくことを強くお勧めします。
① 必ず全部の薬を記録する
「市販薬だから書かなくていい」は危険な思い込みです。市販の解熱鎮痛薬・胃薬・サプリメントなども薬局で伝えることで、重複や相互作用のチェックに役立ちます。
② どこに受診するときも必ず持参する
内科・整形外科・歯科・眼科・皮膚科——どの診療科でも必ず持参してください。「この病院は関係ないから」と思いがちな専門科でも、抗菌薬・ステロイド・鎮痛薬など複数科で重複しやすい薬はたくさんあります。
③ ふだんから持ち歩く
受診日だけ持って行くのではなく、財布や鍵と同じように毎日持ち歩く習慣をつけることが大切です。事故・急病・災害はいつどこで起きるかわかりません。バッグの中・スマートフォンのアプリとして常に携帯しておきましょう。
Q:お薬手帳は何冊も作っていいですか?
A:原則として1冊にまとめることが大原則です。病院ごと・薬局ごとに別の手帳を作ってしまうと、全体の薬が把握できなくなります。「この薬局でもらったから別の手帳に」ではなく、どこに行っても同じ1冊を使い続けてください。
Q:お薬手帳の発行に費用はかかりますか?
A:お薬手帳への記録(薬剤服用歴管理指導料)は保険適用の費用に含まれています。手帳自体は多くの薬局で無料配布されています。電子お薬手帳アプリも多くは無料で利用できます。
Q:薬局でお薬手帳を断ると安くなると聞いたことがありますが?
A:かつては手帳なしで受け取ると調剤報酬が減算される制度があり、「手帳なしの方が安い」という情報が広まりました。しかし現在の制度ではこの差は縮小・解消されており、健康・安全の観点から手帳を活用することを強くお勧めします。
Q:お薬手帳に記録されている薬が古くなったらどうすればいいですか?
A:薬が変わった・やめた場合は、次回薬局を受診した際に薬剤師に伝えてください。手帳に「〇年〇月中止」と書き添えてもらえます。古い記録も副作用歴・アレルギー歴の参考になるため、消さずにそのまま残しておくことをお勧めします。
Q:手帳をなくしてしまったらどうすればいいですか?
A:かかりつけ薬局に相談すれば、過去の調剤記録から薬の情報を再発行・再記録できる場合があります。また電子お薬手帳を並行して使っていれば、データはアプリ内に残っています。
高齢者は複数の診療科にかかり、多くの薬を服用していることが多いです(ポリファーマシー)。認知症が進むと、自分でどんな薬を飲んでいるかを伝えるのが難しくなります。
お薬手帳をご家族が一緒に管理することで:
「高齢の親のお薬手帳、最後に確認したのはいつですか?」——服薬指導の現場でよく感じる問いかけです。
お薬手帳は「面倒くさい」「どうせ使わない」と思われがちですが、実際に現場でその価値を実感する場面は数えきれません。
「お薬手帳があったから危険な飲み合わせを防げた」「災害の避難所でお薬手帳があったから薬がスムーズに届いた」——こうした経験が積み重なるほど、この小さな手帳の大切さを改めて感じます。
薬剤師として最も伝えたいことは一つです。**お薬手帳は、使う人が多ければ多いほど、医療全体の安全が高まります。**あなた自身のためだけでなく、あなたを診る医療者のためにも、ぜひ活用し続けてください。
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